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ドルが紙切れ同然になる!?…「通貨」はこれからどうなるのか

浜矩子(同志社大学大学院教授/「通貨」スペシャリスト)

2012年06月04日 公開 2023年01月05日 更新

浜矩子

「隠れ基軸通貨」円が世界を動かした

日本が、そして円がどれほどの影響力を持っているか。それをいわば逆説的に我々に見せつけた時がある。

実はもう20年も前から、円が「隠れ基軸通貨」として世界を動かしていた、といったらどうだろう。そのキーワードとなるのが、「円キャリートレード」である。

日本の金融大緩和の結果、金利が実質ゼロ金利というくらいにまで下がる。そうなれば日本での資金調達コストは極めて低くなる。そこで、日本で資金を調達し、それをより成長の期待できる地域に投資することで、利ざやを稼ごうという動きが出てくる。これが円キャリートレードである。

これが最初に注目され、世界に大きな影響を及ぼしたのが、1990年代に起きたアジア通貨危機前後の展開の中においてである。

時は1985年のプラザ合意直後。円高によって国内産業の危機が叫ばれる一方で、新たなチャレンジを行う日本企業も存在した。その1つが、円高を利用したアジア各国への進出だった。タイ、マレーシア、インドネシアといった国々に多くの企業が進出していった。

この地域の多くの国が、ドルと連動して通貨価値が動く「ドルペッグ」という通貨体制を取っていたことも幸いし、多くの企業が「強い円」によって海外進出を進めていった。すると当然、それらの国の景気も過熟する。

だが、過ぎたるは及ばざるが如しで、それはいつしか、インフレと対ドル固定レート切り下げの圧力となって、各国を苦しめることになった。そこで各国は金利を上げることで、金融引き締めに動いた。

そんな中、日本ではバブルがはじけ、1995年にはついに円ドル相場が1ドル70円台になるなど円高不況が強まった。企業のアジア進出ブームはここで、一息つくことになる。

だが、今度は意外な方向から、アジアにマネーが流れ込むことになる。日本が不況対策として金融大緩和を行い、金利を下げたことで、資金調達コストが大きく下がった。ここで金利の低くなった円を借り、それをドルに換え、その資金をアジアに投資するという流れが加速していった。

先ほど紹介した「円キャリートレード」である。この流れに一役買ったのが、かのヘッジファンドである。アジア経済は、ますます過熱することになる。

一方、日本においては不況がさらに強まり、1997年には北海道拓殖銀行や山一證券が破綻するという事態に。損失補填のため、アジアからのジャパンマネーの大逆流が始まる。

するとそれをきっかけに、雪崩を起こすようにアジアからの資金引き上げが起こる。ヘッジファンドがそれに便乗することでその流れはさらに加速し、多くの東アジア諸国が破綻寸前の状態に追い込まれることになった。

このアジア通貨危機においては、ヘッジファンドの陰謀説が叫ばれたが、なんのことはない、彼らはただ流れに便乗し、それを加速させたにすぎない。「真犯人」は他でもない、円だったのである。

このようなカを持つに至った円は、いわば「隠れ基軸通貨」的存在だ。グローバル経済の成り行きに大きな影響を与えるようになっている。そしてその後も日本の超低金利は続き、今度はリーマン・ショックに至る資金の流れを助長することになる。

債権大国である日本の円は、これほどの影響力を持っているのである。むしろ何もしないことのほうがよほど無責任だと言わざるを得ない。

にもかかわらず、日本政府は積極的にこれからの通貨体制に関して提案しようとはしていない。逆に介入をすることで、円高を少しでも阻止しようとしている。そして、無理を続けるアメリカを自らの身を削ってまで支えようとしている。

なぜ、このようなことを繰り返すのか。どうしても輸出立国のイメージから決別できない。アメリカ追随がベストという観念からも脱却できない。

本当にアメリカのためを思うのであれば、身の丈に合った為替水準にドルが落ち着くよう、日本がイニシアチブを取って誘導すべきなのではないだろうか。

 

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