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田原総一朗・バブルを知らない世代が社会を変える!

田原総一朗(ジャーナリスト)

2013年06月11日 公開 2022年10月06日 更新

 「仕事をしているフリをしているだけ」

 じつは日本企業の経営者たちの多くも、従来の日本的経営がもはや足かせになっていることはなんとかわかってきている。できれば給料の高い50代以上は辞めさせて、若い世代を経営の主軸にしたい。

 近ごろ、日本では「40歳定年制」が話題に上るが、韓国ではそれが雇用習慣として根づいている。

 日本でこれを導入した場合、年配の社員はそれまで培ったスキルや専門性を武器にして再雇用をめざすことになるが、不幸なことにそうした人材は少ない。家族的な日本的経営のもと、肝心の仕事は部下にまかせ、年功序列貸金制度にどっぷりと浸って専門スキルの向上を怠ってきた人が多いからだ。

 そう、経済的な安定を享受し、自らが成長しうる環境が整っていた時代を過ごしながら、いや、だからというべきか、彼らは生き残るためのスキルなど磨いてはこなかった。

 ユニクロを世界展開するファーストリテイリングの柳井正氏が厳しいことをいっていた。「日本の一部上場企業の社員はほとんど仕事をしていない」と。それに対して私が、いや大変忙しく働いている。残業をしているし、休日出勤もしているではないか、というと、「彼らは仕事をしているフリをしているだけ」と答えた。柳井氏によれば、上からいわれたことをそのままこなすのは、仕事とはいわない。仕事とは自分の頭で考えてやるものだ。納得できなければ、上司に「NO」ということも必要になってくる。これができない社員はダメで、能力も伸びていかない。

 ある日本の大手自動車会社の例である。2008年、アメリカの投資銀行であるリーマン・ブラザーズの破綻をきっかけに、金融危機が起きた。じつはそれより数年前に金融のプロたちのあいだでは、いずれ危機が訪れるという声が広がっていた。サブプライムローンのような怪しげな金融商品が広く売られるようになり、欲に目の眩んだレバレッジ商法が手広く行なわれるようになったからである。情報のプロたちのあいだでは「アメリカが危ない」というのが常識になりはじめていた。

 当時、その大手自動車会社は、社長の号令でアメリカ向けに高級車の販売を大々的に展開していたが、「アメリカは危ない」という噂を専務も常務も知っていた。だが、進言できない。社長の方針に「NO」といえば、自分が飛ばされるかもしれないからだ。しかしある中堅の取締役がそのことをオーナーに伝え、オーナーは社長を更迭した。       

頼れない国を見捨てない若者たち

 繰り返しになるが、日本的経営の最大の問題点は、課長、部長、さらに取締役たちが上役、つまるところ社長に「NO」といえず、社長が間違っていてもそれに従ってしまうことだ。この自動車会社の例はごくまれな幸運な例で、多くの企業が経営者の誤った経営に対して、取締役が「NO」といえない体制のなかで破綻している。だからこそ、国際競争力が第1位から27位にまで落ちてしまったのである。

 こうした不況のなかで育ってきたのが、本書の対談に登場する現在30歳前後の若者たち。しかも彼らの世代は就職氷河期などと呼ばれて、就職でそうとう苦労している。既存の体制に疑問をもち、頼りにならないと感じるのは、当然のことかもしれない。

 幸か不幸か、いまの40歳以上はバブルを知っている。浮ついた当時の日本の雰囲気を、ちょうど物心がついたころに経験した団塊ジュニア世代 (1971~73年生まれ)が、ほぼ現在の40歳に当たる。

 古い世代がつくってきたさまざまな仕組みが支障をきたしているとわかっていながら、なかなか行動を起こせない。あのころと比較していまは……とか、ほんとうなら自分はこうなっているはずだった……など、どうしても発想が懐古趣味になってしまう。

 それを象徴する言葉が「失われた20年」だ。そこには高度経済成長、あるいはバブルの時代に戻りたいという根拠のない妄想が見え隠れする。昔と比べて、いまの日本はこんなに悪いと言いたいだけなのだ。

 一方で、いまの30歳前後は物心ついたころから不況だった。だから、既存の体制が頼りにならないことを知っているし、自分たちで何かを始めるしかないと考えている。彼らに共通するのは、あくまで当事者として日本の問題を解決しようとしていることだ。こんなに頼れない国に生まれつつ、それでも可能性を抱いている。彼らは「あきらめていない」。

 本書で私が対談したのは、こうした若者たちだ。彼らはいま何をやろうとしているのか。この頼りにならない国でどう生きようとしているのか。その本音にトコトン斬り込んでみた。

 

☆ 対談者は以下の8名 (写真右上から横に)

荻上チキ (おぎうえ・ちき) 評論家、αシノドス編集長
・「ブルドーザー主義」はもう古い

駒崎弘樹 (こまざき・ひろき) 認定NPO法人フローレンス代表理事、全国小規模保育協議会理事長
・「いい仕組み」を行政にパクらせる

瀬谷ルミ子 (せや・るみこ) 日本紛争予防センター〔JCCP〕事務局長
・「戦後日本」が紛争地に与える希望

慎 泰俊 (しん・てじゅん) 認定NPO法人Living in Peace代表
・ソーシャルファイナンスで貧困層を救う

高木新平 (たかぎ・しんぺい) コンテクストデザイナー
・ほしいのはお金じゃなくて、仲間です

今野晴貴 (こんの・はるき) NOP法人 POSSE代表
・若者を搾取する「ブラック企業」

古市憲寿 (ふるいち・のりとし) 社会学者
・日本は「特殊な国」のままでいい

東 浩紀 (あずま・ひろき) 評論家、〔株〕ゲンロン代表
・新憲法で日本人「気風」を変えよ


<書籍紹介>

40歳以​上はもういらない

田原総一朗 著
本体価格760円

若者はいま何を考え、日本をどう見ているのか? 20代から30代の気鋭の学者、起業家たちを直撃。田原氏が見た若者たちの真実とは。

著者紹介

田原総一朗(たはら・そういちろう)

ジャーナリスト

1934年滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業。岩波映画製作所、東京12チャンネル(現・テレビ東京)を経て、フリージャーナリストとして独立。『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』(テレビ朝日系列)では、生放送中に出演者に激しく迫るスタイルを確立し、報道番組のスタイルを大きく変えた。活字方面での活動も旺盛で、共著も含めれば著作は100点を超える。現在もテレビ、ラジオのレギュラー、雑誌の連載を多数抱える、日本でもっとも多忙なジャーナリスト。
おもな著書に『日本の戦争』(小学館)、『塀の上を走れ』『Twitterの神々』(以上、講談社)、『原子力戦争』(ちくま文庫)、『なぜ日本は「大東亜戦争」を戦ったのか』『人を惹きつける新しいリーダーの条件』(以上、PHP研究所)ほか多数。

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