「ポジションを埋める採用」をやめる
「開発部の田中さん、来月末で退職だそうです」 「えっ、それは大変だ。すぐに採用活動をしないと」
社員が辞めることがわかったら、その空いたポジションを埋めるために新たな人材を採用しなくてはならない──日本の会社の人事部門、採用担当者の9割はこう考えるのではないでしょうか。
僕のところへは「社員が辞めるので採用したい」という相談がものすごく多いからです。いわゆる「ポジションを埋める採用」です。
よく考えると、これはおかしいのです。必要なのは、社員数を減らさないことではなく、ミッションに向かって業務が回っていくことです。田中さんが辞めても、業務に支障が出ない方法が見つかれば問題ありません。
むしろ田中さんの人件費が減った分、会社の利益は増えるかもしれません。1つのチャンスだと捉えられます。
実際、僕も部下が辞めるときには「業務を見直すチャンスだ」と考えてきました。ほとんどの場合、本当に必要でやっている仕事と、時間があるからやっている仕事に分かれます。
とくに日本人は真面目でヒマが怖いので、空いた時間も何かしら仕事をして埋めていたりします。それをまずは見極めます。そして、必要な仕事をほかのメンバーに譲り渡すことができるかどうかも検討します。ほかのメンバーにとって、成長できるチャンスかもしれないのです。
「田中さんがやっているこれこれの仕事、自分に任せてもらいたい!」と考えているメンバーがいることは十分考えられます。
もちろん、業務を整理したり、ほかのメンバーが引き継ぐことを検討をしたりする労力はかかります。僕も、いったん辞める人の業務を自分が全部受け継いで大変な目に遭ったことがあります。
それでも、安易にポジションを埋める採用をしなくてよかったと思っています。普段なかなかできない、業務の整理と効率化が一気に進むのですから。そうしてやってみて、やはり回らないとなれば採用をする──こういう順番でいいのではないでしょうか。
新しいポジションについても、「なぜ人が必要なのか、どういう人が必要なのか」をしっかり考えたうえで採用をしなければなりません。当たり前のことです。しかし、「ポジションを埋める」意識があると、しばしば誤った方向へ行ってしまいます。
たとえば、新規事業を立ち上げるにあたり、人事部門にも1人採用したいとします。「事業立ち上げまわりのことをお願いしたいので、その経験のある人事担当者を」ということで人を探しました。
しかし、適した人材はなかなか見つかりません。新規事業の立ち上げが迫っているのに、人事の席が空いています。このポジションを埋めなければ...!
最終的には、「人事経験者ならだれでもいい」ということになり、急ぎで採用。そして、あるとき思うのです。
「あれ? 新規事業の立ち上げについて、わかる人がだれもいないじゃないか」
こんなことが起きてしまうのです。
ポジションを埋める採用を続けていると、空いている状態が怖くなると思いますが、勇気をもって「必要な人を配置する」意識に変えていきましょう。
「給与が低いから採用できない」という嘘
次に「人を採りたいのに採れない」悩みについて考えてみます。その理由は何でしょうか。
「うちの会社は給与が低いから、人が来てくれないんです」
よく聞く話ですが、これは半分本当で、半分嘘だと思っています。
もちろん、一定のポジションになってくると、給与が合う・合わないという問題は出てきます。他社と比べて給与が低いことが不利になるのは当然です。給与を高くすることができれば、もっと人が来てくれるのかもしれません。
しかし、給与を上げる以外にできることはないでしょうか。「人が採れないのは、給与が低いからだ」と納得してしまい、できることをやっていなかったりしないでしょうか。
人が「この会社で働きたい」と思う理由は、お金だけではありません。むしろ、お金以外の報酬を重視する人も多いのです。
・ミッションへの共感
・仕事の面白さ
・成長できる環境
・仲間との良好な関係
・自己実現につながる仕事
その会社のミッションに共感し、自分が活躍しているところをイメージしてワクワクできれば、他社と比べて20%給与が低くても選ぶ人は多いはずです。50%も差があれば厳しいかもしれませんが、多くの場合は10%や20%くらいの差で「だからダメだ」と言っているのです。
それでは、給与を上げさえすれば、本当に人を採ることができるのでしょうか?
入社を希望する人は、今より増えるでしょう。しかし、お金に注目して「働きたい」と来てくれた人は、他社からもっといい給与をオファーされればそちらに行ってしまうかもしれません。お金は大事ですが、お金だけで動く人を仲間にしたいわけではありませんよね。
「給与が20%低いくらいならかまわない」
そう思ってもらえるくらい、ワクワクできる提案を考えることです。
採用担当者自身が会社のミッションに心から共感しており、ビジョンをリアルにイメージしているなら、そういう話ができるのではないでしょうか。
今は多少給与が低くても、ミッション実現に向かえばおのずとお金もついてくるでしょう。そして、会社としては頑張ってくれている社員にきちんと報いなくてはなりません。