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八つ当たり、愚痴...「はた迷惑な行為」が実は自分を守る心理学的な理由

渋谷昌三(目白大学名誉教授)

2022年12月12日 公開

 

「八つ当たり」は自分を守る巧みな行動

みなさんは会社で上司に叱られた日などに、帰宅途中の道端に立っている電柱やガードレールを蹴飛ばした経験はないだろうか。あるいは、親に「もっときちんと勉強しろ」とお説教されて、自室に戻ってからカバンをベッドに叩きつけたことはないだろうか。

このような行動を、心理学では転移攻撃と言う。実際に上司を蹴飛ばしたり、親に殴りかかるという行動が取れないから、自分の「怒り」を電柱やカバンにぶつけているわけだ。俗に言う「八つ当たり」である。

「八つ当たり」はネガティブな行為とみなされるが、「愚痴」と同様に自分を守る巧妙で、実利的な行動なのである。

自分の「怒り」を引き起こした原因である上司や親に対して直接反撃したら、それが社会的に強烈なしっぺ返しにあうし、自分の立場がさらに悪くなることを理解しているわけだし、さらに、「怒り」を自分の中にため込むことのデメリットを計算すると、別の対象に怒りを転移するのが得策なのである。

「八つ当たり」というのはあえて「筋違い」を選択し怒りを発散させるテクニックなのである。

この「あえて筋違いを選択する」という転移のテクニックを意識的にマスターしておかないと、無意識のうちに自分が怒りを向けている対象や人への攻撃が本当は筋違いなのかもしれない、ということに気づかない恐れがあるのだ。

転移のテクニックを習得する機会はいろいろありえるが、たとえば親との関係にもみることができる。

フロイト流に言うならば、人間の成長過程で子どもが最初に立ち向かわねばならない敵(=憎悪の対象)は親である。一般に反抗期と言われるものは、子どもが親と戦い、それを乗り越えていく過程なのだ。

これは「親殺し」と呼ばれることもある。もちろん実際に殺すわけではないのだが、ぶつかっていって、跳ね返されたり、いなされたりしていく過程で、子どもは成長し、親を克服していくのである。

決して、自分が見捨てられることのない信頼関係で結ばれた親との関係の中で、激しい葛藤を体験し、その感情を転移する方法を発見することで、実社会で通用するような転移行動のテクニックを習得することになる。これが社会に適応し、自分を守るための礎になるのだ。

ただし、八つ当たりや転移行動には自分を守るメリットがあるが、相手や場所、そしてその方法に細心の注意を払わないと、そのツケが自分に跳ね返ってくることを頭に入れておかなくてはならない。

 

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