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くらし

「辛い記憶を忘れようとする」と、かえって悪化する心理学的な理由

塚本亮(株式会社トモニツクル京都山城代表取締役)

2024年05月31日 公開

誰しも調子の良い時もあれば、悪い時もあるものです。ネガティブな感情で頭がいっぱいで、仕事もプライベートも何をやってもうまくいかない...そんな日もあるでしょう。いち早く「余計なストレス」を排除して、生産性を落とさないためにはどうしたら良いのでしょうか? 塚本亮さんが語ります。

※本稿は塚本亮著『要領よく成果を出す人は、「これ」しかやらない(PHP研究所)より、一部を抜粋編集したものです。

 

「負の感情」を制御して、生産性を下げない

ネガティブな感情にとらわれて、仕事が進まず、プライベートも楽しくないときがあります。気分の波は誰にでもありますが、要領のいい人は、どのように負の感情をコントロールしているのでしょうか?

 

・「ネガティブな感情」を避けるほど、ネガティブになる

気分の波は、誰にでもあります。調子のいい日は、気分が乗り、前向きにさまざまなことに取り組めますが、そうした日々がずっと続くことはありません。不安や悲しみ、落胆、苦しみなどのネガティブな感情に心がとらわれることは珍しくありません。

特に、多くのことにチャレンジしているときは、なおさらです。むしろ、うまくいかないことのほうが多く、負の感情に振り回されがちです。一定の周期で訪れるネガティブな感情との付き合い方は、生産性を維持するうえでも非常に重要です。

多くの人は、負の感情を早く解消したいと考えますが、実はこれは間違っています。ネガティブな感情をなんとかしようとしすぎて、かえってそれを増大させてしまうのです。

リバウンド現象をご存じでしょうか。心理学ではよく知られている概念で、落ち込んでいるときや辛いとき、悲しいときに無理に明るく振る舞おうとするほど、ネガティブな感情が強くなってしまう現象のことです。

ネガティブな感情を避けるほど、その感情に意識が集中してしまいます。早く立ち直らなければいけない、悲しい顔をしている場合じゃない─。そういった真面目な性格が、逆に自分を追い込んでしまうのです。「シロクマのジレンマ」という実験もあります。

アメリカの心理学者ダニエル・ウェグナーが行ったこの実験では、シロクマに関するビデオを見せた後、シロクマを考えないようにと指示したグループが、逆に一番シロクマを思い出していました。これは、何かを意識的に避けようとすることが、実際にはその対象をより強く意識することにつながることを示しています。

ですから、仕事で大きなミスをしてしまったとき、失恋などプライベートで辛い思いをしたとき、そのことを無理に忘れようとはせずに、負の感情もそのまま受け入れてしまいましょう。悲しいときは悲しみに浸ひたり、辛いときは辛さを受け入れることが大切です。

また、感情を抱え込まずに、信頼できる友人や家族などに心境を吐露することも効果的です。人に話すことで、心が軽くなります。

また、負の感情も吐露することで、心のなかのモヤモヤが解消され、感情の正体をより具体的に理解することができます。ストレスフルな現代を生きる我々にとって、感情のコントロールは自己管理の一部です。負の感情との健全な付き合い方を理解し、実践することは、現代人の必須教養といっても過言ではないのです。

ですが、ひとたび感情のコントロールをマスターすれば、個人の精神的健康を保ち、長期的な成功への道を拓くことができます。困難な状況でも負の感情に振り回されない能力を身につけることで、挑戦が苦にならなくなるからです。

そのためにはまず、ネガティブな感情を受け入れて、その感情に蓋をしない。これだけ実践してみてもらえればと思います。

 

「運の波」がこないときは、立ち止まる

何をやってもうまくいかない。そんなときは、1回「クールダウン」することが大切です。運が自分に向いていないときには、攻めるよりも体勢を立て直すほうが先。「力の入れどころ」が変わるのです。

