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生き方

虐待されても、浮気されても、なぜ別れられないのか?

加藤諦三(早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員)

2021年12月10日 公開 2023年07月26日 更新

 

依存はなぜ生まれるのか

30歳の妻と34歳の夫。

「主人は、公認の仲にして欲しいと言うんですね」。女の人とは今は別れられない。私さえ承知すれば生活も壊さない。私次第と言う、そこで悩んでいる。

愛人は同じ会社の女性、22歳。

彼女はその女性のところに電話した。結婚しなくていい、同棲でいい。少しの間公認にしたが、そうしたら朝の5時半から電話がかかってきて、夜中にもかかってくる。だんだんエスカレートしてきて、会って帰ってきて夜電話がある。私が出ると切る、主人が出るまでかける。そんなことが週に3回くらい。

カレン・ホルナイは自己蔑視している人は虐待されることを許すと言うが、その通りである。彼女は夫が自分を虐待することを許している。

彼女は別れたくはない。

家に帰ってきて、黙っている。主人は機嫌が悪い。こっちがいい顔をしていないと機嫌が悪い。アルコール依存症の人がアルコールに依存するように、彼女は彼に依存している。

『PowerandPersonality(権力と人間)』という名著を書いた政治学者のラスウェルは、アルコール依存症は実際政治家の職業病であると述べた後で、「絶えず自我に対する低い評価を持つ人は、この酒という妙薬に一再ならず頼るという事実がある(註4)」と書いている。

アルコール依存症の人と同じように人間関係依存症の人も、「絶えず自我に対する低い評価を持つ人」なのである。

さらに、彼女は彼に異常な価値を与えている。これが人間関係依存症の一つの特徴である。

こういうことになった原因を聞いたら、彼は「お前に色気がない、ズボンをはいているのが嫌だった」と言う。さらに彼は「彼女はスカートをはいていて色気がある」と言う。

「彼をそのようにしてしまったのは私」という言い方で彼をかばう。

ノーマン・E・ローゼンタールは人間関係依存症の一つのタイプとして「愛の幻想にとりつかれている」ということを挙げている(註5)。

依存心や自己蔑視から人間関係依存症になり、そこから抜けられないために人は、何と多くの耐えなくていい屈辱に耐えることだろうか。

彼女は9歳と7歳ないのではなく、誰にも依存することなく生きることを恐れているのである。

人間関係依存症のままで生きようとする限り、この屈辱に耐えなければならない。

夫は社内預金でもおろして、彼女とどこかに行ってしまうのではないかと不安である。アルコール依存症の人が酒なしで生きることを恐れているように、この奥さんは彼なしで生きることを恐れているのである。

この恐怖ゆえに彼女は、自分が折れて解決しようという姿勢になる。彼女は働く自信がないといいながらパートには出ている。働いて子供を育てる自信がないというのは噓で、一人で生きることが怖いのである。

ひきこもりとは、部屋にひきこもるから、社会に出られないと解釈されるが、社会に出られないというよりも、今いる家族と関係が切れないという面があろう。

ひきこもりは家族と依存症的関係にある。家族は嫌いだけれども家族と離れられない。そこで家の中で家族とかかわらないで、家族と一緒にいる。

ひきこもりばかりでなく、妻も、夫も、誰でも強度の依存心や自己蔑視から人間関係依存症になる可能性はある。

(註3)Mary Heineman, Losing Your Shirt, Hazelden, 1992, 2001

(註4Harold D. Lasswell, Power and Personality, W. W. Norton and Company Inc., 1948,『権力と人間』永井陽之助訳、創元社、一九五四年

(註5)Norman E. Rosenthal, M.D., The Emotional Revolution, CITADEL PRESS, Kensington Publishing Corp., 2002

【著者紹介】加藤諦三(かとう・たいぞう)
1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。    

 

著者紹介

加藤諦三(かとう・たいぞう)

早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員

1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。

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