ビジネス書を中心に1冊10分で読める本の要約をお届けしているサービス「flier(フライヤー)」(https://www.flierinc.com/)。
こちらで紹介している本の中から、特にワンランク上のビジネスパーソンを目指す方に読んでほしい一冊を、CEOの大賀康史がチョイスします。
今回、紹介するのは『忘却の整理学』(外山滋比古、筑摩書房)。この本がビジネスパーソンにとってどう重要なのか。何を学ぶべきなのか。詳細に解説する。
「忘れないこと」は良いこと?
「ノートを忘れました」「その作業をすることを失念していました」「ミーティング時間をうっかり忘れていました」という言葉で連想されるように、忘れることは重大なミスだと考えられています。この後には「申し訳ございません」という言葉が続きそうです。
私たちは学校教育を受けていたときから、忘れないことを美徳としてとらえていて、記憶力がいいことは優れた特性だと考えられています。そして、それを見直そうという試みが本書です。
周りには忘れっぽくて幸せそうにしている人もたくさんいますし、記憶力が良すぎるために過去のできごとに縛られて生きている人もいます。
私自身は記憶系の科目が好きではなかった、というか、はっきり言えば苦手で、漢字や英単語を覚えることにとても苦労しました。あらゆる勉強は記憶という要素があるため、記憶力が抜群にいい人をうらやましいと感じていました。
『忘却の整理学』は、記憶力が抜群に優れた一部の人を除いた多くの人が励まされる一冊です。本書で語られている忘却の隠れた効用について触れていきたいと思います。
忘却の効用とは
人間にとって記憶と忘却は車の両輪をなします。人は記憶や認識のしかたにも個性が出ますが、より個性が表れるのは忘却のしかたです。同じものを見ても人によって記憶としての残し方に差があるように、長い年月が経ったことの忘れ方は人それぞれです。
ほぼ同じように記憶して半永久的に残すことができるコンピューターを想像するとわかりやすいでしょう。ただ、そこにはコンピューターによる違いがないことから、没個性的であるとも言えます。
人はそれぞれに違った記憶をして、違った忘れ方をすることで個性的な存在となり、コンピューターにできないことをなしとげているようです。不要な部分を忘却することによって望ましい記憶が強められる傾向もあります。人間の思考は、コンピューターの処理とは質的に異なるものだと言えます。
一定の年を重ねた人にとって、幼いころの記憶は甘美なメルヘンの世界となっているかもしれません。忘却によって自然に美化されるのは、そもそも忘却に授けられているおのずからの叙述性によるものでしょう。古い友人は新しい付き合いよりも味わいが深いのも、そのような過去の美化のたまものかもしれません。
その一方で、記憶力がつよい人はうっかりすると知的閉塞になり、なんでも知っているのに融通がきかない状態におちいります。適度に忘却を働かせるのは、知的にも精神的にも望ましいことです。