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仕事も育児も楽しもう! 子育てパパの奮戦記 『桜川ピクニック』

安藤哲也(NPO法人「Fathering Japan」ファウンダー)

2012年08月31日 公開 2022年12月26日 更新

仕事も育児も楽しもう! 子育てパパの奮戦記 『桜川ピクニック』

子育てパパへの応援歌『桜川ピクニック』

男性の子育て参加の必要性が叫ばれたのは、昭和の時代から何度となくあった。だがここに来て、ようやく定着化の兆しが見られる。平成23年の男性の育児休業の取得率も2.63%と過去最高を記録し(まだ低水準だが)、広島県や三重県の男性知事が育休を取ることを実行、明言するなど、実社会の最前線で働く男性にも広がりを見せているのだ。

またイクメンタレントの活躍はじめ、映画やTVドラマ、コミックといったエンターテインメントの分野でパパの子育てや父子家庭をテーマにしたものが増えており、父親育児はいま花盛りだ。

こうしたある種の「イクメン・インフレ状態」が続く中で出た本書『桜川ピクニック』(川端裕人:著/PHP文庫)は、まだまだそうはいっても男性が育児に関わることの難しさ(社会的環境の不備)、そして内面的な問題を浮き彫りにする。

「子育ては楽しい。父親になってよかった。でも何か物足りない」といった、パパたちの生々しい心情や葛藤をリアルに描いた現在進行形のパパ育児問題小説なのだ。その内容、パパたちの心の雄叫びは、私が主宰する父親支援のNPO法人「Fathering Japan」で出会う父親たちと確実にリンクしている。

また著者の川端氏も育児や地域参画を積極的に行ってきたパパで、本書の随所にその実体験が反映されているように思える。

それは単なる「義務感」や「ママの手伝い」レベルの関わり方では計り知れない、こんちくしょうな育児の実態や「現場」がしっかり描かれており、主体性と子育ての第一責任者としての自覚と自負を携えて幸福を追求した著者ならではの、読者たる現役パパへの応援歌なのだろうと思う。

短篇の中で、『うんてんしんとだっこひめ』や『おしり関係』では、乳幼児のいる家庭ならどこでも起こりうる「小さな事件」が共感と苦笑を誘う。

どちらも特にスッキリする「結末」が用意されているわけではなく、子育て家庭で本当にありそうな日常を切り取っただけなのだが、小さな子の育児なんてそんなもので、常にモヤモヤ・フワフワの連続。この時期、それは仕方なく、答えを求めてはいけないのだ(やっている人はわかる)。

いちばん笑えた『夜明け前』は、保育園の「パパ友」たちが交流会を初めて開くというストーリー。

日頃の育児や夫婦間ストレスを発散させるべく、パパたちは酒の勢いもあってか予想外に羽目をはずしそうになるが、そこで寝ているはずの子どもから電話が入ったり、ママからメールで胸騒ぎがするシーンなどは現実的になさそうだが実は結構ある。それは私も経験済みで、「いやあ、子どもって、妻って怖いなあ」と思い、父親として謙虚に生きようと悟るのだ。

かわって『青のウルトラマン』『前線』では、児童虐待や男性の育休取得といったヘビーなテーマが話の軸になっている。子どもが生まれる前は考えもしなかった現代社会の問題点に気づき、そこに父親として、一人の市民として向き合い、自ら解決せんとする人間としての苦悶や成長が見事に表現されている。  

 

古いOSを入れ替えよう

私のNPOのスローガンも「笑っている父親が社会を変える!」。そう、親になるということは、わが子の養育だけでなく、「子どもを取り巻く、社会の課題を解決する」という大切なミッション(使命)を背負うことになるのだ。

とまあ、偉そうに言う私も20代の頃は好きな仕事に没頭し、子どものことも特に好きではなかった。でも35歳で娘が生まれたとき、直感的に「育児は義務ではなく、楽しい権利なのではないか?」と思ったのだ。子どものいる暮らしを家族や地域で目いっぱい楽しみたい。

そうやって主体的に子育てに関わることで、ひょっとしたら父親として、大人として、地域社会の一員として自分が成長していけるのでは、という予感があったのだ。そのためには独身の頃と同じことをしていてはダメだ。

まずは「男は仕事。女は家事・育児」といった旧来の性別役割分業の価値観を捨てる。つまり自分の中の、生家や社会から刷り込まれた古いOS(オペレーティング・システム)を入れ替えねばと決意したのだ。

実際、子育てにはいろいろなソフトが必要で、それを円滑に稼働させ育児を楽しむためには、古くて堅い父親(夫)像を追い出し、自分こそが新しい父親モデルになるくらいの強引な意識改革が必要だ。

