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海外で、醤油は飲むもの? 寿司職人が目撃した「米をソースに浸す」文化

小川洋利(寿司職人)

2024年07月26日 公開

寿司職人の小川洋利さんは、日本のすし文化を全世界に広めるため、世界50カ国以上にわたって、すし指導員として外国人シェフに調理指導をされています。本稿では、小川さんが海外で目撃した「驚きのSUSHI事情」について、書籍『寿司サムライが行く! トップ寿司職人が世界を回り歩いて見てきた』からご紹介します。

※本稿は、小川洋利著『寿司サムライが行く! トップ寿司職人が世界を回り歩いて見てきた』(キーステージ21)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

数多くの飲食店から一瞬にして抜け出す「SUSHI」の看板力

日本では、寿司はみんなが好きというイメージがありますし、今は回転寿司やお持ち帰りなどで、手軽に食べられる時代になりました。寿司にもランクができてきましたね。冠婚葬祭でしか食べられないくらい高級だった寿司が、最近ではスーパーでも手頃な値段で買うことができ、手軽に食べられるようになっています。

日本人にとって、寿司は「日常的なもの」「手頃なもの」という方向に進んできています。海外では寿司と言うとまだ高級なイメージがあります。「SUSHI」という看板があったら、「この店高いんだ!」と感じてしまうようです。

逆に世界文化遺産としての「和食」は、残念ながら海外ではまだ広く認知されていないようです。日本の政府が和食を日本食全般という意味で登録したのですが、和食の定義が海外では理解しづらいようです。しかしながらSUSHIはどこの国に行っても認知度が高く、世界の共通語といえるほどです。

最近、海外でよく見かけるのは、SUSHIと書いてある看板です。そのSUSHIとは何かというと、カリフォルニアロールや手巻きのこと。にぎりでなくても、寿司は寿司だという感じで、少しだけでもメニューに置いている。コーヒー屋さんなのに、メニューに軽くカリフォルニアロールを入れるだけで、看板に「SUSHI&COFFEE」という文字を入れるのです。

東南アジアなどでもそうですが、SUSHI&CURRYとか、SUSHI&PIZZAとか、なぜかSUSHIを入れたりします。とくに、中国人は商売上手なのでCHINESE&SUSHIみたいに、本当によくSUSHIを使います。中華料理屋だけど、少しだけ寿司を置くことによって「SUSHI」を看板にすることができて、そのことでランクが上がって、お金が取れるというイメージがあるようです。

地元の方から、寿司には高級なイメージがあるので「SUSHI」を入れることでブランド化されるというのを聞いて、これは面白いと思いました。それだけ「寿司」という魅力、影響力というのは強いのだなと。

 

「つけるもの」から「飲むもの」へ!? 進化し続ける海外の醤油

お米は基本的に大きく分けて短粒、中粒、長粒と3種類あります。短粒種は主にジャポニカという日本でよく食べるお米。中粒種は、カリフォルニア米みたいな中くらいの長さのお米です。

あと、長粒種は、インディカ米といってタイ米みたいな長細い米です。寿司飯に最適な米はうるち米(短粒種)です。炊くとしっかりした形を残しながら、やわらかく粘りがでます。また、かむほどに味わいがあり、甘味があります。

日本古来の米作は水稲で作られています。カリフォルニア米のような中粒種の米は陸稲が多い。主にアメリカ、オーストラリアで栽培されます。昔は水分も少なく、パサパサでしたが、ここ近年、品種改良されて中粒種も炊くと粘りとツヤがでるようになり、寿司にも適しています。

一方で、インディカ米など長粒種とよばれる細長い品種は、粘りが少なく、寿司飯には適さない。こういうパサパサした米は、ソースを絡めたり、チャーハンなど味をつけるものに適したお米です。

海外では、どちらかというと長粒種を食べている国が多いです。なぜかというと、白いご飯を食べる習慣がないので、必ずソースなど味をつけて食べるから。

海外では、寿司を作ってもソースなどで何か味をつけないと食べられない人が多い。そうすると、寿司でも、シャリにたっぷりと醤油をつけて食べます。もう、醤油の味しかしないくらい。私たちが見たら食材のうまみどころじゃない。そうなるのは、ソースを米に絡ませるという習慣があるからです。塩分が強いため体にはよくありません。

海外では醤油は結構値段も高く、しかも塩分が強いから、たくさん使うと喉も乾きます。ヨーロッパの寿司を扱っているお店では、醤油を水でうすめているところもあるそうです。私も以前、ヨーロッパの寿司店でお寿司を食べたときに、何か醤油がうすいなと思って、店員に聞いてみると「水で割っている」と言うので、驚いたことがありました。

醤油たっぷりにワサビを溶かして、シャリにたくさんの醤油をベタベタつけて食べる。そのような食べ方を海外ではよく目にします。

また、なかには、深めの小皿に醤油をたくさん入れ、その中にお寿司を入れてお茶漬けみたいに食べる人も見かけます。お客様一人で、醤油一瓶分が空になってしまうほど......。醤油が、つけるものではなくて飲むものになっているようです。

 

にぎりは一分あればマスターできる? 驚きの○○を使ったにぎり寿司

海外で最近少しずつ、にぎりに対する興味をもってくれるようになってきましたが、まだ、ごく一部のお店だと思います。ほとんどの国がにぎりというものに興味がない。

みんな寿司といったら巻物で、巻物を綺麗に盛って、ソースをかけて色づけするのが、海外の寿司の主流。おしゃれでモダンな寿司です。一個のにぎりはとてもシンプルだから、海外の人からすると「誰がやっても一緒だよ」と思うらしいのです。ご飯の上に魚がのっているだけのイメージしかない。

でも、私からすると、魚を切りつけるにしろにぎりにしろ、職人によって、全く味が違います。それがまだまだ海外で広まらず、型に入れて寿司を握っているところが多い。

「にぎりの作り方を教えて」と聞くと、「型があるだろ、下にマグロ入れるだろ、マグロの上にご飯を入れるだろ、ハイ型から取り外してにぎりだよ」という感じなのです。

 

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