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生き方

「他人の意見が気になって決断できない人」がやりがちな脳の使い方

枡田智(森林療法士・マインドフルネス瞑想指導者)

2024年07月02日 公開 2024年12月16日 更新

不安で憂うつ、イライラ、頑張ってもなぜか空回りばかり――。誰もが忙しい日々を送る中で、「生きづらさ」や「メンタルの悩み」を抱えている人は多いと思います。自身もそんな悩みに長年苦しんできたという枡田智さんは、メンタルが不安定になる原因は「左脳と右脳の使い方」が関係しているとしています。

※本稿は枡田智著『瞑想メソッドで始めるメンタル強化法 もう“左脳”に振り回されない』(大和出版)より、一部を抜粋編集したものです。

※左脳・右脳の特徴については、ジル・ボルト・テイラー博士の『奇跡の脳』の内容がベースになっています。

 

「左脳」に束縛された日々を送る現代人

現代社会を生きる私たちは、様々なシーンで「論理的に考えて明確な言葉で説明する」ように求められます。

こうした論理的思考を司るのが、左脳です。言葉を理解して会話や文章を作るのも、未来を予測するのも、左脳の働きです。時間を認識して出来事の前後関係を判断するのも、AとBは一緒、AとCは別というように物事を分類するのも、すべて左脳の働きです。左脳の働きがなければ、私たちは変化する社会の中で生活することが難しくなります。

しかし、思考はあらゆることをよいか悪いか、損か得かで判断し、矛盾や失敗に強く反応します。また、正しさや効率を過剰に追求するという側面があります。

左脳が優位になりすぎると、後悔や心配事が増えたり、必要以上に自分と他人を区別する傾向が強まったり、「他人が思う自分」に思考を巡らせたりして、不安や悲しみ、怒りがわいてくるようになります。物事の正誤や成功・失敗を判断するのも左脳の働きですから、失敗のないようにコントロールしようするほど、不安に駆られて苦しくなっていきます。

一方の右脳は、物事を細かく分けずに全体として処理することが得意で、雰囲気や空気感など、言葉にできない感覚を感じ取ります。言葉では表現しづらい美しさ、感動、美味しさ、安らぎといったフワフワした感覚を処理するのも右脳の役割です。

人間がより良く生きていくためには、左脳・右脳どちらの働きも大切で、本来は自分にとってちょうどいいバランスを保つことが必要ですが、現代はそのバランスが崩れてしまっている人が増えています。

 

つらい感情や思考が気にならなくなる方法

ここからは、「思考」に偏りすぎた意識を「感覚」に切り替える方法をいくつかご紹介します。

思考(左脳)に偏りすぎた意識を感覚(右脳)に切り替わると、「生きづらさ」の元となるネガティブな思考や感情に苦しむことが減り、「生きやすく」なります。

少し抽象的な話になりますが、意識が思考モードにある時は、自分の意識を包む殻が狭く固く閉じていて、自分と外の世界との境界が分厚い状態になります。一方、意識が右脳モードに変化すると、自分の意識を包む殻が広くゆるく開いて、境界が薄い状態になります。

つらさや怒り、悲しみといったネガティブな感情を抱えた時、「狭く固い意識」だと意識の中がネガティブな感情でいっぱいになり、いつまでも不安が消えません。

これが「広く開いた意識」になると、余白(スペース)があるために、ネガティブな感情があってもそれほど気にならなくなり、やがてそれは広いスペースに発散され、徐々に溶けて消えていきます。怒りや不安が起こらないというよりは、起きても消えるのが早いのです。

ネガティブな感情自体を変えようとするのではなく、ネガティブを内に含んだまま、意識を広くゆるく開いていく。そうすれば、ネガティブに直接アプローチしなくても、あるいは悩み自体が解決していなくても、いつのまにか気にならなくなるのです。

