ちょっとした息抜きのつもりで開いたSNSを見て、逆に落ち込んだり、イライラしてしまった...そんな経験はないだろうか。X(旧Twitter)、Facebook、LINE、Instagram...それぞれ性質の異なるSNSがメンタルに与える影響とは?睡眠医学やメンタルヘルスを専門とする精神科医が、SNSとのつき合い方で注意すべき点を解説する。
※本稿は、西多昌規著『休む技術2』(大和書房)より一部抜粋・編集したものです。
Twitter(現在のX)で頻繁に発信する中年層ほど孤独
現代では、一つだけでなく複数のSNSに登録して、用途によって使い分けている人が多いと思います。日本人が使っている代表的なSNSは、X(旧Twitter)、Facebook、LINE、Instagramあたりでしょうか。ユーザーの年齢層や使用目的について、SNSごとに特徴があります。
SNSとメンタルヘルスとの関係性も、急速に研究されるようになったテーマの一つです。SNSは国によって使われるツールが異なりますし、国民性もかなり反映されますから、外国ではなく、日本で行った研究を参考にする必要があります。
参考にするのにうってつけの研究結果が、東京都健康長寿医療センター研究所の桜井良太先生らによって論文化されました。結論は、メンタルヘルス状態はLINE利用者で良好であり、Twitter(現在のX)利用者はよくないというものでした。
都民2万1300人を対象としたアンケート調査です。これによると、若年者のSNSを利用するための機器の所持率はほぼ100%ですが、高齢者も62.3%はSNSを使っていて、全世代を通じてLINEを使っている人が多かったとのことです。
結果をまとめると、主観的幸福度は、若者はInstagramの閲覧、中高年はFacebookへの発信、高齢者はLINEでのやり取りと、それぞれ相関がありました。年代に応じてこれらのSNSを活発に利用することは、メンタルへルスに好ましいという結果です。また悩みや抑うつについても、同じ傾向がみられました。LINEのような家族、友達との連絡ツールとなっているSNSは、リアルでの関係がうまくいっている限りにおいては、現代に欠かせないコミュニケーションツールであることが、この研究でも示されています。
反対に、はまるほどメンタルに悪いのは、Twitterでした。幸福度、悩みや抑うつは、Twitterの頻繁な発信と関連がありました。中年層・高齢者層においてのみ、孤独感がTwitterの発信頻度と相関があったことは、誹謗中傷ばかりの投稿で暴れている匿名アカウントを見ると、なるほどという気がします。
たしかに、匿名での発信、やり取りが多いX(旧Twitter)では、攻撃性に富んだ誹謗中傷が問題となっています。
実名で発信している著名人が、あまりに度を越した人格批判や誹謗中傷に耐えかねて、メンタル不調だけでなく自殺に追い込まれることさえあるということは、胸が痛む、忘れてはならないリスクです。
「こいつ、いい思いしているな」「自分はそれどころじゃないのに」
このようなXの危険性を知っていても、わたしなどは貴重な情報源として、毎日何度も閲覧してしまいます。Xでの炎上騒ぎで、うつになったり眠れなくなったりする人からの相談を受けることもありますが、なかなかXはやめられない、アカウントを削除できないといいます。依存性、習慣性の強いものであると、やめられない自分を振り返っても、改めて思い知らされます。
Xは、あまりに攻撃的なアカウントは、ミュートにしてしまうのがいちばんです。ブロックすると、相手は拒絶されたと反応し、あの手この手でますます攻撃してくる可能性があります。
また投稿する際は、見ている人がどのような反応をするかを想像する必要があります。ムカついた情報に瞬時に反射的にツイートしたり、酒気帯びでのツイートは、危険です。動物の画像など適度に和むアカウントを織り交ぜながら、自分のタイムラインをメンタルにやさしいものにするのが賢明です。閲覧数を増やすために、炎上を故意に狙う人もいるかもしれませんが、これは自己責任でしょう。
Instagram、Facebookは、年齢層は異なるものの、日本人の場合は総じてメンタルによいという結果でした。リアルな友達とのコミュニケーションのよい補完になっていれば問題ありません。しかし高級ホテルやレストランの写真アップ、おしゃれな服を買った、子どもが難関校に合格したといった投稿は、本人にその意図はなくても、自身の優位を無意識のうちにアピールしている行動の可能性もあります。また、見ているほうも、「こいつ、いい思いしているな」「自分はそれどころじゃないのに」という嫉妬や羨望が生じてくれば、メンタルに好ましいとは言えません。
他人との比較、つまり「社会比較」は人間社会につきものですが、あまりに偏った強い社会比較は、自分をつらくするだけです。
オーストラリア、クイーンズランド大学の論文では、Facebookを5日間休むことで、ストレスホルモン(コルチゾール)の活動レベルが低下することが示されています。FacebookやInstagramで、他人に対する嫉妬や羨望を感じているのなら、リア充承認欲求がある人ほど非表示にしてみましょう。
SNSが普及する前は、他人との比較といえば、クラスメイトや同僚、ママ友など、せいぜい数十人でした。しかしSNSでは、ネットの向こうに何万、何十万人の人がいます。そんな莫大な数の人を相手に、いいねをもらいたい、悪く思われたくない、などと思い続けていれば、メンタルがキツくなるのは当然のことに思えます。
もちろん、タイムラインを整えることで、自分にとって聞こえのいい情報ばかりが並ぶようになり、価値観、思い込みがより強化されてしまう懸念はあります。しかし、客観的な批判と人格否定や暴言は、質が異なります。心を傷つけるようなアカウントは、ミュートにしてしまいましょう。これからの時代、心を整えるには、自分のSNSのタイムラインをつねに整えるよう意識することが大切です。