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リーダーは「決断」とどう向き合ったらいいのか

麻野耕司(リンクアンドモチベーション執行役員)

2015年09月08日 公開 2015年09月08日 更新

 

決断はリーダーのもっとも重要な仕事

 

リーダーを取り巻くジレンマ

 リーダーはつねに葛藤のなかにいます。決断について考えるとき、前提となるのがこの、リーダーが置かれている状況です。リーダーが抱える葛藤について、リンクアンドモチベーションでは次の4つの軸を想定しています。

 ・組織←→業績

 ・長期←→短期

 ・支配←→受容

 ・論理←→感覚

 業績と組織がともに良好な状態にあるとき、すなわち、組織がうまく機能し、業績があがっているときはいいのですが、ときとして、両者がぶつかることがあります。たとえば、業績をあげることを優先させれば、組織に問題が生じるというようなケース。目標とする数値設定を高くすれば、業績はあがります。しかし、その分、メンバーの負担は増えますから、ストレスや疲労もたまり、組織としてのパワーは下がります。

 ここでリーダーには、業績をとるか、組織をとるか、という葛藤が起こるわけです。

 また、どんな仕事でも長期的な視点と短期の視点が必要です。将来を見据えて新規事業に力を入れるというのは長期視点、これに対して、その時点での収益を伸ばすために既存事業の営業に力を入れるというのが短期視点です。長期視点に立つか、それとも短期視点でことを進めるか、ここもリーダーとしては悩ましいところでしょう。

 支配と受容という軸は、社内的にもありますし、対外的にも存在します。社内でいえば、メンバーに対して、「うちの理念はこういうものだ。それに共感できなかったら、辞めてもらうしかないな」というのが支配。一方、「そんなことを考えていたのか。その意見も取り入れて、組織づくりをあらためて考えてみよう」というのが受容です。

 この場合の支配には、排他的な姿勢に対するメンバーの反感や独善性を嫌っての離職といったことがともないそうです。また、受容は組織としての揺らぎ。そのことによるパワーの弱体化を孕んでいます。

 対外的なことで考えると、

 「うちが提供するサービスはこれです。受けられますか? 受けられませんか?」というのが支配。顧客の要望に応えて、サービスをカスタマイズする、というのが受容にあたります。

 ここでの支配には顧客を限定してしまうという問題がありそうですし、受容には対応の煩雑化、時間や手間の増加が避けられないでしょう。

 これもまた、リーダーにとっては葛藤のタネになります。

 論理と感覚は、文字どおり、論理的に考えたときと、感覚的に捉えたときの戦略や手法の違い。どちらにするか。リーダーは葛藤せずにはいられません。

 もちろん、リーダーは組織を引っぱっていく立場にありますから、こうした葛藤はメンバーを含めた組織全体が抱える葛藤でもあります。心しておいていただきたいのは、葛藤する局面はリーダーの悩みどころであると同時に、いかにリーダーシップを発揮するかの正念場でもあるということです。

 「ここいちばん、リーダーとしての自分が問われている」

 そんな感覚を持っていただきたい、と思います。葛藤のなかで、4つの軸のそれぞれどこの地点に着地するか、それを指し示すのかリーダーの決断です。

 

葛藤はORではなく、ANDで乗り越える

 葛藤のなかにあってどんな決断を下すか。ここでリーダーがまず考えるべきは「OR」ではなく、「AND」の道を探ることです。つまり、組織か業績か、長期か短期か……のどちらか一方をとるのではなく、両立させるような方策はないかを検討するのです。

 組織のパワーを落とさずに業績をあげる手立てはないか、長期の視点と短期の視点か矛盾せず、合致するような戦略の立て方はないか……。

 そのためには、発想を変えてみる、別の観点から見直す、といったことが必要になりますが、そうすることで組織も業績もともに向上するという方向が見出せることもあるでしょう。業績をあげながら人材を育てていくという、いわば真逆の項目の両方にとって“Win-Win”の施策を実行している組織も事実あります。

 ただし、両立を求めて中途半端に陥ることは避けなければいけません。業績も大事、組織の人材育成も大事だから、50対50のバランスでいくというのは、易きに流れているだけに過ぎません。まさに“玉虫色”の決着、決断です。これが虻蜂取らずに終わることは、まず、間違いのないところ。どちらに力点、重点を置くかをはっきり示してこそ、リーダーの決断といえるのではないでしょうか。

 加えて、できれば、時間軸というものを考え合わせて決断しましょう。一定期間は、たとえば組織に力点を置いたマネジメントをおこない、次は一定期間、業績に重点を置いたマネジメントをおこなうというふうにするのです。

 どこで転換をおこなうか、その状況判断は難しい面がありますが、振り子のように力点、重点を変えながらマネジメントしていくこと、自分のチームにあわせてバランスをとることで両立しやすくなるでしょう。

 もちろん、両立は不可能だと判断したら、「OR」を採択する以外にありません。この場合に必要なのは、全責任をリーダーが負うということです。

<著者紹介>

麻野耕司(あさの・こうじ)

〔株〕リンクアンドモチベーション執行役員

1979年兵庫県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。2003年〔株〕リンクアンドモチベーション入社。大手企業向けコンサルティング業務、人事マネジャー、社長室マネジャーを経て、中小ベンチャー企業向けコンサルティング事業の執行役員に当時史上最年少で着任。気鋭の組織変革コンサルタントとして注目を集める。「組織風土」「人事制度」「人材開発」「人材採用」といった総合的な切り口から組織変革を手がけている。2013年には、成長ベンチャー企業向け投資事業を開始。複数の企業の社外取締役、アドバイザーを務める。

 

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