働いてはいるけれど、積極的に仕事に意義を見出していない「静かな退職」状態のビジネスパーソンが、日本にも浸透し始めているという。
そんな「静かな退職」を職場で全うするための後輩指導とは?雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏に解説して頂く。
※本稿は『静かな退職という働き方』(PHP研究所)より一部を抜粋編集したものです。
あんがい後輩は、丁寧な指導より「静かな指導」を望む
ここで、質問です。あなたがもし新入社員だったら、「親切が過ぎるほどで、やたらと細かく教える」先輩についてどう思いますか?
これは心理学的にも、またマネジメント則でもよく言われることなのですが、上司は親切なつもりでも、度が過ぎると、相手は以下の2つの反応をするのです。
①細かな「指導」にがんじがらめとなり、うまく行動できなくなる。
②「こんなわかり切ったくだらない指導、聞いてられるか」と見下すようになる。
どちらも経験があるでしょう。
家電の使い方マニュアルを読んだ時のことを思い出してください。事細かに書かれ過ぎていて、何をやればいいのかわからなくなりませんか?
「まず初めに電源を入れます」という指示を見て、「わかってるわ!」と読み飛ばしませんか?
部下も同じなのです。度を過ぎた指導(「何をやるべきか=What」の羅列という意味で"What"型指導と呼ぶ)は、効果が薄く、部下を疲弊させます。だから必要最小限の、ともすると「そっけない」指導で十分。それは「静かな退職者」の行動原則に合っているでしょう。
後輩指導「4つの鉄則」
ただ、必要最小限のそっけない指導をする際、注意すべきことが4つあります。
1つ目は「マナー」。
高圧的だったり、ぶっきら棒だったり、面倒くさがったり、といった態度は厳禁。それらが重なると、「そっけない指導」は「不親切」という心証に変化してしまうでしょう。
そう、ここでも心証点は大切です。指導は少なくても良いので、いつも笑顔。そして、丁寧な言葉遣い。決して怒気を含んではいけません。
これだけ注意すれば、後輩からは少なくとも嫌われることはなくなるでしょう。
2つ目は、「業績につながる可能性が高いこと」を集中的に伝える。これも「静かな退職者」の行動そのものですね。
過剰指導者はえてして「必要もないこと」や「極めて可能性の低いこと」まで指導し、その延長線上で「精神論」に及ぶことが多いのです。それは、部下の行動の成功確率を確実に下げ、頭を大いに混乱させるでしょう。
対して、「業績につながる可能性が高いこと」に絞ったスリムな指導は、その主旨を理解するのもたやすく、情報量も少ないから身につけやすく、そして、ある程度の業績が必ず上がります。
つまり、指導するあなたは楽をしているのに、相手の部下も満足できるという良き関係を築けるでしょう。
3つ目は、自分の「静かな退職」哲学をうまく伝えること。
「俺(私)は、合理的な人間で、うまくいく可能性が高いことに絞って仕事をする。やっておけば将来どこかで役に立つ、というような確率の低いことはしない。
そういう部分は教えられないが、仕事の中核である業績に直結した部分については、俺(私)から学べるはずだ。あとは、ほかの先輩に付いた時に、学んでほしい」旨、伝えておくのです。
そして4つ目。これが難しいのですが、「Way」で指導すること。
あれやれ、これやれと、細切れに多々言う指導法をWhat 型と言いましたね。対してWay型は「この通りにやれば、うまくいく」という、つまり”成功への道筋”を示す型の指導法を言います。
以下、事例で考えてみましょう。
WhatではなくWayを基本にする
たとえば新人に営業の仕方を指導する場合、以下のような教え方になりませんか?
先輩 「いいか、これからは週に50万円売れよ。それが目標だ」
新人 「それって、何をすればいいのでしょうか?」
先輩 「まず、1日に2件は必ず顧客訪問しろ」
新人 「そのためには、何をすればいいのですか?」
先輩 「30件は電話かけをしろ」
新人 「そのためには、何をすればいいですか?」
先輩 「50件リストを集めろ」
次々に「What」が出てきましたね。こうした指導をしていると、新人はその通りに行動したあと、こんな泣きを入れてくるはずです。
新人「先輩の言う通り50件リストを集めて、30件電話をかけましたが、1件もアポが取れません。どうしましょう...」
この場合、新人は先輩の言う通り行動しているのだから、文句は言えないでしょう。だから、先輩はこんな言葉を返すしかないはずです。
先輩「そうか、よく頑張った。じゃあ、明日からリスト集めを100件にしよう!」
こういうタイプの指導者は永遠にWhatしか出てこないのです。
一方、Way型の先輩の指導は、こんな感じになるはずです。
「いいか、30件電話をかけると4〜5件は、かつてわが社を使ってくれていたのに、今はライバルに逃げてしまった顧客が出てくるはずだ。
そうした時に、しっかりと、わが社のどこがダメだったか、聞け。相手は失望や怒りがあるから、それをぶつけてくれる可能性は高い。
それはお前の勉強にもなるから、本気で吸収し、感謝をしろ。そして最後に、こう言ってみろ。
『ありがとうございます。勉強になりました。ただ、それから3年も経って、わが社もだいぶ改善しました。今度、パンフレットをお届けさせてもらえませんか』」
この指導であれば、100%ではなくとも、かなりの確率でアポが取れるでしょう。
ではなぜ、この先輩はWhat ではなくWayを語れたのでしょう? その理由は、「確率の低いことを連綿とこなす」ことを指向せず、「うまくいく可能性の高い道筋」を追求し続けたからと言えるでしょう。
すなわち、Wayを語るという行為と、「静かな退職」は親和性が高いのです(まあ、ここまでできる人であれば、「静かな退職」よりもスピード昇進を選ぶかもしれませんが)。
面倒な仕事を後輩に渡すコツ
また、後輩には指導の一環として、自分が担当している「面倒な仕事」を渡すこともできます。
ただし、闇雲にこれをやると、「あの先輩は後輩に対して雑な扱いをしている」と、悪い評判がたちまち蔓延し、心証点を下げることにつながるでしょう。
なので、面倒な仕事をやってもらう場合には、前もって計画的に、いつ、どのような仕事を任せるかを伝え、その意義(この仕事をやっておくと、○○の能力が身につくなど)もしっかり示すようにしてください。
後輩から「飲みに連れて行ってほしい」と頼まれた場合、これは自由意志でイエス/ノーを示せばよいでしょう。後輩相手なら気を遣う必要もなく、自分のペースで話せます。
しかも、気兼ねなく断ることもできる。仕事ではなく、余暇の楽しみと思えるような相手であれば、もちろんOKすればよいでしょう。