NPO主催のパパ向けセミナーでも「子どもが生まれたら、OSを入れ替えろ!」と発破をかけ、パパとしてのシフトチェンジを求める。そうでないと、男は育児をなめる。つまりファッションとして子どもを、おしゃれライフの一環として子育てする「勘違いパパ」が増えていってしまうのだ。

お気に入りのブランドバギーで子どもとお出かけ。それもいいだろう。ファッションとしての楽しさを追求しながら子育てすること自体は悪いことではない。

でももし、それだけで満足している人がいたとしたら、それはちょっと「惜しいパパ」の感じがする。それでは子どもとの良好な関係、妻との永遠のパートナーシップは築けないのだ。

私も最初はそうだった。外見を気にし、女の子の父親として「カッコいいパパでありたい」と願っていた。でもあるとき気づいたのだ。周りに「モテたい」「カッコいいといわれたい」という一心で見た目ばかりを重視し、その内面、精神性が全くついてきていないことの「カッコ悪さ」にだ。

 

仕事も育児も楽しんで生きる

ではファッションだけの「惜しいパパ」を抜け出して「カッコいいパパ」になるには、どうしたらいいのか? 私は「自分なりの父親哲学を持つこと」だと思う。しかし内面を磨くには、ポリシーを持って子育てを楽しむにはどうしたらいいのだろう? それは頭で考えるだけでなく実践・経験こそが大事だ。

子どもが乳幼児の頃は、オムツ交換や保育園の送迎など日々の営みをこなし、学齢期には学校や地域の活動にも積極的にコミットする。そうやって自然に鍛えられた「父親力」は必ず外見をも輝かせてくれる。15年間にわたる子育ての中で、私はそう確信できたのだ。

しかしそのような「父親が成長・成熟するプロセス」こそが、実は子育て全体の中でも面白いのだが、それはなかなか情報化されない。でも本書に登場する育児中のパパの姿には、そのリアリティと説得力があるように思う。

NPOの活動を通して見えてくる初心者の、あるいはOSの古い父親たちのニーズ、求めるものも、やはり輝く先輩パパの「情報」と「ロールモデル」なのだ。

この30代のパパたちのように、悶々とし、ジタバタしながらも子どもに向き合い、泥臭い育児を毎日こなす。こんな地に足の着いた「大人の男性」こそが、私も目指す、あるいは世の中の多くのママが求める「カッコいいパパ」なのだ。

そして、最終話『親水公園ピクニック』。ここでは「未来」が描かれている。悩み多きパパの「誠」の家に、2人目の子どもが生まれる。これも実はリアリティだ。

いま厚生労働省には、「第一子の子育てに、夫(パパ)がたくさん関わっている家庭に、2人目が生まれている」というデータが歴然とあるのだ。それはママが「この人が居てくれるなら、もう1人産んでもいい」と考えた結果であり、パパの立場からいえば、それまでの子育ての労苦は「未来への投資だった」ということになるだろう。

でも子どもは、生まれることがゴールではない。育てて、一日も早く自立させること。それが子育ての最終目標だ。そのためには母親だけでなく、父親の存在がやはり重要なのだ。そしてそれは、かつてのOSが古かった父親のように、ただ「働いてお金を稼ぐ」だけでは、現代では難しくなってきている。

そうではなくて、父親自身が自分の人生を肯定し、仕事も育児も楽しんで生きること。その姿を子どもに見せることが肝要だ。そうすれば子どもは生きることが少し困難な時代にあっても、自分の羅針盤を持つことができるだろう。だからこれはカッコいいかどうかという以前に、父親の役割としていちばん大切なことなのだ。

子どもの幸せを願うなら、まずは父親自身が進歩しなければならない。本書は改めてそのことを私に思い出させてくれたのだ。

著者: 川端裕人 (かわばた・ひろと)

1964年、兵庫県生まれ、千葉県育ち。東京大学教養学部(科学史専攻)卒、日本テレビ入社。科学技術庁、気象庁などの担当記者として、宇宙開発、海洋科学、自然災害などの報道に関わる。1997年に退社し、独立。1998年『夏のロケット』で小説家デビュー。小説やノンフィクションの執筆を中心に活躍。2012年、『銀河のワールドカップ』がNHKアニメ「銀河へキックオフ!!」の原作となり話題となる。
著著に『夏のロケット』(文春文庫)『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)『算数宇宙の冒険』(実業之日本社文庫)『星と半月の海』(講談社文庫)『イルカと泳ぎ、イルカを食べる』(ちくま文庫)『PTA再活用論』(中公新書ラクレ)『ギャングエイジ』(PHP研究所)など多数。

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