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ドルが紙切れ同然になる!?…「通貨」はこれからどうなるのか

浜矩子(同志社大学大学院教授/「通貨」スペシャリスト)

2012年06月04日 公開 2023年01月05日 更新

ドルが紙切れ同然になる!?…「通貨」はこれからどうなるのか

同志社大学大学院教授であり、“通貨”に詳しい浜矩子は、近いうちにドルが急落するような事態が起きてもおかしくないと語る。その根拠や、日本円はどうなっていくのかについて、同氏の著書より解説する。

※浜矩子 著『「通貨」はこれからどうなるのか』(PHPビジネス新書)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

日本と円が握る「ドルの未来」

このまま放っておいたら、ドルが急落する日はいつ来てもおかしくない。円ドルベースで考えれば、かつての1ドル360円が、120円になり、80円になった。

それと比べれば、1ドル50円どころか1円になっても、まったく不思議ではない。もっともその時、ドルが存在しているかはわからない。

こう言うと、自分が持っているドルが一気に紙切れ同然になってしまうのでは、という懸念を持つ読者もおいでだろう。そして、それは十分にありえる事態だ。

たとえばニクソン・ショックの時も、それぐらい大きく為替が動くことも予想されていた。金本位制の廃止で、今まで金にその価値を裏打ちされていたドルが、いったいどれだけ下落してしまうかは、誰にもわからなかったからだ。

この時は大混乱する世界の為替市場を一時的に閉めて、各国が話し合いを持った。そして「スミソニアン合意」という新しい取り決めをすることで、とりあえず暴落の危機を乗り越えることができたわけだ。

つまり、ニクソン・ショックレベルのスケールの大きな混迷に再びドルが陥った時に、各国が何も手を下さなければ、ドルが一気に紙切れ同然になっても不思議はない、ということである。

もちろん、普通に考えれば、そこまでの事態が起こればさすがに各国も再び協調することで、為替を健全化しようと努力するだろう。

現状では考えにくいが、アメリカ自身が自ら主導してドル安へ向けての道筋を描くことができれば、アメリカもまだまだ「腐っても鯛」だと評価されるかもしれない。

だが、今度ばかりは、いくら各国が協調しても、為替コントロールが機能しない可能性もある。それは、今の世界の経済がグローバル化し、つながりすぎてしまっているからだ。

ギリシャ危機に際し、ヨーロッパの首脳たちが何度も集まり侃々諤々〈かんかんがくがく〉の議論を繰り返しても事態の収拾ができないのも、同じ理由からである。ドルに関しても、同じような事態になりかねない。

だが、ヨーロッパの場合は、イニシアチブを積極的に取れる国がないという問題がある。ある国がイニシアチブを取ることができれば、ドルを「そっと手放す」ほうに誘導することもできるのではないだろうか。

では、今誰がライオン(すでに猫並みになっている観は強いが)に鈴をつけるべきなのか。他でもない、日本である。

 

実は日本は、世界一の債権大国だった

日本がグローバル時代の先導役だ、などと言うと、「そんなまさか」という反応が多い。それもそのはずで、今、日本国中を被っている雰囲気は、「日本はもう破綻寸前」「GDPで中国に抜かれた」などといった話ばかり。景気のいい話はまったくもって見当たらない。

だが、日本がどれほどの債権大国であるかは、確認しておく必要がある。国富という数値がある。これは政府や企業など国全体が保有する資産から負債を差し引いた金額だが、これが2009年末で2712兆円という巨額に上っている。

また、毎年政府が発表する「対外資産負債残高」という数値がある。これは対外資産、つまり日本が海外に持っている債権の残高と、逆に海外からの負債の残高を差し引きしたもので、その結果債権のほうが多ければ「対外純資産残高」となる。

この数値がどのくらいになるかといえば、2010年度末で251兆円。これは、文句なしの世界一なのである。あまりに大きい数字でぴんと来ないかもしれないので、こんな説明ではいかがだろうか。

国の経常収支、という数値がある。これは国際収支統計の一部であり、世界共通のルールによって作成されるものだ。

具体的には、主に製品の輸出入を表す「貿易収支」、輸送や旅行、通信などのサービスを集計した「サービス収支」、海外子会社からの配当や海外証券投資による収益を表す「所得収支」、政府間の援助などが含まれる「経常移転収支」に分けられ、それぞれ集計される。

ちなみに2010年の経常収支を見てみると、貿易収支が約8兆円のプラス、サービス収支が1兆5000億円のマイナスなのに対し、所得収支が11兆6000億円のプラスとなっている。経常移転収支を勘案した後の経常収支は17兆1000億円の黒字となる。

2011年は東日本大震災の影響もあり、このうちの貿易収支が赤字となり、「ついに日本が貿易赤字に」と世間を賑わしたのは記憶に新しい。具体的には1兆6000億円の赤字であった。だが、その一方で所得収支の黒字はむしろ増えて14兆円に。その結果、経常収支は9兆6000億円の黒字となったのである。

この所得収支とは、つまりは日本の膨大な対外債権によってもたらされる収入である。今の日本は貿易赤字で大騒ぎしているが、実はその額は債権からもたらされる収入であっさりカバーされてしまうほどのものなのである。日本の経済は貿易によって成り立っているというのは、もはや幻想なのだ。

 

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