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生き方

「不幸なのに離婚できない妻」を縛りつける”不安の感情”

加藤諦三(早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員)

2020年04月20日 公開 2023年07月26日 更新

 

未知の世界に踏み出せないから離婚できない

不幸な女性ほど過去に執着する。そして執着すると、自ら不安を引っ張ってくる。

彼女が社会で働くことに不安があるから、冷酷な夫はそこをついて勝手放題をする。

未知の世界に足を踏み出すのは、不安で恐ろしい。
そこで彼女は、先に踏み出すまいと命がけで現在の不幸にしがみつく。

こういう人たちは、不安から離婚はできないが、離婚をしないからといって今が安心だというわけでもない。

未来に向かって行動を起こしていないからである。

「将来、不安なんですよねー、いろんなことに疲れましてねー」と言う。

現状にしがみつく人は、今を生きていない。

不幸な女は、過去の男がくれたペンを捨てられない。

そのペンに心理的に依存しているから捨てられない。

もしこの奥さんが、「自分はどうなってもやっていける」と思えば、離婚を恐れない。

生活の変化を恐れない。

しかし、「自分はどうなってもやっていける」と思えなければ、生活の変化は怖い。

今、現在がどうにもならなくなっているときは、現状を「守る」のではなく、「破る」ことである。

「破る」とは「捨てる」こと。

執着を捨てる。
過去をすべて捨てる。

捨てるとは、不幸をうけいれること。

不幸をうけいれれば、今を生きられる。

うつ病になりそうな人は、「今がどうにもならなくなっている」のに、不幸をうけいれないで自分の身を「守ろう」とするから、結局、うつ病になってしまう。

今、濁流に喘あえいでいる人はその濁流を離れない。
「あっちの川に行け」と言われても行こうとしない。

でも、未知の不安を乗り越えた人は、次の川に行く。

 

現状にしがみつくから、挑戦できない

今、離婚を例に挙げたが、会社でも同じである。

この会社が自分には向いていないと思っても、その会社を辞めないのは、その先がどうなるか不安だからである。

殺したいほど憎らしい上司と一緒に仕事をするのは、会社を辞めた後の生活の不安、社会的威い信しんを失う不安があるからである。

不幸よりも不安の感情のほうが強いように、怒りの感情よりも不安の感情は強い。

会社を辞めた後の生活の不安、社会的威信を失う不安、それらの不安ゆえに、ビジネスパーソンは、どんなにイヤな会社でも辞めない。

「家族のため」というのは、会社を辞めない口実である。不安だから今の会社に固執する。

今の状態に固執するから、これをやってみようかと、なにかに気軽に挑戦できない。

失敗したら失敗したでいいやとは思えない。

不安な人は、家を変わるのも、職業を変わるのも、困難である。

よく、延々と会社の悪口を言っているビジネスパーソンがいる。

飲み屋で延々と上司の悪口を言っている。

「そんなにイヤなら、会社を辞めればいい」。こちらがそう言うと、「今の会社を辞めたら食べていけない」と言う。

しかし、じつはそうではないのだ。今なら、ホームレスになっても食べていける。

本当は、会社を変わることが不安なのである。

あるいは今の会社を辞めたら、次の会社が見つかるかどうか不安なのである。

だから、「会社を辞めたら家族を食べさせていけない」と言う。

住んでいる地域でも同じである。この地域が自分には向いていないと思っても、引っ越さないのは、その先が不安だからである。

未知の世界は不安だから、現状がどんなに矛盾に満ちていても、人は現状にしがみつく。

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著者紹介

加藤諦三(かとう・たいぞう)

早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員

1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。

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