未来を変える志高き「行動」がここにある――『日本を動かす「100の行動」』
2016年02月23日 公開 2022年10月27日 更新
第二に、著者が、起業家やベンチャー・キャピタリスト、経営大学院学長としても著名な堀義人氏と、彼が組成した「G1政策研究所」であるという点が挙げられる。堀氏は、政治家や官僚出身者ではない、純粋な民間人だ。また、大手の総合研究所のアナリストでもなければ象牙の塔の学者でもない。ビジネスの最前線で活躍されているリーダーである。「G1政策研究所」の母体である「G1サミット」には政治家や官僚、学者のみならず、文化やスポーツ、そしてNPO等のリーダー、そして「創造と変革」のど真ん中で活躍されているビジネスリーダーが集っている。彼らがイニシアチブをとり、多忙な時間をやりくりしながら、国民視点、エビデンスに基づく合理的思考で議論し、具体的な行動をまとめたというのは特筆されるべきだろう。そうした背景もあって、本書には、政治家や官僚にはタブーとなるために出せないようなエッジの効いたアイデアが溢れている。
第三に、本書全体に満遍なく込められた熱い思い、すなわち〝パッション″がある。国防や教育といった特定分野について書いた書籍であれば、著者の熱い思いが溢れているケースは珍しくない。著者の全人格やその分野に投入したエネルギーが反映されるからだ。しかし、本書はそうした特定分野のみを取り扱った書籍ではない。国家として重要なあらゆる分野に関して行動提言を行っているにもかかわらず、すべてのパートから熱が伝わってくるのは、それだけ堀氏をはじめとする、本書の執筆に関わられた人々が、「日本を良くしたい」という高い志を持ち、議論を重ねたからに他なるまい。本書の「はじめに」にこのような一節がある。
「G1の合言葉に『世代の責任』というものがあります。少子化、財政再建、エネルギー、教育、復興。さまざまな問題を先送りすることなく、私たちの世代で解決し、次の世代に引き継ぐことが、果たすべき責任だと思います。そのためには、志を同じくするリーダーたちが集い、ビジョンを持ち、実行していくほかに道はないと考えています」。そうした責任感が熱量を生み、本書にも反映されているのだ。
第四に、議論が空中戦とならないように、ファクトはしっかり示しているという点がある。本書は、1テーマにつき1見開き(2ページ)という読者にとって読みやすい体裁をとっている。各テーマには必ず図表が1つ付いているのだが、その多くは具体的なデータである。本文中にも重要なファクトは数字で明記されている。とるべき行動の根拠がしっかり示されているということは、本書は資料集としての役割も果たしているのである。これは、読者が自分自身の考えを深める上で大きな助けになるだろう。
本書で示された100の行動は、熟考を重ねたこともあって、納得感は非常に高いものがある。たしかにこれらがすべて実現すれば、日本の将来はかなり明るいものになるだろう。
ただ、本書はある意味で問題提起の書でもある。「この分野に関しては、こんなことをした方がいい」「自分の方が良いアイデアがある」と感じられる読者もいるはずだ。しかし、それは否定されるべきものではない。当然、G1の中にも個別には様々な意見がある。重要なのは、国民一人ひとりがいま目の前にある問題に真摯に向き合い、考え、行動を起こすことだからである。私自身も本書にコラムとして拙文を書かせていただいたが、本書をきっかけに、一人でも多くの方がインスピレーションを得て、日本を変えるための建設的な議論と行動を起こされることを期待したい。