一流の男のたしなみ 「群れない、流されない」
2013年05月22日 公開 2022年09月15日 更新
《『一流の男のたしなみ』より》
安全な道の選択が自主性を損なう
人も群れて生きていく動物である。皆と一緒になって行動していれば、お互いに協力して外敵から身を守ることもできる。もちろん、グループの中にいれば、そこで皆の合意に基づいてできたルールや習慣に従わなくてはならない。自分勝手にはできない分だけ、ある程度の不自由は我慢する必要がある。だが、その分だけ安全が確保されている。
ただ、一つひとつの考え方や行動をする際には、やみくもに皆と同じようにするのではなく、その是非について自分自身で判断したうえにする。たとえば横断歩道を渡るときである。赤信号のときは、皆止まって信号が変わるのを待っている。ところが、まだ青信号になっていないにもかかわらず、急いでいたりする誰かが渡り始めると、それに釣られて歩く人がいる。
また赤信号であることを知っていても、ほかの多くの人が渡っていると自分も同じようにする人もいる。確かに「赤信号皆で渡れば恐くない」。だが、恐いということと危険があることとは、まったく別の問題である。その点は自分自身で正しく見極めてから行動に移す必要がある。
子供のときに何か危ないことをしていると、親に注意されたものだ。そこで、「友だちの誰々もしている」といおうものなら、「じゃ彼が死んだらお前も死ぬのか」といわれて、ぎゃふんといわざるをえなかった。人のすることをやみくもに真似をしてはいけないということと、自分自身で事の是非をよく判断したうえで行動をすることの重要性を強調する教えであった。
だが、子供のときはある程度皆と同じようにしなかったら、遊んではもらえない。仲間外れにされて、今時のいじめと同じような目に遭わされる。そこでどうするかは難しい選択であったが、子供ながらも節度を守りバランスを取りながら対応をしていく羽目になっていたようだ。
そのようにして子供のときも自主性を養う教育をされていたはずである。だが、大人になるに従って楽で安全な道を選ぶようになる。そこで建て前としては依然として自主を信奉しているのであるが、現実の場では人やグループに追従した行動を取るようになる。
特に自分より強い相手に対して異を唱えたり反抗したりすれば波風が立つので、黙って従っておく。「長い物には巻かれろ」という大人の「知恵」である。だが、そのような行動様式が習い性となってくると、「短い物」にまで巻かれるようになる。そうなると、もはや大人の知恵などとはいえない。自主性をまったく欠いたイエスマンに成り下がってしまったのである。
流れを読みどう生きるか
社会が平穏で世の流れも穏やかであるときは、そのような生き方も一つの生き方である。しかしながら、現在のように次々と大きな変化が起こってくると、世の流れは激しくなる。そこで、グループ自体も変質したり解体したりしないと存続できなくなる。そうなったときのグループや人々は非情だ。まず自分たちが生き残らなくてはならないので、人のことは構ってくれなくなる。グループに頼っていた人は、奔流や大きな渦巻きの中に放り出されてしまう運命になるのだ。
組織やグループに属していれば、さまざまなメリットがある。だが、いつでもそこから足を抜くことができるようにしておく心掛けを失ってはならない。群れてもいいのであるが、人や組織に頼り切りになるのがいけない。何かに属すると、必ずある程度は影響される。すると、知らず知らずのうちに、その中で自分が見出したものを当てにすることになる。
群れていたら、群れの流れに流される。すると自由自在に泳ぐことも難しくなる。それだけフレキシビリティに欠けるので、いざというときに機動力を発揮することもできなくなる。また、群れの流れを見続けていると、外の大きな流れを見失うこともある。流れが速いときは、自分自身で瞬時に判断して適宜に適切な処置をしないと、手遅れになってしまうことも少なくない。
私は一匹狼というほどに強くはないが、飼われているところはないので、野良犬にも似た動きをしている。まずは身の安全を図ったうえで、生きる術を講じている。守ってくれる組織やグループもないので、常に世の流れを自分自身で観察しながら、その中で最良の道を選ばなくてはならない。
たとえ組織の中にいる人でも、その心掛けを忘れてはならないだろう。組織に対して忠誠を誓って、日夜滅私奉公をしていても、組織には人情がない。組織としては「企業は人なり」といっているが、それは企業のために人を働かせる口上でしかない。昨今の企業の栄枯盛衰を見ていれば、その点がよく理解できるのではないか。
山崎武也
(やまさき・たけや)
ビジネスコンサルタント
1935年、広島県生まれ。1959年、東京大学法学部卒業。ビジネスコンサルタントとして国際関連業務に幅広く携わるかたわら、茶道裏千家などの文化面でも活躍している。卓越した人間観察力から生まれた、仕事術、仕事にまつわる人間関係術などのビジネス書も多い。
著書に、『心を打つちょっとした気の使い方93』『「流されない」生き方』『持たない贅沢』(共に、三笠書房)、『セレブのための豪華客船の愉しみ方』(学習研究社)、『上品な人、下品な人』『老後は銀座で』『なぜあの人には「味方が多い」のか』(共に、PHP研究所)、『弁護士に依頼する前に読む本』(日本経済新聞出版社)ほか多数ある。
<書籍紹介>
一流の男のたしなみ
食事の仕方、スーツのこだわり、なぜ賃貸住宅なのか、金は儲けるのではなく稼ぐもの、旅行で写真を撮らない、などこだわりの知恵満載。