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「人生に前向きな人」と「否定的な人」を分ける“嫌な記憶との付き合い方”

榎本博明(心理学博士)

2022年12月29日 公開

 

文脈を読み取り“出来事の流れ”を掴む

4コマ漫画というのがあるが、その中のひとつだけを見せられても、そこに描かれている出来事なり場面なりに、一体どんな意味があるのかなどわからない。出来事の流れが示されることで、1コマ1コマのもつ意味が決まるのである。

ひとつひとつの出来事に意味づけをするのは、じつは非常に能動的な作業なのだということがわかっている。「離人症」という神経症状がある。心のエネルギー水準が低下した状態のときに陥りやすいものといえる。

精神病理学者木村敏氏によれば、外界の事物や自分の身体についての実在感や現実感、充実感、重量感、自己所属感といった感覚が失われ、自分自身の自己がなくなってしまった感じに襲われるものである。

離人症になると、たとえばテレビを見ても、場面場面は見ているのに、全体の流れがつかめず、楽しむことができない。ひとつひとつの場面そのものに元々の意味があるというのではなく、流れの中に置かれることで、はじめてひとつひとつの場面の意味が決まってくる。

ゆえに、文脈を読み取ることができなければ、個々の場面をいくら見たところで意味がわからない。

生きていれば、さまざまな出来事を経験する。それら多くの出来事の羅列に対して因果関係をつけたりして、意味のある流れをつくるのは本人の役目である。そこに、その人の人生の文脈ができあがる。

前向きの文脈を生きている人は、何事も肯定的に受けとめる傾向がある。後ろ向きの文脈を生きている人が「もうダメだ」と思うような出来事に対しても、「何とかなるだろう」と考える。

人間不信の文脈を生きている人が「だまされないように注意しなくては」と思う相手に対しても、信頼の文脈を生きている人は「可哀相に、何とかしてあげなくちゃ」と思う。

 

人生への納得感が未来を動かす

これまでに私は、高校生から高齢者まで、数百人の人たちに「自己物語法」の面接を行ってきた。「記述式」を加えれば1000人を超える人たちの自己物語を抽出してきた。

面接を行った人たちには、時間をおいて何度か「自己物語法」を繰り返すことで、必要に応じた自己物語の書き換えのサポートもしてきた。

多くの方々の自己物語を聴取し、またその書き換えのお手伝いをしてきて、つぎのような確信を得るに至った。

「人生の良し悪しはライフイベントで決まるのではなく、それをどう意味づけるかで決まる」

自分の人生はそれほど悪くないと思う人のほうが、自分の人生は失敗だったと思う人よりも、必ずしも良いライフイベントに恵まれていたというわけでもない。

後悔することはもちろんいろいろあるけど、まあ人生ってこんなもんだろうという人のほうが、自分の人生はイヤなことばかりだったという人よりも、多くの困難を潜り抜けてきているということさえ珍しいことではない。

人生に納得するかどうかは、出会った困難の数や種類によるのではない。それをどう意味づけ、どう対処してきたかが問題なのである。

受験の失敗、親友との仲たがい、失恋、仕事上の失敗、上司との折り合いの悪さ、職業選択の失敗、配偶者選択の失敗、蓄財の失敗、会社の倒産、リストラによる解雇、突然の病気やケガなど、長い人生を生きていると、思いがけない困難に見舞われることがしばしばある。

こうした困難に出会わないのが良い人生かというと、必ずしもそうではないようだ。人生を前向きに歩んでいる人、未来に希望をもっている人には、とくに共通点がある。

それは、これまでに自分の身に降りかかった困難に対して、「今の自分にとっての糧になっている」といった意味づけをしていることだ。

あの報われない日々があったから、とくに精神力が鍛えられて、今の仕事上の成功につながった。いろいろと辛い目にあったおかげで、人の気持がわかる優しい人間になれた。

育った家庭がバラバラで不幸だったから、わが子には同じような思いをさせたくなくて、みんなで力を合わせる温かい家庭を築くことができた……と。

このように、「負のライフイベントにも今の自分につながる肯定的な意味を見つけることができれば、未来に向けて力が湧いてくる」のである。

 

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