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アメリカでは犯罪の「養育費の不払い」...子どもの権利を放置し続ける日本

泉房穂(政治家、弁護士、社会福祉士)

2023年02月10日 公開 2024年12月16日 更新

アメリカでは犯罪の「養育費の不払い」...子どもの権利を放置し続ける日本


写真:片岡杏子

今最もその活動に注目が集まる政治家・泉房穂氏。2011年に明石市長として当選し3期12年間に及ぶ活動の中で、高校生までの医療費や第2子以降の保育料の無料化、ひとり親や無戸籍者に対する支援、市内47ヶ所にこども食堂の設置を推進するなど、数々の"こどもをファースト"な政策を実現してきました。

日本の将来を憂い「やさしい社会を明石から」をスローガンに奮闘してきた泉市長が、その胸中と日本が抱える「政治・法律の貧困」について明かします。

※本稿は、泉房穂著『社会の変え方 日本の政治をあきらめていたすべての人へ』(ライツ社)から、一部抜粋・編集したものです。

 

子どもを尊重し権利が広がる社会に

結婚する人が減り、それにともない離婚件数もゆるやかに減少。それでも日本では1年に20万組ほどが離婚しています。そのうち未成年の子どもがいる割合は、2020年で約6割。およそ20万人の子どもが親の離婚に巻き込まれています。

「どっちが連れていく?」と、子どもがまるでカバンのように扱われていることに疑問をいだいたのは、弁護士になりたてのころでした。

依頼人の代わりに小学生のお子さんを学校まで迎えに行ったときのこと。その子が泣きながら、「本当は離婚なんかしてほしくない。自分にとってはいいお父さんだから」と訴えてきました。

「この子の声を代弁する大人がおらんやないか……」と胸が苦しくなりました。

離婚の際、必要であれば夫にも妻にも弁護士がつきます。それなのに、子どもに弁護士はつきません。子どもの存在を無視した、荒っぽく、めちゃくちゃな制度が日本では運用されていました。

調べてみると、世界では「子どもができる限り離婚の影響を受けないように」するのがあたりまえ。「子どもの養育に関するルール」を設けている国は、たくさんあったのです。

子どもを守るルールがない。子どもの声を代弁する大人がいない日本。なぜこんなひどい事態を平気で放置しているのか。なぜ変えようとしないのか。

「従来のルールだからしょうがない」と思考停止することなく、今の現実社会に、実際に暮らす市民にしっかり向き合う。「公」に関わる人が欠いてはならない、もっとも基本的な姿勢のはずです。

それでも、向き合うことをしない。向き合おうとも思ってもいない。旧来の慣習が今の社会にそぐわないのに、現実を鑑みないのは怠慢だとの思いです。政治も行政も、それに関わる人も、みんなが漫然と放置してきた。それが問題の根底にあると睨んでいます。

ここにも発想の転換が必要です。当然、すみやかに。気づいた者が見過ごさない。時代に合わない不条理を変えることは、政治や行政の「存在意義」そのものに関わることです。

国会議員のころ、このテーマをなんとかしようと動きましたが、当時はまともに取り合ってくれないような状況でした。

それなら、何もしようとしない冷たい社会をまず明石から変える。具体的な問題解決につながるよう、市長就任後、第一人者の方々に知恵をお借りしました。毎月1回、勉強会を開催。全国どこでも実施できるしくみにすることを意識して、入念に検討を重ねていきました。

その成果として、まずは離婚届を取りに来られた方に「こどもの養育に関する合意書」などの参考書式を配ることを始めました。

養育費の金額はもちろん、支払い期間や振込口座、子どもの生活拠点、面会交流の方法や頻度・場所などを記入できます。市への提出書類ではなく、法的な強制力はありませんが、公正証書を作成する際の資料として活用できます。希望者には、法テラスの窓口をご案内することもあります。

