1. PHPオンライン
  2. 生き方
  3. なぜ職場から「報連相」が消えるのか?部下の自己防衛を解く方法

生き方

なぜ職場から「報連相」が消えるのか?部下の自己防衛を解く方法

神岡真司(ビジネス心理研究家)

2026年09月01日 公開

職場や日常生活の中で、そんな生きづらさや伸び悩みを感じたことはありませんか?神岡真司氏は著書科学でわかったすごい心理法則100「あの人が自然と動く」コツ、まとめましたにて、チームの成果を高める「心理的安全性」と、判断を誤らせる「生存者バイアス」を解説。自発的な行動を引き出す実践知に迫ります。

※本稿は、神岡真司著科学でわかったすごい心理法則100「あの人が自然と動く」コツ、まとめました(イースト・プレス)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

個人の力を引き出す組織の秘訣

職場や学校などの集団の中で、否定や反論を恐れずに、「わからない」や「助けて」などと素直に口にできる、風通しのよい状態を、心理学では「心理的安全性」と呼びます。

これは単なる「仲良しグループ」や、お互いに顔色をうかがう「馴れ合い」とは本質的に異なります。失敗や疑問、あるいは反対意見を恐れずに口にできる、心の土台となるしくみを指しているのです。

例えば、家庭の食卓で子どもが学校での失敗を正直に話せる場面を想像してください。親が頭ごなしに否定せず、まず耳を傾けてくれるとわかっていれば、子どもは隠し事などしないで何でも安心して親に相談できます。しかし何かを言うたびに、「なぜそんなことをしたの!」と即座に叱責される環境では、子どもは自分を守るために失敗を隠すようになります。

職場や学校でもこれと同じことが起こります。素直な発言が歓迎される場所では、潜在的な問題や新しいアイデアがスムーズに共有され、大きなトラブルを未然に防ぐことが可能になるのです。「自分の意見が受け入れられる」という安心感こそが、個人の持てる力を最大限に引き出し、結果としてチームや組織全体の成長を加速させる最大の原動力となるのです。

 

「いい人ばかり」では勝てない!成果を出すチームの共通点

この「心理的安全性」が欠けていると、私たちの脳は「自己防衛」に必死になります。「無知だと思われたくない」「無能だと思われたくない」といった恐怖がブレーキとなり、本来持っている能力を十分に発揮できなくなります。一方で、「心理的安全性」がある環境では、誰もが「ここでは何を聞いてもいいんだ」「意見をぶつけ合っても大丈夫だ」と感じることができ、脳は創造的な活動に集中できるようになります。

新しいチームにおいて、メンバーの1 人が「今の戦術の意味がわからない」と正直に口に出せるかどうかで、その後の結果は大きく変わります。もし他のメンバーが「そんなことも知らないのか」という冷ややかな態度をとれば、その人は二度と質問しなくなり、チームの戦術理解は不完全なままになります。しかし、全員が「わからないことは聞くのが当たり前」という雰囲気を持っていれば、課題が即座に解消され、チーム全体の力は確実に底上げされるでしょう。

この心理には注意点もあります。「心理的安全性」を「責任の追及をしない甘い環境」だと勘違いしてはいけません。目標を達成するために必要な率直な意見を言い合える状態は、高い規律や責任感がセットになって初めて機能します。互いの成長のために、あえて「耳の痛いこと」も誠実に伝えられる関係性こそが、本当の意味での「心理的安全性」が高い状態です。

【POINT】
意見を出してほしい場面では、まず「失敗しても責めない」と伝えておく。

 

成功者の影に潜む「見えない失敗」

「生存者バイアス」とは、「成功例」だけで判断を下し、その影に隠れている「膨大な失敗」を無視してしまう心理的な歪みのことです。私たちは、華やかな実績を上げた人の言葉や、巷で存在感を放つ企業の戦略を「正解」だと思いがちです。しかし、そこには目に見えない大きな落とし穴が潜んでいます。 

一代で巨万の富を築いた起業家の自伝を読むと、「大胆なリスクを取ることが成功の鍵だ」と書かれていることがあります。これを見た人々は、リスクを取れば自分も成功できると信じ込んでしまいがちです。しかし、同じようにリスクを取って破産した人々の存在もあるはずです。

また古い建物やアンティークの家具を見て、「昔の職人は今よりも丁寧に、丈夫なものを作っていたのだ」と感心するのも、このバイアスの影響です。実際には、昔作られたものの中でも脆くて質の悪かったものは、すでに壊れたり取り壊されたりしてこの世に残っていません。現在まで残っているのは、たまたま極めて頑丈に作られていた「生き残り」だけです。劣悪だった大半の製品が消えてしまった事実を忘れ、現存するものだけで過去全体を評価してしまうのです。

 

本質を見抜いて誤った判断を防ぐ方法

この現象のルーツは、数学者のアブラハム・ウォールドが第二次世界大戦中に行った軍用機の分析にあります。

軍は帰還した戦闘機の機体を調べ、弾痕が集中している翼や胴体を補強しようと考えました。しかし、ウォールドはこれに強く反対しました。彼は、「本当に補強すべきなのは、弾痕がまったくない場所(エンジンやコックピット)だ」と指摘したのです。なぜなら、弾痕のある翼を撃たれてもその機体は無事に帰還できましたが、エンジンを撃たれた機体は墜落して一機も戻ってこなかったからです。戻ってきた「生存者」だけを見て判断を下すと、最も致命的な弱点を見逃してしまうという教訓をこのエピソードは伝えています。

現代の日常生活においても、この教訓は非常に重要です。例えば、ダイエットや健康法で「私はこれで痩せた」「このサプリで病気が治った」という個人の体験談を鵜呑みにするのは危険です。その方法を試して効果が出なかった人の声は、広告やSNS の表面には出てきません。成功した一握りの声だけが目立つため、その方法が誰にでもあてはまる有効な手段という錯覚が生まれてしまうのです。

「生存者バイアス」に惑わされないためには、意識的に「ここには映っていないデータがあるのではないか」と考える習慣を持つことが大切です。

【POINT】
成功例を見たら、同じ数だけ失敗例も探す。
見えている話だけで判断しない。

著者紹介

神岡真司(かみおか・しんじ)

ビジネス心理研究家

著書に『思い通りに人をあやつる心理テクニック101』(フォレスト出版)、『嫌いなヤツを消す心理術』『口下手・弱気・内向型のあなたのための弱みが強みに変わる逆転の心理学』『「認知バイアス」最強心理スキル45』(以上、清流出版)、『最強の心理学』(すばる舎)など。監修書に35万部のベストセラーとなった『ヤバい心理学』『もっとヤバい心理学』(日本文芸社)がある。

関連記事

アクセスランキングRanking