自己限定の支配から脱すれば、直観力、記憶力、深く考える力が発揮される
その理由は、明確である。
自分の中に、そうした力があると信じていないからである。
いや、むしろ、我々の多くは、「自分は直観力が無い」「自分は記憶力が悪い」という無意識の自己限定をしてしまっており、この自己限定が、我々の力の発揮を妨げ、ときに、無残なほど委縮させている。
例えば、いま、チョークで地面に三〇センチ幅の二本の線を引く。そして、誰かに「この線の内側を歩いてください」と言えば、健常者であれば、誰でもその線を踏み外すことなく歩ける。
しかし、もしそれが、断崖絶壁の上に架けてある三〇センチ幅の丸太橋であったならば、我々は、「落ちたら死ぬ」「こんな橋、歩けない」と思ってしまい、その瞬間に、足がすくんで一歩も踏み出せなくなる。
このように、我々は、無意識の自己限定が心を支配した瞬間に、本来持っている能力を無残なほど発揮できなくなる。そして、それは、肉体的能力だけでなく、精神的能力も、同様である。
しかし、もし我々が、この無意識の自己限定を取り払うことができるならば、何が起こるか。
その瞬間に、我々の中から「賢明なもう一人の自分」が現れ、直観力や記憶力など、素晴らしい叡智を発揮してくれる。そして、「深く考える力」を発揮してくれる。
そして、それは、「こころの技法」を身につけさえすれば、誰にでも起こることである。
そのための具体的な技法については、『深く考える力』において述べたが、紙幅の都合上、次の機会に、その一部をこの紙面で紹介しよう。
※本記事は、田坂広志著『深く考える力』 (PHP新書) より一部を抜粋編集したものです。