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私大消滅の危機をどう突破する? 立命館が明かす「宇宙を目指す」という戦略

西山昭彦(立命館大学客員教授)

2026年09月11日 公開

2026年、財務省が公表した「私立大学250〜400校程度削減資料」。ただでさえ私立大学の半分弱が定員割れの現状にあって、大学はどうすれば生存できるのか。理系人材確保が社会の課題になる中、立命館大学が発表した「国内最大級の宇宙系大学院」の狙いを、責任者へのインタビューから浮き彫りにする。

※本稿は、西山昭彦著『立命館の快進撃』(PHP研究所)を一部抜粋・編集したものです。

 

国内最大級の宇宙系大学院

2026年3月23日、立命館大学は、2028年4月開設予定の「大学院宇宙地球フロンティア研究科(仮称)」の設置構想を発表した。記者会見には多数の記者が参加し、TVや新聞で報道されるなど、広報担当が驚くほどの反響だった。

世界の宇宙ビジネス市場は、2035年に向けて約3倍規模へと成長が見込まれ、衛星やロケットといった基盤技術に加え、衛星データを活用した新サービス領域が拡大する。宇宙産業は構造変革の真っただ中にある。国内では市場拡大に対応する専門人材の育成が追い付かず、深刻な人材不足が顕在化している。

この状況下、立命館大学は宇宙分野の教育研究基盤を強化すべく、新たな大学院教育の整備に踏み出した。大学では、これまで宇宙地球探査研究センター(ESEC)を中心とした研究推進、宇宙マネジメントに関わる教育プログラムなどを通じて、宇宙探査・衛星データ活用・宇宙ビジネスなど多領域にまたがる次世代研究の基盤整備を進めてきた。

本研究科では、宇宙と地球のフロンティア領域を対象に、理学・工学・マネジメントを横断する教育を実施する。国内最大級の宇宙に関する高度専門人材育成を行う大学院として、未来の宇宙探査・開発を担う高度専門人材の育成を目指す。

新学科の研究科長には、東京大学から「宇宙ベンチャーの父」と呼ばれる宇宙工学分野の第一人者である中須賀真一教授が就任する予定である。この大学院の責任者に、就任の思いを聞いてみた。

 

大学にできるスタートアップの環境づくり

【西山】今度立ち上げる宇宙地球フロンティア研究科のような大学院は、他にもあるのでしょうか。

【中須賀】全体として宇宙に特化した研究科は、日本の中ではありません。他大学の場合、理学系あるいは工学系の学科の中に宇宙という名前のついた専攻があり、東京大学であれば航空宇宙工学専攻。研究科自体が宇宙専門というのは、日本初のケースです。

背景として今、大きな宇宙産業が生まれつつあります。以前は、東大の航空宇宙工学専攻から56人が社会に出ても、実際に宇宙業界に就職できるのは10名ほどでした。しかし現在、宇宙業界はベンチャーも含めて人材が不足している。このコースの修士100名が宇宙分野で活躍する土台ができつつある今だからこそ、宇宙に特化した学科が求められているのです。

【西山】本学科は学問横断型、PBL(Project Based Learning=課題解決型学習)、シミュレーションなど多くのセールスポイントがあります。1つ挙げるとしたら何でしょうか。

【中須賀】とくに重視するのは、プロジェクトベースの教育・研究ですね。机上の学問はもちろん大事ですが、学習・研究とシミュレーションである程度の成果を出したうえで、自分たちでプロジェクトを立ち上げ、理論や知識を現場に適用して問題解決を図る。これをやっていくと、大きな学びにつながります。この実践を、新研究科の大事な要素として入れていきたいと考えています。

【西山】担当する教員にも、プロジェクト推進の専門性が必要になりますね。

【中須賀】ESECには、すでにプロジェクトの流れを経験した先生方がたくさんおられます。私自身、東京大学で超小型衛星のプロジェクトを民間企業・スタートアップと連携して長年、行ってきました。世界初の1㎏衛星からスタートして16機を打ち上げるという宇宙開発を実践してきたので、現場を踏まえたアドバイスが可能です。

【西山】宇宙のスタートアップについて、研究する能力と起業して会社を経営する能力は違うと思います。そのあたりはどう身につくものでしょうか。

【中須賀】大事なご指摘ですね。大学にできるのはまず環境づくりです。研究ができる人は多く、プロジェクトもだいたいの人は回せるようになる。面白いのは、その中で時々マネジメント、起業に向いた人がポッと出てきます。

そうした人たちに対し、東大ではアントレプレナー道場の先生を紹介して、起業や仕事の進め方を教えてもらうようにしました。

もう1つ重要なのは、企業・スタートアップの人と日常的にプロジェクトに取り組むうちに、就職や起業のハードルやリスクが思ったほど高くはない、という意識が身につくことです。社会人とコミュニケーションを取り、慣れや当たり前の感覚をつくっていくことが大事です。

 

はったりや大きな話ができる人

【西山】スタートアップに向いている人材というのはわかりますか。

【中須賀】わかりますね。一言でいえば、はったりというか、大きな話ができる人。真面目なタイプは、技術や製品ができるところまでしか将来の夢を語れない。さらに延長して、実現性は疑わしくても『自分にはこういう世界がつくれます』と罪悪感なしにいえる人(笑)。そういうタイプが向いていますね。

【西山】宇宙関連だけではなく、非宇宙の分野でも活躍する人材を生み出す、とされています。たとえばどういう分野になりますか。

【中須賀】宇宙に関する仕事には、大きなプロジェクトを回す能力が求められます。考えるべきファクターが無数にある状態で人やモノ、予算をマネジメントして問題解決をしなければいけない。コンサルタントが顧客企業の課題を発見し、社員を動かして解決するのと同じで、エンジニアリングや建設の仕事にも当てはまるでしょう。この研究科で得た経験は、多くの業界で生きると思います。

 

立命館は職員がすごい

【西山】立命館に4月に初めて来られてから、学内の人と接触されていますが、フレッシュな感覚で感じる大学の強みは何でしょうか。

【中須賀】まず、職員の人の動きがすごい。たとえば東大では企業、政府にロビイングを行うのは教員で、事務の人はまったく出てこない。ところが立命館では逆に、職員の仕事として行われている。本当にびっくりしました。事務というより、もう経営ですね。

私はそれが大学本来の姿だと思っていて、獲得した資金を使って運営するのはまさにアドミニストレーション(運営・管理)側の仕事です。立命館は大学本来の役割分担がうまくできているように感じます。

それから私の研究科でいうと皆さん、非常に前向きで明るい。このマインドはすごく大事です。新しいものをつくる気概に満ちた方々が周りにいるのはたいへん気持ちがよく、「やってやろう」という気持ちになります。

【西山】研究科の10年後のイメージはどんなものでしょうか。

【中須賀】日本が注目するプロジェクトが、立命館で絶えず起こり続けている状態を実現したいと思います。

月とその先の火星をめぐる事業や地球周辺の衛星利用について、立命館がプロジェクトを主導するかたちでも、JAXA(宇宙航空研究開発機構)や企業のプロジェクトに参加するかたちでもよい。とにかく『立命館は日本における本格的な宇宙プロジェクトの場である』というレピュテーションを得ることです。

その状況を見れば、自分もやりたいと思う学生が続々と立命館大学に入ってくる。目立ったプロジェクトが動いていること自体が、大きな原動力になると思います。 

著者紹介

西山昭彦(にしやま・あきひこ)

立命館大学客員教授

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