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親の老いと向き合って初めて分かった...「老後に本当に必要な準備」とは?

工藤広伸(介護作家)

2026年04月03日 公開

12年以上、親の介護を続ける工藤広伸さん。介護を通して、老いていく親の姿を間近で見ていると、日々の生活がいかに変化していくかを実感したといいます。

工藤さんの著書『老いた親の様子に「アレ?」と思ったら』より、介護から得た学びについて話した一節をご紹介します。

※本稿は、工藤広伸著『老いた親の様子に「アレ?」と思ったら』(PHP研究所)を一部抜粋・編集したものです。

 

親の老いを通して自分の老後を予習する

【K】結局、親が倒れてからではなく、元気なうちから親の老いについて考えるって、どういうことだと思いますか?

【くどひろ】老いていく親に、自分の未来を重ねることだと思います。親の老いを通して、自分がこれからどうなっていくかの予習ができるんです。

【K】自分の老後の予習ですか?

【くどひろ】はい。母の老いていく姿を間近で12年以上も見ていると、毎日いろいろな発見があります。それって、介護を経験する前の自分にはなかった発想だなと。

【K】たとえば、どんなことですか?

【くどひろ】母は足が不自由なので、いっしょに外出するとき、わたしは母と腕を組んで歩いています。当然、母にスピードを合わせないといけないので、ゆっくり、ゆっくり歩くしかありません。しかも、歩ける距離が限られているので、わたしの足なら5分で行ける歯医者に、わざわざタクシーで通院しているんです。

【K】それは大変ですね......。

【くどひろ】はい。タクシーを呼ぶ手間もかかるし、車が来るのを待つ必要もある。わたし1人なら歩いてたったの5分でお金もかからないのに、母といっしょだと20分もかかるうえに、毎回1200円もかかってしまうんです。

【K】わたしなら、イライラしてしまいそうです......。

【くどひろ】ですよね。でも、あるとき、ふと思ったんです。ささいな行動の1つひとつに時間と労力、お金がかかる母の姿は、30年後の自分の姿なんだと。

【K】くどひろさんが、ちょうどお母さんくらいの年齢になったときの......。

【くどひろ】そうです。そう考えると「この経験は無駄じゃないな」と思えたんです。Kさんが「親の歩くスピードが遅くなった」と話してくれましたが、わたしは普段から母の歩くスピードを自分の体で実感しているので、80歳になったときの自分の歩く姿をはっきりイメージできます。しかも、自分の親だから、どこか遺伝する部分もあると思っているので、よりリアルに。

【K】まるで、お母さんの老いを追体験している感じですね。

【くどひろ】まさに、そんな感じです。それに母は重度の認知症なので、わたしが代わりに病院の手続きや薬の準備などをやっているんですが、まるで自分の病気や薬の種類が増えているような感覚になります。

【K】病気や薬までリアルに......。

【くどひろ】母自身も若いころのように動けなくなった自分にもどかしさを感じていて、その気持ちがよくわかるので、本当にいい勉強になりますよ。

 

こうやって人は老いていく

【くどひろ】ほかにも、家の間取りやつくりにも目が向くようになりました。これも、未来の自分の住まいについての予習になります。住まいの購入を考えている人にとっては大きな判断材料になると思いますよ。

【K】たとえば、階段ののぼりおりとかですか?

【くどひろ】わかりやすいのは、そうですね。だんだん上下の移動が難しくなって2階にあがれなくなり、1階で過ごす時間が長くなっていきます。家の玄関も同じで、大きな段差があると手すりにつかまってあがるしかなくて苦労するんです。

【K】普段、わたしが意識もしないようなことが、歳をとるといちいち壁になって、目の前に立ちふさがるわけですね......。

【くどひろ】はい。それに、苦労するだけでなく、たった数センチの段差が、ときに命とりになることもあります。実際、つまずいて転倒する母の姿を何度も見てきましたから。

【K】段差のない家や平屋がブームになっていると聞きますが、老いた体への負担を減らすことを考えた結果なのかもしれませんね......。

【くどひろ】そうですね。加齢によって身体機能が衰えると、行動範囲もどんどん狭くなっていくんです。そうなると、さらに筋力が衰えて、立ちあがるのが難しくなります。なので、母には小さなお願いをよくしているんです。

【K】小さなお願い?

【くどひろ】はい。たとえば、「タオルたたんで」とか「お皿洗って」とか。少しでも母が動ける機会をつくって、筋力の維持に努めています。何気ない日常生活のすべてが、リハビリになりますからね。

【K】へ〜、そういうものなんですね。

【くどひろ】老いを遅らせるこうした試みも、いつか自分の体が動かなくなったときに役に立つと思っています。親の老いと向き合ううちに、未来の自分に活かせる情報をたくさん収集できるんです。それに、自分の老いを受け入れる準備にもなりますよ。

【K】親の老いではなく、自分の老いを?

【くどひろ】はい。だれしも、自分の老いを受け入れるのって簡単ではないと思うんです。特にビジネスパーソンのみなさんは、アスリートほど明確に衰えやパフォーマンスの低下を感じるわけではないので、余計に自分の老いを把握しづらいんです。

【K】たしかに。わたしも少しずつ老いを感じてはいますが、「まだまだ若い。ちゃんと仕事をこなせているから大丈夫」と思っているところがあります(笑)。

【くどひろ】そうですよね。いつまでも若くいたいという気持ちも大切ですけど、自分の体力や身体機能の低下を少しずつ受け入れることも必要です。じゃないと、運動会で転ぶお父さんみたいになりますから(笑)。

【K】はは(笑)。頭のなかのイメージではめちゃくちゃ速く走れているのに、体のほうがついていかなくて、大けがするやつですね。

【くどひろ】それです(笑)。親を通して老いを疑似体験しておくと、「人は、こうやって老いていくのか」ということが理解できて、自分の老いを客観的に見つめられるようになりますよ。

 

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