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仏教の視点で考える「形式だけの不要な会議」との向き合い方

大賀康史(フライヤーCEO)

2024年01月24日 公開

仏教の視点で考える「形式だけの不要な会議」との向き合い方

ビジネス書を中心に1冊10分で読める本の要約をお届けしているサービス「flier(フライヤー)」(https://www.flierinc.com/)。
こちらで紹介している本の中から、特にワンランク上のビジネスパーソンを目指す方に読んでほしい一冊を、CEOの大賀康史がチョイスします。

今回、紹介するのは『ビジネスシーンを生き抜くための仏教思考』(松波龍源著、野村 高文編集、イースト・プレス)。この本がビジネスパーソンにとってどう重要なのか。何を学ぶべきなのか。詳細に解説する。

 

仏教は思想

ビジネスシーンを生き抜くための仏教思考

皆さんの多くの方が、法事やお葬式で触れる仏教をイメージされているかもしれません。また、例えば修学旅行や海外からの観光客の人気スポットとしても、金閣寺、清水寺、龍安寺などのお寺は存在感があります。

諸説ありますが日本人の多くは無宗教とも言われていて、初詣やクリスマスなどのイベントで様々な宗教の慣習に触れています。

キリスト教やイスラム教などは一神教と言われているのに対して、元々の仏教には絶対的な「神」の存在を想定しない「無神的宗教」であるという特徴があります。

仏教は宗教の一つと扱われますが、思想や哲学の色が強いものです。その思想体系に触れていくと、古いという感じは全くなく、今なおより意味を持つものだと感じさせます。

著者の松波龍源さんはビルマ語を学び、中国で5年間の武術修行を経て、真言宗の寺院で修行を重ね僧侶となられました。実際にミャンマーに行き、現地の高僧の話を直接聞かれ、源流と言える仏教思想にも明るい方です。

仏教思想という深い世界への導入に、メタバースやブルシット・ジョブなど身近なテーマが取り上げられています。それらの単語が著者の教えを通すと、普遍的な内容を秘めていることに驚きがあります。

 

メタバースとメタ認知

主にインターネット空間上の仮想空間のことをメタバースと呼びます。メタバース空間内では自分の代わりに動くアバターを操作して、他のアバターと交流します。ログインしてその世界観に入ることと、現世に暮らすことが近いかもしれないと言われるとちょっと戸惑うかもしれません。

著者によると、仏教のゴールは「さとり」の境地に達することであり、言い換えると完全なるメタ認知を獲得して、時間や空間の認知スケールを自由自在にコントロールできるようになることだとされています。

現実世界を一つ上の世界から眺めると、今の体もアバターのようなものとすら言えるそうです。一つ上の世界から見ると、この世界がメタバース。我々の世界から見ると、画面に映し出された世界が一つ下のメタバースということになります。

私たちが恐れる「死」というものも、一つ上の世界から見ると、メタバースにおけるログアウトとも考えられます。

私自身は宇宙が入れ子、別の言葉ではフラクタル構造のようになっているようにも思っています。原子のスケール、惑星のスケール、太陽系のスケール、銀河系のスケールで似たような構造になっているのも興味深い事象です。

もしかしたら、我々が想像しているビッグバンによる宇宙の誕生ですら、一つの星の誕生のように見えるスケールがあって、メタな視点からもっと大きな宇宙の一部に過ぎないのではとも考えられます。

私たちのビジネスにおいても、時間や空間の認知スケールを自由自在にすれば、より複雑化する環境もうまく渡り歩けるかもしれません。今は変化の激しい時代なので、予想通りに戦略や施策の結果が得られないことが多くなります。

その時に時間軸を柔軟に変え、成果までの期間を早めたり遅らせたりして、目標に向かうことが組織運営上望ましいスタンスかもしれません。これも仏教思想によるメタ認知の応用と言えそうです。

 

ブルシット・ジョブと修行

皆さんはブルシット・ジョブという言葉を聞いたことがありますでしょうか。元々はアメリカの人類学者デヴィット・グレーバーが2013年に提唱した概念です。

具体的には、誰が見ても不要な形だけの会議、上司への報告のためだけにレポートを書く作業などの、明らかに不要な仕事を指します。

誰でも自分の仕事をブルシット・ジョブだと思う瞬間はあるのでないでしょうか。特に今までの慣例にならった惰性でしている仕事は要注意です。本当にその仕事がブルシット・ジョブなのかもしれませんが、ただ一度立ち止まって考えてみることを著者は勧めています。

自分からの視点だと、どうでもいい仕事だと思えるようなものでも、もしかしたら上長の視点や会社全体の全体最適からは必要な仕事なのかもしれない。そういう可能性を見出すようなマインドでその仕事に臨んでみては、と諭されています。

それに似たことを著者は仏教の修行に感じられたそうです。修行の中で、毎日同じ場所の掃除をさせられます。庭掃除と言われても、抜く草もないし集める落ち葉もない。雑巾がけも毎日同じ場所です。

そして著者は修行の中で、勝手に意味を求めて「これは意味のないことだ」と決めつけているのは、自分の心なのだと思いが至ったそうです。

どんなできごとや仕事でも、仏教における修行のように自分の成長につなげることは可能です。ブルシット・ジョブだと感じることも、そう思わないことも、自分の心次第でもあるのです。

 

変化の激しい現代に合う思想

本書にはその他にも本格的な仏教思想の重要な言葉を解説されています。一切皆苦(いっさいかいく)、因果・縁起(えんぎ)、空(くう)、唯識(ゆいしき)、諸行無常、利他、さとり、などの言葉は聞いたことがある人が多いのではないでしょうか。その一つ一つの意味も、個別の章に分けて本書に詳しく解説されています。

仏教思想は、一つ一つの言葉が思想体系として相互に補強し合っていて、矛盾や無駄がないと感じさせることが特徴的と言えます。

例えば、空の概念はものごとが存在しないという無なのではなく、あらゆるものがその実は可能性の海のような状態であると言います。

全ては、周りのものとの関わりで支えられていて(縁起)、常に移り変わり永遠不変ではなく(諸行無常)、人々の心から現れた表象である(唯識)、というように、それぞれが理論としても支え合っていることが本書からもうかがえます。

本質にまで到達した真理だと信じられるものは、応用範囲が広いものでもあります。宗教や哲学や歴史などの分野はその傾向が強く、その中でも仏教思想は特に普遍的であるゆえに、長く語られ続けていると言えるでしょう。

現世に生きる私たちにとって、本書のような考え方はより生きやすくするものでもありますし、その仏教思想ですらも世界のとらえ方の一つと疑うことも哲学的思考かもしれません。

本書は難解とも言える本格的な仏教思想が、想像以上にわかりやすくまとめられています。良質な知的探求にぴったりの一冊でしょう。

 

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