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繰り返し言い続ければ、選手は自発的に取り組むようになる~白井一幸・プロ野球コーチ

マネジメント誌「衆知」

2018年05月30日 公開

選手に必要だと思うことがあれば、嫌われようが何度も同じことを言い続ける。それが結果的には選手の成長につながると白井氏は信じて育成にあたってきたという。
 

部下にどうかかわるか。試行錯誤するのが指導者としての醍醐味

一人の選手が全力疾走を怠ったのが原因で、チームが負けたとします。全力で走るという、意識すればできることをやろうとしない人間はプロとは呼べないし、組織の一員でもありません。でも、そんな選手に、「なぜ全力で走らないんだ!」「走らない奴はクビだ!」と怒鳴ったところで、相手の心には響きません。私なら選手にこう問いかけます。

「お前はチームメイトに対して責任が取れるのか?取れないだろう?」

「チームメイトの後ろには家族がいて、みんな家族のために全力を尽くして努力しているんだ。お前は、その家族に対して責任を取れるのか?」

「責任が取れないことをするのは、みずからチームの一員じゃないと言っているようなものだ。お前にみんなと同じユニフォームを着る資格があるのか?」

「本当にこのチームでプレーしたいのか?したいなら、何をする必要があるんだ?」

チームスポーツでは、個人が手を抜けばチーム全員に迷惑がかかります。自分のサボリが原因でチームが負け、その責任を取れないのであれば頑張るしかありません。

このように厳しい言葉で「なぜなのか」を説明してあげるほうが、怒鳴るよりよほど選手には伝わりますし、たいていの選手は全力を尽くすようになります。チーム全員が思いを一つにし、それをパワーに変えて成功を勝ち取り、喜びを分かち合うのがチームスポーツの魅力です。それはビジネスにもあてはまると思いますし、責任を背負うことが力にもなります。さらに、チームや集団のために努力することは「個」の成長にもつながるのです。

ただ、選手の中には、やらなければならないことはわかっているのに、きっかけがないためにできない者もいます。よくないことをしている自覚があるのにやめられない、という経験は皆さんにもあるのではないでしょうか。

そんな時、指導者は背中を押してあげるだけでいいと私は考えています。例えば、「お前ができないのは俺の指導が至らないからだ。俺は指導者として失格だ」と声をかける。過激な言葉ですが、半ば事実でもあります。これで相手が「そこまで言ってくれるならやろうか」と思ってくれればいいわけで、きっかけさえあれば、その選手は変われるのです。

ところが、「やろうとは思っているのですが」と言い訳をする選手の場合、問題は複雑です。例えば、「プロは結果にコミットしないといけない」「『やろうとは思っているのにできない』という発言はプロにふさわしくない」と言い聞かせても選手の態度が変わらないとしたら、それは指導者や上司の伝え方が悪いからであり、言葉が選手に響いていないのです。

そんな時には、「しっかりしろ」と鼓舞したり、「やるべきことをやろう」と励ましたり、「お前が全力で走ることが、チームにとってどれだけプラスに働くだろうか?」と考えさせたりと、伝え方を変えてみます。その選手が走ることに価値があることを伝えるのです。伝えるための方法をたくさん考えることは、指導者が自分自身を高めるためでもあります。選手や部下ができるようになるために、どう伝え、どうかかわっていくのか。試行錯誤しながら、相手とのかかわり方の引き出しを増やしていくのが、指導者としての一番の醍醐味だと私は思います。

皆さんの中には、若い部下や後輩と接していて、「彼らの考え方が理解できない」とか、「どう接すればいいのかわからない」と戸惑っている方がいるかもしれません。でも、私は若い世代の考え方を細かく分析する必要はないし、彼らの考え方を変える必要もないと思います。

例えば、朝の挨拶をしない若手社員がいて、接しているこちらの気分が悪くなるとします。私は、強制して心のこもっていない挨拶をさせても何の意味もないと思いますが、それでも挨拶を重視するなら、上司から部下に「おはよう!今日はどうだ?」と挨拶をすればいいのです。それを聞いて部下は、「この人、朝から鬱陶しいなあ」と思うかもしれません。それでもかまわず「おはよう!」と言い続ければいいと私は思います。人間は、自分の決めたことにしかエネルギーを注げませんし、相手はコントロールできません。コントロールできないことを一生懸命コントロールしようとするから気分が悪くなるし、ストレスが溜まるのです。

こうした対応は、言われたことには取り組もうとするものの、やる気があるのかどうかわからない部下にも有効です。プロ野球選手で言えば、一軍に上がることをあきらめてしまって、自分の目標や役割が見出せないというケースです。そんな相手に、「目標を持て」と言って無理に目標を設定させても、熱心に練習に取り組むようになるかどうかはわかりません。私なら、「白井さんはいつも元気だよな」「毎日楽しくて仕方ないんだな」と思わせるように行動します。「元気を出せよ」と励ますより、「あの人、すごく元気だな」と感じさせるほうが、相手は前向きになれるからです。それができたなら、次は一緒に身近な目標を立て、それが達成できたら少しずつ目標のレベルを上げていきます。そうすることで、選手には自信が芽生えてきますし、成功体験を味わうことでみずから目標を立てられるようになるはずです。

※本記事は、マネジメント誌「衆知」掲載〈白井一幸の組織改革と人材育成はプロ野球に学べ!第5回》より、一部を抜粋編集したものです。
 

白井一幸
しらい・かずゆき*1961年生まれ。駒澤大学卒業後、1983年ドラフト1位で日本ハムファイターズ入団。1991年には最高出塁率とカムバック賞を受賞するなどし、1996年引退。選手・コーチ・ニューヨークヤンキースへのコーチ留学を含むフロントで、27年間にわたりファイターズに携わる。

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