別れに備えて、心の栞を挟む
にしてもここ最近の人間関係の狭さはさすがにヤバイ。数少ない友人とも気軽に会えなくなり、SNSでも人と絡む気はなく心を閉ざしている。そうして今や、一緒に住むパートナーだけが話し相手。子供もいないので、この人が死んだら一人か......と思うと、ちょっと怖くもなります。
先日、随筆家の武田百合子のエッセイを読んでいて、小説家の武田泰淳が亡くなってからの心情を綴った文章に出くわしました。先立った夫のことを、その切実な悲しみを、湿っぽくなくどこか朗らかに描けてしまう彼女の筆致に感嘆しながら、ふと、となりで寝ているパートナーに目をやりました。
この人が先に死んだら、この本を読んで悲しみを癒やそう。
いつか来るお別れに備えて、心の栞を挟むわたし。お互いまだ40ですが、なんとなく長く生きそうな気がしているわたしは、未来の自分の心をおだやかに保つために、こんな予防措置までとっているのです。
【山内マリコ(やまうち・まりこ)】
1980年、富山県生まれ。2008年「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞し、'12年に『ここは退屈迎えに来て』(幻冬舎文庫)でデビュー。『The Young Women’s Handbook~女の子、どう生きる?~』(光文社)など著書多数。