ザックジャパン 「頭脳的サッカー」で強豪は倒せる
2011年08月13日 公開 2024年12月16日 更新
ザックジャパンが目指すべきは「攻撃的サッカー」というより「効率的サッカー」。言い換えれば頭脳的サッカーである――サッカー日本代表を長年追い続けるスポーツライター・杉山茂樹氏が、ザックジャパンを世界のトップレベルに引き上げる方法を多角的に徹底分析する。
杉山茂樹著『ザックジャパン「頭脳的サッカー」で強豪は倒せる』より一部抜粋・編集したものです。
W杯でベスト8を狙うために
「柔よく剛を制す」とは、弱い者が強い者に勝つたとえで、柔道の基本理念でもある。身体の小さな日本人選手が、大男を倒すその痛快な姿こそが、日本人が潜在的に欲している理想だと僕は思う。
日本人のスポーツ選手は出るところに出ると、かなり小さく見える。戦いの舞台が外国になると、なおさら目立つ。そんな異文化の中で、孤独を味わいながら戦う姿に感激し、思わず拍手を送りたくなる。
サッカーにも拍手を送りたくなる選手が続々と現れている。長友佑都選手はその代表格かもしれない。身長は公称170センチとあるが、実際はもう少し小さいのではないか。とりわけ小さく映る選手が、欧州の槍舞台で大男に混じり奮闘する姿は、日本人の心の琴線をまさに良い感じで刺激してくれる。
サッカーの日本代表チームも、この精神で行きたいなとつくづく僕は思う。日本人の体格は、大きくなったと言ってもまだ小さい。パワーもなければシュート力もない。接触プレイでも分が悪い。
他のアジア人選手同様、サッカーに必要なシャキッとした感じに欠け、ペシャッと貧弱に見えてしまう。正直、サッカーに100%向いている国民には見えない。
W杯の歴代優勝国、W杯の第1シード国との間には決定的な差があるように思う。普通にやっていたのでは追いつかない。超えられない。W杯でベスト16は狙えても、ベスト8以上は見えてこない。
敗因は勉強不足
我々日本人はサッカーと向き合う上で、大きなハンディを抱えている。多分そうだと思う。中には例外もあるのだけれど、少なくともそうだと割り切る必要がある。ならばどうするべきかと、考え方を切り替える必要を感じるのだ。
個人の方が解決しやすい問題だ。長友選手のように身体の小ささが、逆にチームのアクセントとして、売りになる場合もある。「欧州組」が増える理由もそこにある。長友選手は、柔よく剛を刺している。それをいかにして日本代表として発揮できるか、集団スポーツ、チームスポーツの問題として解決していくか。
身体、肉体的に抱えるハンディは致命的な問題だろうか。サッカーにおいて絶対に解決困難な問題だろうか。僕はそうは思わない。そのハンディはないに越したことはないが、無い物ねだりを続けるヒマがあったら、別のことを考えた方が良い。
問われているのは「頭」。日本が目指すべきは、頭の悪いサッカーではなく、頭の良いサッカーだ。これまでの日本は、その点がどうも怪しかった。頭の良いサッカーとは言えなかった。その点に、僕は最も腹立たしさを覚えた。体で負けるのは仕方がない。
しかし、頭で負けるのはいただけない。放置することはできない。頭脳負けに僕は一番ショックを覚えるのだ。敗因が勉強不足。これほど格好悪いものはない。日本人は、世界から頭の良い国民だと見られていることに、内心かなり満足しているはずだ。
逆に生徒の学力低下が叫ばれ、その世界のランキングが後退し、教育レベルの後退が露わになると、必要以上にガックリする。そうした意味でのプライドは、本来どこよりも高いはずだ。
国民の8割は、日本人は馬鹿ではないと思っているだろう。そうした視点でサッカーを眺めると、進歩は早いのではないかと僕は思う。日本人のプライドを擽っていけば。日本代表がやっているサッカーは、どれほど頭脳的か。
ザックジャパンが、利口そうな集団に見えてくればしめたものだ。一人ひとりはそっち系には見えなくても、集団になると途端に変身。見るから頭の良さそうな、まさに「サッカー偏差値」の高そうなクレバーなサッカーをする。
そうした意味でのいい香りが、少なからず漂うか。日本代表が頭脳集団に変身できるか。2014年ブラジルW杯に向けて、これこそが最大のポイントだと思う。