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「経験と勘」で意思決定を続ける日本企業の末路...仕事の質を上げる科学的思考

牧兼充(早稲田大学ビジネススクール准教授)

2023年03月31日 公開

 

「すべてを疑う」が意思決定の質を上げる

ここで、次の事例をチェックしてみましょう。ある企業の営業担当が上司から以下のように言われました。

「もっと頻繁に営業先に通うべきだ。契約の締結まで至った営業を見ていると、営業先に通っている回数が多い」

さて、営業先への訪問回数と契約の締結には、因果関係があると言えるでしょうか?

この話は一見するともっともらしく聞こえます。「営業担当が頻繁に営業先に通えば、相手から信頼を得ることができて、契約の締結に結びつくのだな」と考える人もいるかもしれませんが、第3の変数が隠れている可能性があります。

この事例で言えば、それは「営業先が実際に仕事を発注したいと思っているかの熱意」です。営業先が実際に仕事を発注したいと思っていれば、そもそもアポイントが取りやすく、営業先も説明を積極的に聞きたがります。

そして、そもそも営業先が仕事を発注したいと思っていれば、実際に契約を締結する確率も高くなります。この場合、営業担当による営業先への訪問回数と契約の締結の間に因果関係はなく、相関関係があるだけです。

真の因果関係は、「営業先が実際に仕事を発注したいと思っているので、営業担当の訪問回数が増える」「営業先が実際に仕事を発注したいと思っているので契約の締結に結びつく」ということになります。

第3の変数に気づかないと、こうしたバイアスに簡単に引っかかってしまいます。このように、見せかけの相関に見える場合、その裏に第3の変数バイアスが存在することもよくあります。

いずれにしても、このケースでは因果関係は成り立たないことが確認できました。「すべてを疑う」ことを実践してみてください。なお、この「すべてを疑う」ことは、科学的思考法でとても重要です。

因果関係と相関関係を見分けるスキルを学べば、もっともらしいデータを提示されても、見た瞬間に疑いを持つことができます。

間違いを見抜く力があれば、怪しいステートメントや風説に騙されることも減ります。だから、科学的思考法を身につけると、意思決定の質が確実に上がるのです。

 

信頼度を「4つの妥当性」で評価する

サイエンスの世界では、研究結果や論文の内容がどの程度真実なのかを判断するために「妥当性の評価」を行います。この場合の妥当性とは、「エビデンスとしてどれだけ信頼に足るか」を意味します。

やや専門的になりますが、こちらも因果関係と相関関係を区別し、真の因果関係が成り立つかをチェックする方法として、知っておくと役立ちます。

具体的には次の4つの妥当性について評価し、すべてクリアすれば信頼に足るエビデンスだと判断します。本当に因果関係があるかどうかを検証するためには、この4つを全部疑わなければいけません。

(1)内的妥当性(Internal Validity)
相関関係がある変数Aと変数Bについて、Aが原因でBが結果であると判断できるか?

(2)外的妥当性(External Validity)
示された因果関係は、多様な条件において、どの程度一般化できるか?

(3)構成概念妥当性(Construct Validity)
実際に測定したものは、因果関係で定義されている概念と、どの程度一致しているか?

(4)統計的結論の妥当性(Statistical Conclusion Validity)
原因と結果の変数に相関関係が示されており、統計的な有意差が存在するか? 

一見すると正しいことを言っているように思えるステートメントは、ビジネスの世界に溢れています。だからこそ、因果関係と相関関係を区別し、妥当性を評価するスキルを身につけることが求められます。

それが自身の意思決定の質を上げるのはもちろんのこと、上司などの意思決定権者が怪しいステートメントに基づいて判断を下そうとした際に、なぜそれを信頼すべきでないのかを合理的に説明することも可能になります。

トップマネジメントだけでなく、若手やミドルなど、すべてのビジネスパーソンが科学的思考法を学ぶことで、組織全体の意思決定レベルを向上させることができるのです。

 

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