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韓国でカトリックが急増 ローマ法王が朝鮮半島に与える影響力

徳安茂(元外交官、在バチカン前公使)

2018年12月26日 公開 2019年04月03日 更新

北朝鮮にも入り込んでいるカトリック

バチカンのインテリジェンス能力は世界の隅々におよぶ。これは外部から閉鎖された北朝鮮も例外ではない。

拉致問題や核ミサイル開発問題などで、わが国につねに喫緊の課題を突きつけている北朝鮮に関しては、バチカンにとっても関係正常化への道筋は困難かつ長いのが現実だ。しかし、この極めて特殊な国とのあいだでも、表の関係は途絶えたままだが、非公式な対話のチャンネルはしっかり保持されている様子がうかがえる。

福音宣教活動と並び、貧者や困窮者に対する慈善活動の分野でも、長い伝統を有するバチカンは、その傘下に国際カリタスと呼ばれる一種のNGO(非政府組織)を抱えている。

この組織が、北朝鮮のような外交関係が断絶した国々においても、緊急人道支援活動を地道に行なっている。

活動は、食糧支援と医薬品や医療機器の提供を柱としたもので、政治色のない純粋な人道支援といわれているが、細々としながらも現地の生の声に接することが可能になるという、現実的な利点があるのも事実だ。

もちろん、バチカンは情報を得るという実利的な動機で北朝鮮に関与しているとは言いがたい。すでに述べたように、バチカンの国益は狭義ではキリスト教徒の擁護だが、広義では人類全体に福音をもたらすことにある。

じつは北朝鮮にもカトリック教会は存在するが、人口に占める割合は微々たるものであろう。それでもバチカンが北朝鮮に手を差し伸べようとしているのは、飢え死にしたり、大変な目にあったりしている人を助けるという宗教的使命感に支えられてのことだ。

だからこそ、北朝鮮もカリタスの活動を受け入れている。そこがバチカンの強みでもある。

相手がどのような体制を有する国であっても、対話のチャンネルだけは維持するというバチカンの基本的な外交哲学が、北朝鮮に対しても揺らぐことなく貫かれているといってよい。
 

韓国と北朝鮮の橋渡しをローマ法王が担う可能性も?

北朝鮮と北緯38度線を挟んで対峙する韓国についても少し触れたい。

韓国は、日本と比べれば、はるかにカトリックが多い国だ。政治家だけに限ってみても、1987年に民主化を経て復活した直接大統領選挙以降、8人の大統領のうち4人がカトリックの洗礼名を有している。文在寅大統領、朴槿恵元大統領、金大中元大統領、盧武鉉元大統領だ。

韓国のカトリック人口はいまでも増大を続けているといわれている。その事実は、2014年8月、フランシスコ法王の韓国訪問の際に、韓国国民が見せた熱狂的な歓迎ぶりに現れているといえよう。

そのようなことを考え合わせると、いずれバチカンが韓国と北朝鮮の橋渡し的な役割を担う日がくる可能性も、あながち否定できないのではないか。

フランシスコ法王は、韓国訪問の帰路、法王専用機内の記者会見において南北統一問題について質問を受け、「韓国民であれ北朝鮮国民であれ、同じ朝鮮語を話している。同じ言語を話すということは母が同じであることを意味している。いつかは必ず南北の統一が実現することを信じている」と述べている。

現在、韓国国民(とくに若い世代)のあいだでは、南北統一は夢物語であり、もはや現実的な課題とは見なされていない側面もあるが、ここは改めて法王の発言を噛みしめてみたいものだ。

朝鮮半島にかぎらず、アジアにおけるバチカンの情報収集能力は、カトリックが8割を超えるフィリピンではもちろんのこと、ベトナムのような社会主義国家でも一定の水準に達していると見ることができる。

忘れられがちではあるが、旧フランス植民地のベトナムではカトリック信者がいまもなお存在しており、一説には550万人にのぼるというデータもある。

私のバチカン在勤時代にも、バチカンとベトナム双方からの代表団派遣や特使の往来が頻繁にあった。その流れのなかでとらえてよいと思うが、2016年11月23日にはベトナムのチャン・ダイ・クアン国家主席がバチカンを訪問し、フランシスコ法王と会見している。くしくも、ベトナムとフィリピンは南シナ海の領有権をめぐって中国と争っている。

アジア太平洋地域の平和を左右する重要地域で、バチカンは情報収集の足がかりを得ていることになる。

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