実際に、感情をスペースに発散させる練習をしてみましょう。ただし、メンタルの調子が悪い時は、ダメージを受ける可能性があるので、くれぐれも無理はしないでください。

(1)ネガティブな感情の起こることを、考えたり思い出したりしてみます。軽めのものでいいです。あまり重いものはやめましょう。

(2)その感情をただ感じます。分析したり、原因を探ったり、理由づけをしたりはしません。その感情が体のどこで感じられているのか、どんな質感、どんな大きさなのか。例えば、胸の辺りに重い感覚があるなど、そういったことを感覚的に感じます。

(3)その感情を消したり抑え込んだりせず、そのままにして、意識を広くします。例えば、部屋全体を広く眺めて、部屋全体に意識を広げるようなイメージです。屋外なら、空を広くながめたり、遠くを眺めたりして、意識を広くしていきます。

(4)広い意識のままで、自分の感情がどうなっていくかを、やさしく観察します。

いかがでしょうか。ネガティブな感情が強いと薄まるのに時間がかかりますが、焦らずゆっくり発散させていきましょう。

 

他人に振り回されない方法

いつも他人の意見に惑わされて、なかなか決断できない。他人にすぐ影響されて、振り回されてしまう。個性が尊重されるようになった現代でも、そんな悩みを抱えている人は意外と多いと思います。

実は、この悩みも左脳モードの過剰が大きな原因です。他人に振り回されたり、影響を受けすぎたりしてしまうのは、「自分の感覚を信じられていない」ということです。

例えば、友人とラーメンを食べに行き、自分は美味しいと感じたものの、店を出た途端、友人が「この店はまずい」と言ったとします。この時、自分軸がない人は友人の言葉に影響を受けて、「自分が美味しいと感じたのは何かの間違いだったのではないか」と考えてしまいます。

しかし、本来、味覚は人それぞれです。友人が「まずい」と言ったとしても、自分が美味しいと感じた感覚は紛れもない事実であり、間違っているなんてことはありません。友人の「まずい」いう言葉は単なる情報にすぎず、友人が感じたまずさを自分が味覚として感じたわけではないのです。

友人の「まずい」という言葉は一つの情報であり、あなたの「思考」に取り込まれたものです。あなたの「感覚」ではありません。その思考と、自分が舌で実際に味わった美味しさの感覚、どちらを優先するのか。ここに、他人に振り回されないためのヒントがあります。

思考が強い左脳過剰な状態だと、情報としての思考が勝ってしまい、自分の感覚が負けてしまいます。左脳が静まり、右脳が活性化していると、外から入る情報にはそれほど影響を受けなくなり、自分が体験したことや感じたことが大きな位置を占めるようになります。

自分軸がしっかりしている人は、自分の考えに強くこだわり、それを曲げない人、というわけではありません。自分が五感で体験したことをしっかりと感じ取り、素直な心でそれを大切にできる人です。

人の意見は、自分にとってはただの情報(思考)であって、リアルな感覚体験とは違う。大切なのは、自分が感覚で体験したことを感じ取り、それを大切にすること。そこをきちんと理解していれば、自分軸をしっかりと持てるようになるのです。

 

著者紹介

枡田智(ますだ・あきら)

森林療法士・マインドフルネス瞑想指導者

上智大学大学院で物理学と情報工学を学ぶ。修了後、大手メーカーで新規技術の開発に従事し、特許を多数取得。その一方で、長年メンタル不調に悩まされていたが、本書で述べるあるきっかけから、たった3日で不調から脱出。
その後、森林療法を学ぶとともに、アメリカで著名なマインドフルネス瞑想の指導者に師事し、数年間かけて、瞑想の理論、実践、指導方法を修得し、独立。これまで1000名以上に瞑想を指導。
元理系研究者のスキルを活かし、わかりにくい瞑想をクリアに図解・言語化し、「とにかくわかりやすい」「あいまいさがなく明快」「他講座でわからなかったことがすんなりとわかる」と高い評価を受けている。

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