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生き方

「他人と親しい関係を築けない人」が無意識に行うマイナス感情の外化

加藤諦三(早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員)

2023年04月24日 公開 2023年07月26日 更新

 

「自分が傷つかない恋」をしようとする

外化を行う者はいつになっても人間関係を深められない。そして、自分の小さな閉じ込められた世界で生きている。

つまり、その人が他人と接していないということである。相手が思いやりの言葉をかけてきてもそれを感じられない。逆に自分を責めていると受け取ってしまう。

相手が優しい気持ちでこちらのすることを見守っていても、それを感じられない。うまくできないとそれを責めていると受け取る。

自分の中に他人を非難する気持ちがあるとそれを外化するから、他人が自分を非難する気持ちをもっていると思ってしまう。

つまり外化する人は他人と接しているようであるが、現実の他人と接してはいない。

従って今日初めて会おうが、10年間接していようが同じことである。いつも自分の心の中にある他人と接しているに過ぎない。

外化する人は相手と接しているのではなく、相手を通して自分のマイナス感情と接しているだけである。10年間同じ屋根の下で暮らしてきた人に対してと、赤の他人に対してと同じ感情でつきあえるのである。

だからこそ今まで物凄く親しい「ふり」をしていても、一瞬のうちに全く赤の他人になってしまうという人がいるのである。

10年間同じ屋根の下で暮らしていても、感情が通いあっていない。そこで一瞬のうちにその人とは全く関係のない生活が始まっても、1つも悲しまないで平気な人がいる。

そして何もなかったように、次の人と平気で生活が始まる。

ことにその次の人とは今まで敵対していても平気で生活が始まる。そして前の人との関係は、何もなかったかのごとくに心の中からも頭の中から消えていく。人間関係も生活も時の流れと共に次第次第に積み重ねられていかない。

こういう人は自己疎外された人である。こういう人達が恋をするとどうなるのか? 恋をしても恋愛の実感がない。「こういう恋がいいなー」という恋である。周りから見てこういう恋がいいという恋を演じている。

自己疎外された人が「2人でよく歩いたわねー」と言う。しかしその言葉には、何かしみじみとした感情がこもっていない。

何事も現実の中で格闘して傷つかないで、解釈で逃げてしまう人々が恋をする。そうなると全て解釈なのである。自分が傷つかないように黒いカラスを白いと解釈する。「さようなら」を「愛しています」と解釈してしまう。それがずるさである。

自己疎外された人は、恋をしてはいるが、愛してはいない。だから相手次第で恋は冷めていく。

愛は状況と関係なく続くが、恋は状況で消える。自己疎外された人とは自分が自分で生きていない人である。自己疎外された人は、その人自身が生きていない。

何を体験しても、その人の本当の感情は意識から排除されている。あるいは何を体験しても深い感情が生じてこない。それは自分自身の固有の感情がないからである。

感情鈍化の中で嬉しいとか悲しいとかいう漫然とした不確かな感情しかない。そういう人は人を好きになるということを知らない。

これでは本当に好きなものを手に入れることはできない。本当に好きなものがどうしても分からない。

心の中には誰もいない。心の拠り所がない。だから利益しか頼るものがない。

 

人は誰しも孤独を抱えている

人は1人では生きられない。長く孤独でいるとそれだけで疲れる。孤独な人は誰でも心の底で孤独を癒したいと願う。

孤独を恐れる気持ちは最も基本的な恐怖かもしれない。他人とかかわりあうことそのこと自体が、孤独な人には欲求充足になる。

孤独に苦しんだ人はもちろん、孤独に苦しまない人にとっても、他者とのかかわりあいそれ自身が大きな意味をもつ。

逆に言えば相手に何かをしてあげない限り、人間はつきあってくれない。その何かをしてあげるということは、ときには精神的なことであり、ときには経済的なことである。

いずれにしても人は、何らかのものを得なければつきあわない。しかし、人は、一緒にいるだけで具体的には何の尽力がなくても相手の欲求を満たすという点を忘れてはならない。

【著者紹介】加藤諦三(かとう・たいぞう)
1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。

 

著者紹介

加藤諦三(かとう・たいぞう)

早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員

1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。

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