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生き方

“僻みっぽい人”の奥底にある、親にわがままを認められなかった記憶

加藤諦三(早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員)

2023年07月19日 公開 2023年07月26日 更新

 

自分を愛してくれる人を排除しない

小さい頃、誰でも、わがままを認めてもらえない悔しさを体験する。そこで感情を爆発させる。こうして泣く子は、感情を吐き出しているから悪い子にならない。マイナスの感情を吐き出している子は自然と優しい子になる。

マズローは「防衛の尊重」ということをいっている。子どもの心の傷を癒やしてあげることで、子どもは前進できるようになる。

「成長しない理由もまた認め、尊重するのである」(註5)

何かにしがみついている子どもは、成長出来ない理由がある。そのことを理解してあげることで子どもは心理的に成長出来る。泣くことを我慢した子の方が、感情が吐けていないから素直になれない。すねる、頑固になる。

中には泣いても、泣いても、周囲の人が気持ちを分かってくれない子どももいる。そこで子どもは泣くのを止める。その時には無力感が心の中に広がる。自分の訴えは何の効果もないと感じるから無気力になる。努力しても意味がないと思うから努力をしなくなる。

大人であれ、子どもであれ、マイナスの感情を吐き出させることは前に進むために必要なことである。「前に進むために必要なことである」が、現実には誰でもがマイナスの感情を吐き出せるわけではない。だからこそ多くの人は、成長しないで、退行に固着する。

よく「愛されるためにはどうしたらいいか?」という相談がある。理屈は簡単なことである。自分を愛してくれる人を自分の方から排除しなければいい。それだけで人は愛される。

二人で食事をしている時、「その食べ方、おかしいよ」と注意してくれる人が、あなたを愛している人である。ふれあっているからそういえる。「私は愛されない」と不満な人は、そういってくれる人を自分の方から遠ざけている。だから愛してくれる人が、そういう人の周囲にはいなくなっただけのことである。

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近親相姦願望とは、保護と安全の希求。自己のナルシシズムを充足、責任、自由、意識性にともなう負担から逃れようとする渇望、無条件の愛への希求。(註6)
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たとえば、二人で食事中、「あなたは素敵、好きよ」という人がいた。この言葉は、その人の「無条件の愛への希求」を満たしてくれる。

しかし、これは二人の心がふれあっていない。愛情飢餓感が強くて、人を見分けられない人は成長出来ない。味覚が分からない人を考えてみれば分かる。すっぱいも、にがいも分からない。腐ったものを食べても分からない。そしてお腹を壊す。

【註1】Joseph LeDoux, Emotion, Memory and the Brain, Scientific American, June 1994, pp.50-57
【註2】Abraham H. Maslow, Toward A Psychology of Being, D. Van Nostrand Co. Inc., 1962, p.54
【註3】ibid., p.55
【註4】ibid., p.55
【註5】Abraham H. Maslow, Toward A Psychology of Being, D. Van Nostrand Co. Inc., 1962,『完全なる人間』上田吉一訳、誠信書房、1964年6月10日、84頁
【註6】Abraham H. Maslow, Toward A Psychology of Being, D. Van Nostrand Co. Inc., 1962,『完全なる人間』上田吉一訳、誠信書房、1964年6月10日

【著者紹介】加藤諦三(かとう・たいぞう)
1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。

 

著者紹介

加藤諦三(かとう・たいぞう)

早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員

1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。

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