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EUが環境問題に熱心な理由は? 背後にある“アメリカへの挑戦状”

内山力(MCシステム研究所代表取締役)

2023年07月24日 公開

EUが環境問題に熱心な理由は? 背後にある“アメリカへの挑戦状”

「GX(グリーントランスフォーメーション)」という言葉が広がりつつある昨今。日本では環境とビジネスの融合が不可避だとされつつある。それ以上に環境問題に厳しいのが「EU」だ。そしてその理由は、実は世界のリーダー・アメリカに対するEUからの「挑戦状」なのだという。

※本稿は、内山力著『1冊でわかるGX グリーントランスフォーメーション』(PHPビジネス新書)より、一部抜粋・編集したものです。

 

ヨーロッパはデカップリングでGXを進める

地球温暖化というテーマに関して、経済への影響を考えて消極的な米中に対して、積極的なのがEUである。ここで彼らが言い出したキーワードは「デカップリング」である。これはアメリカが取り入れられない考え方である。

デカップリングとはカップル(くっつく)の反対、すなわち「切り離す」という意味である。

これまでの政治の常識では、経済成長とエネルギー消費は「カップル」であり、国の成長のためにはエネルギーが必要というものであった。このエネルギーの中心は、石油というカーボン・エネルギー(カーボンを出すエネルギー)である。

デカップリングとは、経済成長とエネルギー問題を切り離すという考え方である。つまり、これまでの常識である「経済発展のためにカーボン・エネルギーが必要」という主張を覆し、「カーボンを削減しても経済を成長させることができる」というものである。

この仮説こそが、EUがカーボン・ニュートラルへ踏み込んだ理由である。そしてこの「成長」は、これまで考えてきた「企業利益の増大」ではなく、「社会利益の増大=国民の幸福」である。

アメリカは資本主義(「企業のカネ」=「資本」が社会を発展させる)であるが、ヨーロッパは社会主義(社会利益を国が守る)である。つまりそもそも政治の考え方(イデオロギー)が違っている。ヨーロッパでは社会利益のために国が企業をコントロールすることができる。

もう一つ、アメリカとヨーロッパで異なっている点がある。それは石油である。ヨーロッパはこれまでの石油に頼った経済運営が、自らの国際競争力を落としてしまったと感じている。

石油産出量の世界ランキングは、アメリカ、サウジアラビア、ロシア、カナダ、中国の順である。これこそがアメリカがヨーロッパを超えて経済成長した理由であり、中国がアメリカと対等に戦っている理由である。そしてロシアがウクライナに戦争を仕掛け、欧米から経済制裁でハブられても生き続けている理由である。

「石油をなくす」ということは、この国際秩序が大きく変わることを意味している。

ヨーロッパは石油というカーボン・エネルギーの使用を世界各国が減らすことで、自らの国際競争力が高まるという仮説を持っている。

そのため、かなり昔からカーボン・エネルギーを使用しないことを経済政策のベクトルとしており、カーボン排出量は日本よりも少ない(EU全体ではなく国別に見てではあるが)。「地球温暖化」「カーボン・ニュートラル」も、EUがその発信源である。

つまり、EUにとってカーボン・ニュートラルは、アメリカ、中国を押さえて世界チャンピオンに返り咲く絶好のチャンスといえるのだ。

 

新たな米中対立の火種

一方、現世界チャンピオンのアメリカはこの「グリーン」「カーボン・ニュートラル」に悩んでいる。企業第一の資本主義国家アメリカにとって、EUのいうデカップリング、つまり経済発展とグリーンを切り離して両立することなどできっこない。

これまでアメリカの発展を支えてきた自動車をはじめとする工業、オイルメジャー(世界の石油産業を支配したアメリカの巨大企業)にとって大きなダメージとなるからだ。

この伝統的な産業の凋落をリカバリーしているのはIT産業である。しかしIT企業はグローバル化し、「アメリカの企業=アメリカの国民が働く場」ではなくなっている。つまり働くアメリカ国民から見て、IT産業は工業のパワーダウンを支える存在にはなっていない。

こうした中で、苦しくなった伝統的産業にとってダメージとなることは少しでも先延ばししたい。4年間という任期で選挙によって選ばれる大統領にとって、30年後(2050年)、ましてや22世紀のことなどなかなか考えられない。それでもさすがに世界のリーダーとしてこの風に逆らうわけにはいかず、「ゆっくりとグリーンに向かう」しかない。

この風によりダウンした分のリカバリーは、これまでのアメリカがやってきたことと同じ手を使うしかない。グリーンエネルギー向けの新事業、新商品を開発し、開発途上国へこれを売っていくというものである。しかし、このグリーンの商品像がつかめずにいる。

これが、アメリカの国としての共通の想いである。

そして、それと同じようなことを考えているのが中国だ。だからこそアメリカは中国やインドと「同じ土俵で」ということにこだわっている。

分断の国アメリカに対し、中国は共産党の一枚岩でブレがない。そして過去の栄光がない分、GXという変革によるダメージも少ない。そのためGXビジネスも、これまでやってきたようにゆっくりと後方からキャッチアップするという姿勢を取っている。

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GXによって三分割される世界

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