
「キャリアコンサルタントの仕事」の範囲は、明確に定義されていません。名称独占資格であるため、倫理綱領に反しない限り、どのような働き方を選んでも問題なく、仕事の内容も自由です。
しかし、自由度が高過ぎることが、かえって「何をすればいいのか?」という迷いを生み出しています。スモールビジネス構築コンサルタントの森田昇さんは、仕事内容を自ら決定するためには自己理解が必要だと語ります。森田さんの著書『キャリコン1年目の教科書』より、キャリアコンサルタントが道を迷わないための質問を紹介します。
※本稿は、森田昇著『キャリコン1年目の教科書』(インプレス)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
「探求の螺旋」を一巡させる
「私たちの仕事を決める前に、まず自己理解から始めたいと思います。自分の好きなことや強み、価値観についてアセスメントツールなどを使ってじっくり内省しないと、自分に合った仕事もわからないでしょう?」と、自己理解を徹底的にやりたくなる人もいるかもしれませんが、それでは行動に移れません。
何をしたらいいのかわからない状態から抜け出すことができず、ずるずると時間だけが経ってしまいます。その結果、仲間内でのロープレに留まることも少なくありません(ロープレを否定しているわけではないです、念のため)。
自己理解から始めるのは確かに正しいです。正しいのですが、それだけに集中するのではなく、次の仕事理解・啓発的経験までの「探求の螺旋」を超高速で一巡させることが何よりも重要です。
なぜなら、資格を取得した後に動けない人は「キャリアコンサルタントの仕事」に対する解像度がまだ低く、どのような仕事がやりたいのか、何が求められているのか、どのような価値を提供できるのかが、まだハッキリと見えていないからです。
有識者からキャリアコンサルティングを受けるのが一番手っ取り早いですが、相談内容も曖昧なままでは、それを紐解くだけで時間がかかりますからね。「キャリアコンサルタントの仕事」というものの解像度を上げるためには、自己理解の次のステップである仕事理解を進めなければなりません。
仕事理解とは職業・職務、キャリア・ルートの種類や内容を理解することですが、ただネット検索する、生成AIに聞いてみる、養成講座の同期に相談する、だけでは十分ではありません。時間がかかるうえに、得られる情報も断片的です。
そこで、次の啓発的経験も組み合わせます。キャリアの選択や意思決定の前に、インターンシップや職場見学、職業訓練、ボランティア活動などへの参加で一通り仕事を体験してみるのが啓発的経験ですが、経験することで自己理解と仕事理解がより深まり、早期に具体的な行動に移ることが可能となります。
実際に見て、聴いて、やってみることで、仕事が自分に合っているかどうかの判断もできるようになるのです。
転職も就活も同じように、自己理解から始めるのは正しいアプローチです。ですが、仕事理解と啓発的経験が伴わない自己理解は不完全であり、危険です。特に、未経験の仕事が自分に合っているかどうかは、実際に経験してみなければわからないものです。昔の私も自己理解ばかりして迷宮入りしていたことがありました。
そこで学んだのが、とにかく「探求の螺旋」を一度回してみることの重要性です。自己理解の段階に留まることなく、仕事理解と啓発的経験もセットで「探求の螺旋」をまずは素早く一巡させます。その具体的な方法を、順を追って解説していきます。
自己理解はサラッとでいい
当たり前の話ですが、数ある資格の中で国家資格キャリアコンサルタントを取得しようと思った理由や動機があると思います。まずはそれを思い出してみてください。というより、「探求の螺旋」の一巡目の自己理解はそれだけで十分です。
では、最初の質問です。印刷した質問集にペンで書いてみましょう。
【Q1】あなたがキャリコンを目指した理由は?
養成講座へ通うなど勉強を進めていくうちに、意外と忘れてしまいがちなのは、「なぜ目指したのか」という原点です。
養成講座では、キャリア理論を代表とする膨大な知識やキャリアコンサルティングの技術を身につけることに四苦八苦し、資格取得に向けた勉強が進むにつれて、当初抱いていた「キャリコンになりたい理由」や「目指したきっかけ」が、つい後回しになってしまいます。
さらに、キャリア理論を学んでいるうちに、自分自身のキャリアを深く考え込んでしまい、「誰のために、何のために キャリコンを目指しているのか」という大切な目的が埋もれてしまうこともあります。
こうした原点を見失うことは誰にでも起こり得ることです。だからこそ、「なんでこの資格を取ろうと思ったんだっけ?」と時折振り返ることが、自分ごととして「キャリアコンサルタントの仕事」を定義し、進むべき道を明確にするための大きな助けになります。
逆に、きっかけが「業務命令だったから」とか「会社の資格手当が欲しかったから」だとしても、それで全然構いません。学んでいる間に、自分のキャリアについて考える時間がたっぷりあったはずですし、考えているはずです。「この資格を活かして何かやってみようかな」と思い始めたのなら、それを理由にしてOKです。それが最初の一歩ですし、それで良いのです。
ちなみに私がキャリコンを目指した理由は、中小企業診断士の活動に活かすためでした。「中小企業診断士の活動をするなら、社長と話す機会が増える。社長って話好きだから、聴くスキルを磨くといいよ。そんな国家資格があるって知ってる?」これ、某社会人予備校の中小企業診断士の講師仲間からもらったアドバイスです。
それで興味を持ち、養成講座に通い始めたら、その講師が実はキャリアコンサルティング技能士2級を持っていて、担当講師だったというオチ(今となっては感謝しかありませんが、当時は「これは売り込みだったのか?」なんて思いましたね)でした。
あと2つ、質問を加えます。
【Q2】3年後、どのような自分になっていたいですか?
【Q3】1年後、どのような自分になっていたいですか?
Q1だけでも十分だとは思いますが、キャリアをデザインするうえでは、中期的な目的を定めることも大切です。この2つの質問にも、ぜひ答えてみてください。質問を3つ合わせても30分かからないと思いますので。
3年後の自分なら、何となくイメージが湧くのではないでしょうか。一般的なキャリアデザイン研修では「5年後、あるいは10年後」まで考えさせることが多いのですが、この変化の激しい時代においては、5〜10年後を予測・想像するのが難しくなっています。生成AIをはじめとするデジタルツールの進化が目覚ましく、未来は大きく変わり得るからです。
中学や高校時代を思い出してみてください。3年というのはあの頃、十分長く感じられましたよね?3年後の自分の姿を想像するだけでも、遠い未来のように感じられるはずです。
不思議なことに、大人になると3年が短く感じてしまうものですが、少なくとも養成講座に通った時間は「すごく長かった!」と感じていると思います。本当に、長かった!