順調に業績を伸ばしているファッションブランド「GU」。その成功の裏側にはとんでもない失敗から導き出された教訓があった。
永井孝尚氏は新著『売ってはいけない 売らなくても儲かる仕組みを科学する』にて、マーケティング発想へ切り替えることで「売らなくても儲かる」仕組みの作り方を詳説している。
本稿では、同書にてファーストリテイリング代表の柳井正氏のエピソードに触れた一節を紹介する。
※本稿は永井孝尚著『売ってはいけない 売らなくても儲かる仕組みを科学する』(PHP新書)の内容を抜粋して掲載しています
「反省会」が日本企業の足を引っ張る
誰もが期待していた新規プロジェクトが、行き詰まっている。もはや失敗は誰の目にも明らか。しかし、誰もそれを言い出せない。
「何が悪いのか反省会をしよう」と言うと、「みな真面目にやっている。犯人探しはよくない」と強く反対される。組織で評価されるのは、やる気と正論。
失敗は極度に嫌悪され、失敗を検証する反省会は「後ろ向きの議論」と忌避される。
「これって、もしかしてウチのことですか?」という人は多いかもしれない。このような組織は、低迷からなかなか抜け出せない。いま、多くの日本企業がこの状況に陥っている。
しかし、失敗には必ず原因がある。失敗を放置して新しい挑戦をしても、失敗の原因が消えることはない。また失敗して売れないことを繰り返すだけだ。
現実には、失敗は貴重なチャンスだ。このチャンスを自ら手放しているのである。
ファーストリテイリングで30億の赤字を出して作った「失敗の小冊子」
ユニクロを展開するファーストリテイリングは、2002年に生鮮野菜の生産・販売をする新規事業「SKIP」を始めた。「なぜアパレルのユニクロが、まったく畑違いの野菜を?」と思ってしまうが、勝算があった。
ファーストリテイリングはアパレル業界で、生産・流通の合理化を徹底させてムダを省き、低価格で良い商品を提供してきた。そんなファーストリテイリングから見ると、野菜の生産と流通はムダだらけに思えた。
「アパレル業界で培ってきた合理化スキルが活かせる」と考えたのである。しかも当時は、食の安全・安心に人々の注目が集まり始めていた時期。そして、安心して食べられるおいしいものがなかった。大きなチャンスと考えたのだ。
そこで、1999年にファーストリテイリングに転職した柚木治さんは、新規事業SKIPを役員会に提案した。
役員は全員反対したが、柳井正社長(当時)だけは違った。
「やってみろ」
2002年、こだわり野菜を実店舗9カ所とネットで販売するSKIPがスタート。
しかしSKIPは、ファーストリテイリング史上、最大級の失敗プロジェクトとなる。1年半後に30億円の大赤字を出した末、柚木さんと柳井社長は撤退記者会見を開いた。
柚木さんは「会社を辞めるしかない……」と腹をくくった。
しかし、柳井社長はこう言ったという。
「1回失敗したくらいで何を言っている。経験を次に活かせ。そして、カネを返せ」
それだけではない。柳井社長は、社内の課長職以上を全員集め、反省会を開催した。マネージャーたちは「あの野菜事業はとんでもない」と率直な意見を出し合った。
柚木さんは、この反省会の結果を小冊子にまとめた。
SKIPの大失敗から、ファーストリテイリングは確実に学んだのである。