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サントリー 「やってみなはれ」の精神

佐治信忠(サントリーホールディングス会長)×松下正幸(パナソニック副会長・PHP研究所会長)

2016年06月02日 公開 2016年08月31日 更新

父・佐治敬三氏と祖父・鳥井信治郎氏
信忠氏が祖父や父と仕事の話をすることはほとんどなかったという
写真提供:サントリーホールディングス

 

創業理念を伝承してこそ企業は進化する

2014年に新浪剛史氏を社長として迎えるまで、100年以上オーナーシップ経営を続けてきたサントリーホールディングス。売上高1兆円を超える企業としては極めて珍しいが、これを支えたのは創業以来、決して揺るがない経営理念だった。第1回の対談は、同社会長の佐治信忠氏。同じ1945年生まれ。偉大な創業者を祖父に持ち、早くから海外留学や海外勤務を経験するなど共通項の多い2人は、大学時代からの旧知の間柄でもある。今回の対談で語り合ったのは、創業者が掲げた理念を経営者はいかにして継承するか――。2人の考え方にはやはり共通点が多かった。

※取材・構成:江森 孝
※『衆知』2016年5・6月号「松下正幸の〈志〉対談」より一部抜粋

 

100回でも1000回でも言い続ける

松下 「やってみなはれ」や「利益三分主義」は、いわば創業精神だと思いますが、パナソニックの場合、創業者から直接教えを受けた人間は、数少なくなりました。多くの人間は又聞きですから、伝えるのが難しくなる。だから私自身、意識的に創業精神を伝える役割を担わなければと思っているのですが、御社の場合、どうやって伝えていこうとお考えですか。

佐治 「やってみなはれ」は、仕事でも絶えず使いますから、わりと伝えやすいのですが、世の中にお返しする気持ちというのは、時間がたつとだんだんと関心が薄れていきます。ですから、やはり継続は力なりで、ことあるごとに伝えていくしかないと思います。具体的には、新人研修で老人ホームの仕事や森づくりの活動を体験させたりして、社員が参加することで実感できるようにしています。これは広報の仕事でもあるのですが、伝える努力をしていかないと伝わっていかないでしょう。

松下 幹部社員や役員の皆さんに、これだけは伝えておきたいということはありますか。

佐治 「やってみなはれ」の精神がある限りは、新しいことに挑戦し続けるはずですが、やはり会社自身も大きくなり、年を取るわけで、そうなるとだんだん前例主義や悪しき官僚主義がはびこる傾向があります。それをいかに打破して、「やってみなはれ」精神を発揮し続けるかが大切で、そのための手法としては、高い目標を与えたり、常に革新を目指したりというものがあります。それらも一つの「やってみなはれ」であり、社内を1つにまとめる効果もあります。

松下 会社が大きくなると、官僚的になって冒険をしなくなるというのは、パナソニックにもいえる傾向です。そうしたいわば大企業病を打破するには様々なやり方があると思うのですが、御社の場合、2014年の新浪剛史社長の起用もその1つなのでしょうか。

佐治 そうですね。それに私も60を過ぎていたことで、新しい力を社内に注入しなきゃいかんと思っていました。また、当時は今ほどグローバルな会社ではなかったものですから、グローバル化を進めるには、若くて語学ができて、バイタリティのある50代の人物がいないかと探していました。そうしたら新浪さんという、ちょうどいい人がおられた。

松下 御社は経営陣に外部の人材を登用するということはなかったと思いますが、社内での受け止め方はいかがだったのでしょうか。

佐治 社員たちはびっくりしたと思いますよ(笑)。私は、その時点でトップを務める能力のある人間がやればいいと考えて決めたことですが、社員たちは相当なショックだったはずです。

松下 そうしたショックを和らげる、あるいはかく考えてやったのだという説明には神経を使われたのですか。

佐治 いえ、特に神経は使っていません(笑)。それも「やってみなはれ」です。

松下 なるほど。それも「やってみなはれ」で(笑)。

佐治 もちろん、それができる人だと考えて決めたことですし、いずれ社内に受け入れられる人材、人事だと思っていましたから。

松下 会長になられたことで、それまでのプレーイングマネージャー的な役割から、さらに大所高所から見られるようになったと思いますが、社内の皆さんにぜひ心がけてほしいことはありますか。

佐治 繰り返しになりますが、やはりグローバル化ですね。おかげさまで、国内の業績はまずまずですが、国際化という点ではまだまだですから、海外での市場、シェアを拡大してほしい。柱の1つである健康食品事業も、将来世界に打って出ることがあるかもしれません。時間はかかりますが、それに向けて「思い切ってやってみなはれ」と言いたいですね。

松下 「やってみなはれ」という基本精神があるとして、様々な環境下で実践した具体例を積み重ねていかないと、本質はなかなか理解されないかもしれません。

佐治 それと、やはりトップが「やってみなはれ」と絶えず言い続けることです。1回でダメなら10回、それでダメなら100回でも1000回でも飽きずに言い続けることが大事だと思います。これを実行するのは簡単ではないですが、それでも言い続けることが非常に大事なのでしょうね。

 


佐治信忠(さじ・のぶただ)
1945年生まれ。’68年慶應義塾大学経済学部卒。海外留学を経て、’71年ソニー商事入社。’74年サントリー入社。2001年に同社社長就任。’09年サントリーホールディングス会長兼社長、’14年から会長。芸術・スポーツの分野にも貢献している。

松下正幸(まつした・まさゆき)
1945年生まれ。’68年慶應義塾大学経済学部卒。’68年松下電器産業入社後、海外留学。’96年に同社副社長就任。2000年から副会長。関西経済連合会の副会長を務める一方でサッカーJリーグのガンバ大阪の取締役(非常勤)を務めるなど、文化・教育・スポーツの分野にも貢献する。

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