2014年に明石が始めた取り組みは、2015年度の厚生労働白書で紹介されました。その後、法務省が明石をモデルにパンフレットを作成し、2016年から全国の自治体に配布。1つの自治体が始めた取り組みが、国を動かしたのです。

その次は、離婚後の子どもの「面会交流支援」を始めました。自分の親に会うこと、面会交流は「子どもの権利」です。子ども自身が会いたいと望むなら、離れて暮らす親に会えるよう支援する。ここでも見るべきは「親」ではなく「子ども」。子どもの意思と権利を尊重するのが、明石市の立場です。

「別れた親に会わせていない」というひとり親家庭は5割以上。だからといって、離婚で心も体も疲弊している親に「子どもが会いたいと言ってるから、会わせなさい」と言うのは、あまりに酷な仕打ちです。

そこで明石市では、別れた親とその子どもが面会する場に、市の職員が立ち会うようにしました。連絡も職員が代理で行います。

保育園で周りの子がお父さんの絵を描いているとき、「お父さんのことは大好きだったのに、顔が思い出せない」。そんなとき、子どもが会いたいと望み、同居親が納得すれば、市の職員が別れた親に連絡をとります。職員が汗をかき、知恵を出し、対面を実現する。2016年から始めた取り組みは300回を超えました。

 

ひとり親家庭の貧困から目を背ける日本

面会交流を始めた2年後に、子どもの養育費の立替え支援も開始しました。2018年のことです。厚生労働省の調査では、養育費を実際に受け取っている割合は、母子家庭では4分の1以下。1度も受け取ったことのない家庭も半数以上あります。

これまで日本では、泣き寝入りが普通のことになっていたのです。養育費をアテにしていたら「えっ?」と言われかねない。その感覚のほうがおかしいことに、世の中の多くの人が気づいていませんでした。

養育費の不払いは、アメリカでは「犯罪」です。北欧諸国や韓国では、国が養育費を立替えたり、強制徴収(給料から天引き)する制度があります。立替えも、強制徴収も、罰則も、何もしてこなかったのは冷たい日本くらいです。到底見過ごすことはできません。

他国の制度を参考に、全国初となる養育費の立替えを明石市独自で始めました。明石市からの提案が採用され、まず民間会社と連携した立替えを2018年に実施。あたりまえですが「審査なし」。これは先行した明石市だけです。

民間では採算性がなければ実施は厳しいため、その後に続いた自治体では別の制度のように「審査あり」で導入されています。審査が入れば、支払い義務者の資力が問われ、本当に支援の必要なお金のないケースでも制度が利用できず、救われないことになりかねません。海外のように公の行政が立替えを行うべきです。

こうして民間とのパイロット事業を経て、明石市では2020年から、まずは1ヶ月分の公的立替えを市単独で開始しました。

市の制度では、支払い義務者に市が直接働きかけます。支払いがなければ、義務者に市が督促。それでも不払いなら、市が養育費を立替えし、義務者から回収するしくみです。2022年には立替え期間を3ヶ月に拡充。裁判所への差押手続きの支援も開始しました。

そもそも養育費の取り決めがないのは、母子家庭では半数以上という厚労省の調査結果が公表されています。ですからもちろん、取り決めも市が支援します。取り決めから立替え、差押えまで総合的に支援しているのが明石市の特徴です。

それだけではありません。子ども養育専門相談をはじめとする相談・情報提供のほか、関係機関と連携するネットワーク会議を定期的に開催するなど、国に先んじて子ども養育支援を続けてきました。

しかしながら、これも明石市だけの問題ではありません。全国の自治体どこでも共通で、喫緊の課題なのです。子どもやひとり親家庭の貧困の原因は、まさに「政治・法律の貧困」です。少子化、格差社会、貧困の連鎖など、社会課題の解決の観点からも、本来は国がすみやかに法整備をするべきだと訴え続けています。

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やってるフリではなく「本気で」

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