苦労してきた人は知らないうちに脳が鍛えられている
これは私が提唱した概念で、簡単にいうと「考える」「理解する」「見る」「聞く」など、働きによって脳の使う場所が異なることを示しています。
たとえば、右手と左手の器用さが違うのは、それぞれ脳番地が異なり、発達具合も違うからにほかなりません。右利きの人は当然、右手の脳番地のほうが発達している、ということになります。
この120の番地は、大まかに8つの系統に分類することができます。
詳しい場所や系統は上図のとおりです。どれも右脳と左脳の両方にまたがっていて、主に左脳は言語系、右脳は図形や映像などの非言語系に使われる傾向にあります。この8つの脳番地を理解すれば、脳のことをもっと知ることができ、もっと鍛えやすくなるのです。
脳は脳番地ごとに成長するため、どの脳番地がよく育っているかによって、その人の秀でた能力が決まります。逆に成長が見られない脳番地が、その人の苦手な分野ということになります。スポーツ選手なら運動系脳番地が、研究者なら知識に関する理解系脳番地が突出して伸びています。
しかし脳の成長は一生続いていくものです。たとえば、スポーツ選手の場合、現役のときは運動系脳番地が発達しているでしょう。しかし、引退して解説者になれば運動量が少なくなり、話す機会のほうが増えるので運動系脳番地よりも、伝達系脳番地が発達します。このように、得意な脳番地や苦手な脳番地は、日々の生活によって変わり続けるのです。
脳番地が育つ分だけ脳番地に貯金ができて衰えにくくなります。脳貯金が多い方が認知症になりにくい脳になります。
8つに分類された脳番地の中でも、重要な役割を果たすのが「思考系」と「感情系」です。この2つは他の脳番地にも大きな影響を与えます。感情系の脳番地は100歳になっても成長し続ける部分で、思考系と密接な関係にあります。
たとえるなら感情系はガス台、思考系はお湯の入ったやかんのような関係です。ガスの火がついたり消えたりすることでお湯の温度が変わるように、感情が揺さぶられることによって思考に大きな影響を与えます。感情系の脳が育つことで、何事にも動じない冷静さや、人としての豊かさが養われ、思考系の脳番地を自在にコントロールできるようになります。
また、感情系脳番地は人格形成にも影響するところです。ここを育てるためには、実は、苦労することが一番いいのです。苦労することが多かった人は、いろいろなバリエーションの感情を経験しているため、知らず知らずのうちに脳番地が強くなっていると考えられます。したがって苦労も悪いことばかりではないのです。
感情系、思考系をはじめ伝達系、運動系の脳番地は目的や意思に基づいて指示を出す前頭葉に位置し、「~したい」という自発的な考えや行動を促します。一方、脳の比較的後方にある理解、視覚、聴覚、記憶系は考えや行動を起こすための情報を収集する脳番地で、受容的な傾向にあります。脳をどう使いこなすかによって、自発的な人間になるか、受容的な人間になるかが決まるといっても過言ではありません。
私たちはふだんの生活でも、どこの脳番地を使っているかを意識することが大切です。しっかり意識できれば、得意な脳番地をさらに伸ばし、苦手な脳番地を成長させることができるのです。