現実を受け入れてこそ、心は回復する
彼女は夫を失った悲しみを深く味わうことで再生できるのに、その悲哀を体験することを回避した。月なみな言葉で言えば対象喪失の悲哀の仕事を完遂しなかった。
「必ず帰って来る」という思い込みは、「帰ってきて欲しい」という彼女の心の願望を外化しているだけである。現実の夫を通して、自分の心の中の願望を見ているだけである。
彼女が見ているのは現実の夫の行動ではない。彼女が見ているのは夫を通した自分の願望である。つまり彼女は現実から幻想の世界に逃げ込んだだけである。
レジリエンスのある人は、事を成り行きに任せない。
現実を認めて、そのうえで心が回復する。
レジリエンスの条件は現実を受けいれることである。
現実否認はレジリエンスの否定である。
現実の不幸を受けいれない。
不幸を受けいれる人がレジリエンスのある人である。
逆境に強い人はレジリエンスのある人である。
【著者紹介】加藤諦三(かとう・たいぞう)
1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。