宗教統制を強化する中国 それでもローマ教皇とバチカンが見せる自信
2019年01月10日 公開 2019年11月23日 更新
自分の言葉で話す、原稿を読まない法王
法王のジョークに爆笑するオバマ前大統領(AFP=時事)
法王による公的な発言の場では必ずスピーチ原稿が用意されているが、実際のスピーチで原稿を読むことはめったにない。いつでも大衆に向かって、アドリブで直接話しかけるのである。
原稿そのものは手に持ったまま話を続け、スピーチ途中でふと気がついたように原稿をひらひらと手にかざし、配布するので関心のある人はあとで読んでみてほしい、とつけ加えるだけなのである。
難しい言葉をなるべく避ける傾向も、フランシスコ法王を特徴づけている。
かつてのキリスト教世界での共通語といえばラテン語である。現在でも神学を学問的に学ぶ者にとってラテン語は必須で、歴代法王やバチカン関係者もラテン語を好んで使っていた。
ところが、フランシスコはあまりラテン語は使わず、簡単な言葉、特段、教養や学歴がなくてもわかりやすい言葉を選ぶ。神学者としても高名なベネディクト16世が重厚な言葉遣いを好んだのに対し、フランシスコは市井の人々にも届く言葉をもっているといえる。
ローマ法王といえば神の代理人である。教会にあるイエス・キリスト像は、苦痛に満ちた悲しげな表情をしているのが普通であり、微笑んでいるような顔はあまり見かけない。
その代理人であるフランシスコ法王は、微笑どころか大笑いをするのが珍しくないほど、ジョークが好きでよく笑うという話である。こんな性格もフランシスコ法王の人気を下支えしているのではないだろうか。
戦略思考を兼ね備えた冷徹な横顔
厳しい表情で見つめ合うプーチン大統領とフランシスコ法王(AFP=時事)
富んだ者よりも貧しい者、有名な人よりは無名の人、立派な肩書の者よりも普通の人、先進国よりは途上国、中心的な場所よりは、むしろ光が当たらない周辺的な場所。つねに弱者に寄り添い、自らは質素極まりない生活を実践する聖者――。
フランシスコ法王の一般的なイメージは、このように語られることが多い。
フランシスコ法王は、歴代の法王とは異なり、法王専用の宮殿に住むことなく、バチカン内の普通の宿舎でほかの法王庁関係者とともに生活している。
法王の部屋の広さはたったの40平方メートルであり、寝室と居間と書斎からなっている。一人暮らしであれば、日本人にとってはさして狭いとは感じられない広さだろうが、欧米人の住居感覚からいえばどうであろう。
だが、フランシスコ法王がもつ顔は、多くの人に親しまれる聖者の顔だけではない。バチカン内部関係者のあいだでは、敬愛する対象というよりもむしろ、畏怖すべき存在としてとらえられている。
国際的なメディアを通じて紹介される「貧者に寄り添う聖人」としてのイメージは、この人物の一面にすぎない。綿密な計算能力と現実的な戦略思考を兼ね備えた、冷厳な横顔を隠しもっていることを理解しなければ、フランシスコ法王を見誤りかねない。
法王庁内部の幅広い関係者の話を聞いているうちに、関係者以外には見せない法王の「怖い顔」について意識せざるをえなくなった。