訴えられたら負けるから、政府は制度を維持せざるを得ない
公的年金が「破綻」しない2つ目の理由は、「破綻」しそうになれば、政府があらゆる手を尽くして助けるからです。
仮に公的年金が「破綻」すると、すでに10年以上年金に加入している人には年金をもらう権利(受給権)が発生していますから、いっせいに年金を請求する裁判が起こるでしょう。
裁判を起こされたら、年金の支払いを約束した政府は負けるので、莫大な額の支払いが発生します。
これは、政府自体が「破綻」しかねないリスクなので、国として絶対に避けなくてはなりません。そのため、あらゆる策を講じるのです。
実際、今の日本の年金制度は年金保険料だけではまかなえなくなっていて、国民がもらっている老齢基礎年金のおよそ半額は、国庫から出ています。2018年11月現在、老齢基礎年金は、40年加入した場合には月に約6万5000円もらえますが、この半分は、国庫から出ているということです。
実は、以前はこの国庫負担の割合は3分の1だったのですが、2004年の法改正で国庫負担分の引き上げが決まり、2009年から2分の1に増えています。
将来的に年金財政がさらに悪化すれば、国庫負担分が、3分の2、4分の3と引き上げられていく可能性は十分考えられます。つまり、年金が破綻せずに延命する可能性も高まっていくというわけです。
「破綻」しないための様々なテクニックがある
公的年金は、「破綻」させないために国がいろいろなことができるようになっています。前述の、国庫負担比率を上げるというのもその1つ。ほかにも、年金制度を維持す
るために次の4つのことが実施されているのです。
それは、
(1)保険料を上げる
(2)給付額を減らす
(3)支給開始年齢を引き上げる
(4)公的年金の加入者を増やす
(1)の「保険料を上げる」については、厚生年金が2004年10月から2017年まで、保険料率を毎年0.354%ずつ引き上げ、13.934%(本人分6.967%)から18.3%(本人分9.15%)に上がっています。年収500万円の人なら、この間に年間約12万円の保険料負担増になっているということです。
国民年金保険料は、2005年4月から2017年まで毎年280円ずつ(2017年度は240円)値上げして、月1万3300円の保険料が月1万6900円へと上がり、年間4万3200円の負担増となりました(名目賃金の変動に応じて数字は変わり、2018年度の実際の保険料額は1万6340円)。
(2)の「給付額を減らす」については、この15年間で、2つのテクニックが導入されました。
1つは「マクロ経済スライド」の導入。それまでの年金は、物価が上がると、上がった物価にスライドして上がっていったので、インフレにも対応できるようになっていました。
けれども、「マクロ経済スライド」という、物価が上がっても年金がそれほど上がらない仕組みができたので、インフレには対応しにくくなりました。
もう1つは、賃金が下がったら年金も下がるという、いわゆる、「年金カット法案」(年金制度改革関連法案)が成立したことです。これは、年金を賃金変動と物価変動の低い方に合わせるというもの。
物価が上がっても、賃金が下がれば、下がった賃金に合わせて年金が支払われるというもので、これによって国民年金なら年間約4万円、厚生年金なら年間約14万2000円減ると言われています。
(3)の「支給開始年齢を引き上げる」については、1956年以前は、厚生年金の支給開始年齢が男性55歳、女性55歳でした。これが、男性だけ1957年から16年かけて4年に1歳ずつ支給開始年齢が引き上げられ、1973年には60歳となりました。
さらに1985年の改正で、女性も60歳に引き上げられ、1994年の改正では、男性、女性とも65歳になりました。会社員は、老齢基礎年金の上に報酬比例部分という上乗せ(特別支給の老齢厚生年金)がありますが、こちらも支給開始年齢を徐々に引き上げ、男性は2025年、女性は2030年には、完全に65歳となります。
そういう意味では、まだ厚生年金の支給開始年齢は引き上げの最中ですが、すでに「70歳支給開始でどうか」という話が出始めています。