1. PHPオンライン
  2. 生き方
  3. “山中”が“中山”に明かした「臨床医として挫折した過去のこと」

生き方

“山中”が“中山”に明かした「臨床医として挫折した過去のこと」

山中伸弥(京都大学教授/京都大学iPS細胞研究所所長),中山雅史(サッカー選手)

2020年10月24日 公開 2022年12月01日 更新


(写真:荒川正臣[中山雅史]/京都大学iPS細胞研究所[山中伸弥])

京都大学・山中伸弥教授は整形外科医時代に、先輩に「ヤマナカ」ではなく「ジャマナカ」と呼ばれ、さまざまな苦難を乗り越えてきた。 元日本代表・ゴン中山こと、中山雅史氏の新著『再起は何度でもできる』より、どんな状況でもその度に「リスタート」をして、次につなぐことの大切さを、山中伸弥×ゴン中山の対談で互いに熱く語った。

※本稿は中山雅史著『再起は何度でもできる』より一部抜粋・編集したものです。

 

「ヤマナカ」ではなく「ジャマナカ」

【中山】山中先生はスポーツ医学を目指していたのに、再生医療という別の世界に方向転換されました。よくその決心がつきましたよね。

【山中】人生どうなるか、本当にわからないです。

【中山】それまで培ってきたものも、再生医療に行き着くまでには役立っているんですよね。

【山中】役に立っています。スポーツ医学は整形外科の一領域ですが、僕が医学部を卒業した1987年頃には、まだ整形外科のなかではマイナーなジャンルでした。

「スポーツ外傷の患者さんを治したい!」と意気込んで国立大阪病院に研修医として入ったら、「なに言ってるんだ、お前。まずは整形外科をしっかりやれ」ということになって。

もちろん卒業したばかりなので、普通の整形外科の研修をみっちりやるのは当然なんですけど。僕が整形外科に対してもっていたのは、すごく明るいイメージでした。

ケガをしたスポーツ選手を治して、またグラウンドに戻ってもらうという、明るい出口を夢見ていたんです。でも、実際にはそういう患者さんばかりではなかった。

脊髄損傷で動けなくなった方、骨肉腫で手足を切断する方、慢性関節リウマチで全身の関節が変形して痛みに苦しんでいる方など、重症の患者さんがたくさんおられて衝撃を受けました。僕の考えが甘かったんです。

手術も、自分で思っていたよりうまくないみたいで、指導医からは「ジャマナカ」と呼ばれました。「手術の邪魔ばかりするから、山中じゃなく邪魔中だ」と。

治せない患者さんを将来治す可能性がある、基礎研究のほうにどんどん興味が出てきて。学生時代も少しは研究室に出入りしていたんですが、同じ医学でも臨床医学と基礎研究ではぜんぜん違うんです。

臨床医学は、目の前の病気の方やケガをした患者さんをいかに治すか、毎日毎日が勝負。いろんな患者さんがいっぱいやってきて、治らない方もいますけれど、よくなる方もいるので、なんとなしに自分が役に立っている感も、時々はある。

ただ、自由はあまりないんですよ。決まった薬をきちんと使わないとダメですし、手術ももちろん、やり方が決まっているし。一方、基礎研究にはあんまり制約がないんです。

自分でやり方を考え、どういう方法を使ってもいいし、どんな結果が出ても、それを楽しめる空気がある。臨床は患者さんにとってよい結果じゃないと楽しめませんが、実験では自分が期待していた結果じゃなくても、それが新しい発見につながったりして。その意味では、ものすごく自由です。

 

研究はマラソンと同じ

【中山】どっちかというと、自分が予測したのと違う結果が出たほうが興味は湧きますよね。

【山中】本当にそうなんです。予測した結果が出れば、もちろん嬉しいんですけど、「そこそこ嬉しい」だけで。

【中山】そこそこ、ですか。

【山中】いちばん嬉しいのは、予想外のことが起こって、なぜそうなったかがわかってくる時。今まで全然予想もできなかったことを、自分で明らかにできる。そういう醍醐味が研究には非常にあるんです。

【中山】その醍醐味のある研究が、人の病やケガを治すことに、じかにつながっているんですか。

【山中】じかにつながることもあるし、すぐにはつながらなくても、20年後、30年後につながることもあります。僕たち研究者の仕事って、今日何が起こるかわからない。一日が予想しにくい仕事なんです。

臨床医の時は、だいたい今日はこんな一日だろうと予想できて、その予想が外れると、あまりよくないんですよ。予想どおりにいくほうがいいんです。でも、研究は予想どおりにいかないほうがチャンス。

そういうことをやっているうちに、自分には研究のほうが合っているんじゃないかなと思い、結局そのまま研究者になって今日まで続けているんです。

【中山】でも、膨大な研究をするわけですよね。いろんなテスト、テスト、テストを重ねていって、何かを導き出す。先が見えないじゃないですか。それって、つらくないですか?

【山中】時間感覚がちょっと違うんです。臨床をやっている時は、毎日何か結果が出るという感じだったんですが、研究では一つの実験の結果が出るまでに1カ月かかるのは当たり前です。

プロジェクト全体の成果が出てくるまでに5年、10年という単位だったりしますから、時間の進み方が違うと言いますか。陸上競技にたとえれば、臨床は短距離走みたいな感じで、研究はマラソンに通じるものが、すごくありますね。

次のページ
人間万事塞翁が馬

関連記事

アクセスランキングRanking