1. PHPオンライン
  2. 生き方
  3. 虐待されても、浮気されても、なぜ別れられないのか?

生き方

虐待されても、浮気されても、なぜ別れられないのか?

加藤諦三(早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員)

2021年12月10日 公開 2023年07月26日 更新

恋が実ったようで実っていない。そういった恋がある。淋しさから逃れるために恋愛したり、結婚したりするから恋が実らない。そして失敗すると驚いたことに「相手が悪い」と考える。

数々の人生相談を受けてきた加藤諦三氏は、著書『なぜか恋愛がうまくいかない人の心理学』にて、よくない恋愛をしている人ほどその人間関係にしがみつくと語る。

そうした人たちは心理的な問題があると指摘するが、彼らの抱えているものとは。

※本稿は、加藤諦三 著『なぜか恋愛がうまくいかない人の心理学』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

よくない恋愛をしている人ほど、その恋愛にしがみつく

恋愛は「結婚したから恋が実った」などという簡単なものではない。成熟した愛でない限り、愛の関係が続くことはあり得ない。退屈しているから始まった恋愛や結婚はまず破綻する。

彼女はこの恋愛を始めたときに、退屈という実存的欲求不満から、自分の衝動を抑えることができなくなっていた。

実存的欲求とは生きがいとか、生きている意味とか、生活の張りとかいうものである。もしこのときに彼女が何か自分の人生に目的をもっていたら、この上司を追いかけなかった。

しかし彼女はこのときに退屈していた。

また自分の人生に目的をもっているときに始まった恋愛なら、そう簡単に破綻しない。

またもし彼女が好きで結婚していれば、別れるときにはスッキリと別れることができる。惨めな思いをすることはない。屈辱を味わうこともない。別れることがどんなに辛くても、先に進める。

退屈しているから始まった恋愛や結婚、それは人間関係依存症に陥っていく。

人間関係依存症、つまり憎しみがあり、惨めであるが、なかなか別れられない。相手と別れたいけど別れられない。

アルコール依存症と同じである。お酒をやめようと思ってもやめられない。この恋愛の破綻はちょうどギャンブル依存症になる人が、「退屈していたから、ギャンブルを始めた(註3)」と言うのと同じである。

彼女の場合、自分の心の葛藤を解決するための恋愛であった。そこに破綻の原因がある。

彼女がもし家を出たくて、家を出て心理的に自立して一人で暮らしているときに恋愛を始めたのなら、先にも書いたように、この恋愛は破綻にならなかった。

むずかしく言えば、自我同一性(アイデンティティ=これが自分だという実感)を確立しないままに恋に陥ったことが破綻の原因である。

どのような恋愛でもそれには様々な困難が伴う。自我同一性が確立すると欲求不満耐性度が高まる。いろいろな困難にも耐えられる。

自我が未確立な状態で、たまたま出会った人を好きになり、その人を追いかけて恋愛になっても、その恋愛は本質的には決して実らない。

男と女の関係はただでさえトラブルが起きやすい。ましてお互いに情緒的に未成熟な場合は、ことさらにそうである。

心理的に成長できない男性は何も要求をもたない女性を求める。逆にそのような女性は無条件で頼れる男性を求める。そしてお互いに、自分が心に葛藤を抱えているということを意識していない。

こうした関係は、表向きは男と女の関係であるが、内容的には男と女の関係ではない。双方が相手に看護師さんや医師を求めている。それでいながら自分は患者であるとは思っていない。

患者と看護師さんや医師の関係なら続くかもしれないが、大人の恋愛でこれは続かない。

この恋が破綻した両者の心理的背景は何か。まず夫が抱える心理的問題である。夫の隠れていた自我同一性の危機が、不倫という形で表面化した。

次に妻が抱える心理的問題である。小さい頃の養育者との愛着関係が不安定であったのだろう。不安であれば、今の人にしがみつく。とにかく振られるのが怖い。

だから彼女は今の関係にしがみつく。彼女が「しがみつかない生き方」をするためには不安定性愛着の解決が先決である。

次のページ
依存はなぜ生まれるのか

著者紹介

加藤諦三(かとう・たいぞう)

早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員

1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。

関連記事

アクセスランキングRanking