隠していた「地方の短大卒」が大きな強みに変わった
――ユーザーの反応を見ながら、稼ぎどころを探ったわけですね。
【moto】最初から何が当たるかわかる人なんていないと思いますよ。まずはやってみて、多くの人が何を知りたがっているか探るしかない。時には意外な情報がヒットする場合もあります。
私は最終学歴が地方の短大卒で、最初の就職先はホームセンターでしたが、ブログを始めたときからそのことは隠していました。決して他人に誇れるようなキャリアではないと思っていたので、当時は「元リクルートで年収1,000万円のジョブホッパー」というブランディングで情報発信していたんです。
ところがあるフォロワーさんから「motoさんが転職で年収アップできたのは、高学歴のエリートだからでしょ」というコメントが来るようになりました。そこで「実は短大卒で、ホームセンターでレジ打ちをしていました」という発信をしたら、「そこから年収1,000万円になるなんてすごい!」と思いがけずポジティブな反応が返ってきて、フォロワーがさらに増え、書籍の発売にも繋がりました。
このように、発信して初めて「こんな話がヒットするんだ」とわかることは多くあります。私もトライ&エラーを繰り返しながら、段々と多くの人に読んでもらえる勘所をつかんでいきました。
――その勘所をぜひ教えていただけませんか?
【moto】私が意識したのは、「自分にとっては当たり前だけど、他の人にとっては当たり前ではないこと」を発信すること。これが読者に面白いと思ってもらうコツです。
私は過去に5回以上の転職経験がありますが、世間の人は「何度も転職を繰り返す人は採用で不利になるし、たとえ転職できても年収は下がるのが普通だよね」と思っている。
それに対し、「そんなことないですよ。僕は転職するたびに年収も役職も上がっています、その方法の一つとして〇〇があります」と自分の実体験を発信してきました。こうした情報は読者にとって価値ある情報だったりするのです。
重要な意思決定なのに忘れる分野がチャンス
――実際に転職した経験のある人から言われると説得力がありますね。
【moto】転職のように、個人の体験談や事例を求める人が多い領域は他にもあります。私はよく「リクルートが事業展開している領域」で情報発信することを勧めています。例えばゼクシィ(恋愛・結婚)、リクナビ(就職・転職)、SUUMO(賃貸・住宅購入)などです。
結婚も転職も住宅購入も人生における重要な意思決定の場面なので、当事者はすごく悩みますよね。
「年収600万円の人はどんな家を買っているんだろう」「住宅ローンの審査にはどれくらい時間がかかるのかな」とか。ところが無事に住宅を購入できると、ほとんどの人が渦中にいた頃の悩みや苦労はすっかり忘れてしまい、その体験を他人と共有することもない。
でも実際は、今この瞬間も同じことで困っている人たちがたくさんいて、情報をほしがっています。ニーズがあるということは、お金が動く領域でもある。だから「のど元過ぎれば忘れてしまう」領域には個人の参入余地があると思います。
――「自分の体験に価値があるかもしれない」という視点さえあれば、一般のサラリーマンでもお金になる情報発信ができそうです。
【moto】もちろんです。皆さんも日常の中で価値ある体験をたくさんしているはずです。人は自分にとって有益な情報なら、お金を払います。有益な情報とは、「自分と同じ境遇の人が悩みをどのように解決し、その結果どうなったか」です。
私は有料のnoteでも情報発信をしていて、よく売れた記事の一つに「会食にお勧めな30店舗」がありますが、これも自分がサラリーマンとして飲み会や接待のお店選びに苦労した体験をもとに書いたものです。
同じように幹事を任されて困っているサラリーマンは多いので、私が「実際に使ってよかったお店」の情報をまとめてあげれば、「お金を出してでも買いたい」と思ってくれます。
他にも自分の営業経験から得た「新規アポの獲得術」をnoteで発信し、公開から12時間で約100万円を売り上げたこともあります。サラリーマンは本業で様々な苦労をしていて、解決するための知見も多い。それを発信することが副業で稼ぐ秘訣です。
副業は「労働集約型」ではなく「ストック型ビジネス」を
――副業をするにも時間が必要です。本業との両立で苦労したことは?
【moto】私の副業は「ストック型ビジネス」なので、実はそれほど時間をかけていません。
転職は誰もがする可能性があるし、人によっては何回もする。だから転職の記事を1本アップしておくだけで、次々と新しい読者が流入し、お金を生み続けてくれる。自分が働かなくてもコンテンツが勝手にユーザーを連れてきて、資産が積み上がっていく仕組みを作ったのです。
しかもツイッターで反応を見て、「これなら確実にニーズがある」とわかったテーマだけを狙い撃ちでブログに書くので、執筆の時間も最小限で済む。私のブログメディア「転職アンテナ」には、開設から5年間で18本の記事しか掲載していませんが、それだけで億単位の売り上げを作ることができました。忙しいサラリーマンが労働集約型の副業を始めると、必ず本業にも支障が出ます。
副業では「一つのコンテンツでいくら稼げるか」を意識し、自分が使った時間に対する売上を最大化する工夫をしてください。
【プロフィール】
moto(戸塚俊介)moto株式会社代表取締役
1987年、長野県生まれ。新卒で地元の短大を卒業後、ホームセンターに入社。その後、リクルートやスポットライト(現・楽天ペイメント)など複数社へ転職し、営業部長や事業責任者を務める。会社員として働きながら、自身の転職経験をもとにしたメディア「転職アンテナ」を立ち上げ、2021年4月に上場企業であるログリーへ売却。現在はmoto株式会社の代表取締役を務める。著書に『転職と副業のかけ算』(扶桑社)、『WORK 価値ある人材こそ生き残る』(日経BP)がある。
※(『THE21』2022年6月号特集「普通のサラリーマンが『副業で稼ぐ』ベストな方法」より)