 

・人生には、「攻め」と「守り」の時期がある

仕事やプライベートで物事がうまく進まないときは、誰にでもあります。すごくストレスが溜まりますよね。世の中から見放されたのではないかと感じるくらい、自分だけが空回りしているように感じます。

人生って、「潮の満ち引き」みたいなものです。時には波が寄せてきて、いろんなチャンスや喜びが自然とやってくる時期がある。これが満ち潮のとき。すべてが順調に感じられ、人生が輝いて見える瞬間です。

一方で、引き潮の時期もあります。物事が思い通りに進まなかったり、ちょっとした挑戦や困難の波が訪れることも。そんなときは、ちょっと立ち止まって、自分自身と向き合ったり、これからのことをじっくり考えるいい機会です。

人生における満ち潮は、攻めの時期。どんどん思うことをやればいいでしょう。一方で、なぜかうまくいかないことが続くような引き潮は、守りの時期。満ち潮のときとは「力の入れどころ」が変わります。

大丈夫です。チャンスは必ず来ます。「攻め」と「守り」の流れは自然や人生のリズムと同じで、いつも変わり続けます。このサイクルを受け入れることが、何より大切なのかもしれません。

スポーツの試合では、こうした「流れ」がよくわかりますね。ゲーム中、どちらか一方のチームにずっといい流れが続くわけではありません。時にはチームがチグハグになったり、相手に攻め込まれる苦しい時間帯もあります。

そんなとき、焦って無理に攻めようとするのは避けたほうがいいのです。焦りからミスを連発することもありますし、それによって蟻地獄にハマっていくこともあります。

そういう厳しい時間帯は、我慢の時間だと思って、まずは冷静になって、体勢を整える。相手に点を取られないことを最優先にしましょう。自分たちのペースを取り戻すためにも、守りを固めて、じっくりとチャンスを待ちます。チーム全体で冷静になって、一致団結することが、試合を好転させるきっかけになるものです。

 

・うまくいかないなら、「1回流れを止めてみる」

うまくいかないときに、状況を変えようと新しいことを始める人がいますが、私はこのアプローチは基本的に避けるべきだと考えています。

なぜなら、攻めたところで、成果につながりにくい時期だからです。こういうときは、いっそ「今の流れを止めてみる」が正解です。「なぜ、うまくいかないのか」という振り返りや分析をすることが先決なのです。

多くの人が、何かをやめることに対して不安を感じたり、罪悪感を持ったりするものです。これはビジネスにおける「サンクコスト」の概念に似ています。サンクコストとは、一度投じたコストが回収できずに失われることを意味し、「もったいない」という気持ちから、一度始めたことをやめるのが難しいと感じる心理状態です。

しかし、重要なのは過去にとらわれず、現状をゼロベースで見直し、新たな視点で物事を考え直すことです。うまくいっていない状況を解消するためには、問題点を放置するのではなく、まずはそれに対処することが必要。何かを始めることは比較的容易かもしれませんが、時にはやめる勇気も必要です。

私自身、好奇心が旺盛で新しいことに挑戦するのが好きです。いい波が来ているときは、すべてがうまくいき、挑戦が楽しく感じられます。しかし、波が悪いときは、どうしてもうまくいかず、苦しい思いをすることもあります。そんなときは、我慢の時期だと考えて、何がうまくいかないのか原因をしっかり特定することに時間を費やします。

そして、問題の原因となっていることからは、思い切って撤退します。いいときもあれば、悪いときもある。いいときは、思いっきり挑戦して、悪いときには決して無理をしない。このメリハリが重要です。

うまくいっていない原因を理解し、それに対処することで、次の挑戦に向けての準備ができます。
好奇心を持って新しいことに挑戦するのは素晴らしいことですが、同時に、うまくいかないときには、冷静に現状を分析し、必要なら撤退することも、大切な学びと成長につながる一部です。

 

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