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社会

「すぐに不機嫌になる人」が心の奥底で恐れている"孤独感”

加藤諦三(早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員)

2020年10月28日 公開 2024年12月16日 更新

人は成長の過程で、問題をどう乗り越えるかを考え、人生で何度も経験する葛藤と戦ううちに自分の長所、固有の素晴らしさに気づく。

しかし、その葛藤を避けて解決しようとせず、それゆえに人間関係のあらゆる場面で問題を起こす「メンヘラ」と呼ばれる人びとがいる。早稲田大学名誉教授の加藤諦三氏は自著『メンヘラの制震構造』にてその心理と精神構造に焦点を当てている。

本稿では、同書より「なぜ」解説している一説を紹介する。

※本稿は加藤諦三著『メンヘラの精神構造』(PHP新書)より一部抜粋・編集したものです。

 

「すぐに不機嫌になる人」の心理

「メンヘラの精神構造」とは、心理的成長に失敗した人の精神構造である。彼らは、孤独から目を背そむけるために集まって騒ぐ。だから表面的にはパーティが好きである。

要するに、燃え尽き症候群でもあり、ピーターパン症候群でもあるのがメンヘラといわれる人である。両者の違いはどこにあるか。燃え尽き症候群が抑制型の人であり、ピーターパン症候群が非抑制型の人である。

とにかく心理的成長に失敗した。今いる場所を間違えている。メンヘラといわれる人は、ピーターパン症候群と同じように無責任。それは、青年期の課題の解決に失敗して、物事に興味と関心がないから。

無意識では孤独感に苦しんでいる。例えば自分にはたくさんの友だちがいると誇示する。友だちがいるふり。従って、それを否定されるとものすごく怒る。友だちという幻想にしがみついている。

そこに偽りのプライドがかかっている。単なる知り合いをたくさん作ればいい。しかし、本当の友だちは作らない。作れない。好き嫌いがないというのではなく、好き嫌いがないということに気がついていない。

この病理が進むと、自分が若くて体力があるのに、なにもしないでブラブラする。ニートなどと言われるような人たちも現われてくる。年老いた親が、若くて体力のある自分の世話で苦労をしている。それを当たり前のことと思う。

彼らにはまだナルシシズム、母親固着がある。母親から心理的乳離をしていない。5歳児の大人であり、大きくなった幼児である。とにかく褒めてもらいたい。褒められていないと、自分は価値がないものと感じるようになる。

だから、いったんナルシシズムが傷つけられて不機嫌になると、なかなか直らない。要するに、メンヘラは無責任なナルシシストである。なぜ、憂うつや苛立ちが目立ちはじめるか?それは一度として、自分が本当にしたいことをしていないからである。

 

人間関係で悩む原因は、幼少期にある

例えばある人と付き合っている。その人といろいろと困難な問題を抱えている。今の人間関係が上手くいっていない。それが恋人であるか、同性の友人であるか、職場の人間関係であるか、夫婦関係であるかは別にして、現在、人間関係でいろいろとトラブルを抱えている。

その今のトラブルは過去の未解決のトラブルを移し替えたものであることがある。例えばその人が小さいころから父親との関係で「服従と敵意」の矛盾した関係に悩まされていたとする。

表面的に父親に服従しているが、無意識では父親に敵意がある。そんな矛盾した関係を未だに心理的に解決できていない。そのため、今の近い人に素直になれない。

現在の対人的結びつきというのは、幼児期の重要な人との堅い結びつきのトランスフォームであることが多い。大人になっているのに幼児期の重要な人からの束縛に苦しめられている。

つまり大人になった今、対人的困難でいろいろと抱えているのは、幼児期に重要であった人からの束縛から未だに逃れられないということである。とにかく自分の幼児期に重要であった人からの心理的束縛から逃れることが死活問題である。

たとえば親がナルシシストの場合には、優しい心の子は補足的ナルシシストの役割を果たすことを親から強制される。子どもの研究家として名高い、ジョン・ボウルビーのいう「親子の役割逆転」でもある。

本来、親が子どもの甘えを満たさなければならないが、その親子の役割が逆転する。つまり子どもが親の甘えを満たさなければならない。もともと配偶者の一方がナルシシストの場合、夫婦関係はうまくいっていない。

相手に不満である。その欲求不満なナルシシストの親が「子どもになにを求めるか」である。子どもに補足的ナルシシストであることを求める。補足的ナルシシストの役割を背負わされた子どもの悲劇は深刻である。

ナルシシストの親はその優しい子が、自分を全知全能の神であると信じるように操作する。全知全能の神であると信じることを子どもに強要する。その心の優しい子が、親を全知全能の神であると思うことで、親は心理的に安定するのである。

著者紹介

加藤諦三(かとう・たいぞう)

早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員

1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。

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