人生100年時代を迎え、定年後も元気に楽しめる時間はますます長くなっています。30年以上続くセカンドライフを充実させるには「身近に一緒に楽しめる仲間」を持つことです。地域の人間関係を充実させるには? そして良好な関係を保つために心にとめておくべきポイントについて、書籍『お金をかけない「老後」の楽しみ方』から紹介します。
※本稿は、保坂隆著『お金をかけない「老後」の楽しみ方』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
定年後の人間関係「まずは地域へ帰る」ことが第一歩
人生はどんどん長くなり、最近では「人生100年時代」といわれるようにもなっています。平均余命が延びたわけではありませんが、人が活き活きと活動できる期間がますます延びてきたと感じるのです。
人生100年だとすれば、60〜65歳で定年を迎えても、元気に楽しめる年月はまだ35年以上もあるわけです。それだけの長い期間を楽しむために欠かせない条件を考えると、一にも二にも、身近に一緒に楽しめる仲間がいることではないでしょうか。
「身近に」とわざわざ断ったのは、仲間は気軽に会えることがいちばん大切な条件になるからです。老後は「遠方より来る友」や「遠方に出かけて行って会う友」ばかりでは、次第に息切れしてきます。早くいえば、歩いて、あるいは自転車やバスで気軽に行き来できる地域に友だちや仲間がいることが、大変ありがたくなってくるのです。
わざわざ電車に乗って都心の繁華街に出かけ、友人と久しぶりに会うと、特別感があるから必要以上に盛大に飲んだり食べたりし、お金がかかります。すると懐事情からも、しょっちゅう会いたいというわけにはいかなくなるでしょう。
地域に仲間をつくりたくても、そのきっかけさえつかめないと嘆いている人もいるかもしれません。これまでは仕事で朝早く家を出て、帰宅するのは毎晩遅かった。地域に知り合いをつくる時間も余裕もなかった。いざ仕事を辞めて地域で仲間をつくろうとしても、どうしていいか分からない――。これが、働き続けてきた人たちの偽らざる本音かもしれません。
でも大丈夫。最近は自治体などが、長年働いてきた人を地域に受け入れようと積極的な活動を始めているのです。
「お父さんお帰りなさいパーティ」もその一つ。これは東京都武蔵野市が平成12年からスタートさせた活動で、「ようこそ、地域へお帰りなさい」と定年前後の人に呼びかけ、趣味のサークル活動や、ボランティア活動を展開している人と交流を図ろうという会合です。
毎年1回の「お父さんお帰りなさいパーティ」のほかに、毎月1回、講演会や座談会などのイベントも行なっており、一度参加した人が地域活動を続けやすい仕組みになっている点も、よく工夫されていると感心します。名称上「お父さん」と言っていますが、女性やご夫婦での参加も大歓迎。夫婦一緒に出かけていく場所や機会があることも、定年後の人間関係を豊かにする大きなポイントになるはずです。
東京都では、団地の空き家・空き店舗などを利用して、地域の高齢者が誰でも立ち寄れるような、気楽な雰囲気の場所をつくろうという動きが各所で見られます。たとえば、団地の空き店舗を利用した日野市の「百草団地ふれあいサロン」は入室料100円でお茶、コーヒーがお代わり自由。毎日さまざまな人が入れ替わり訪れて、気楽なおしゃべりや将棋を楽しんだり、新聞を読んだりしているそうです。
また、横浜市の「おやじの広場」は男性限定の集いの場。月1回、公園の中の古民家を借りて、囲炉裏端で飲みながら好き勝手なことをしゃべりながらも、地域貢献の策を練っているそうです。現在では公園の清掃やログハウス造りを手伝うなど、活動の幅も広がっているとのこと。
こんなふうにきっかけさえあれば、それまで「仕事だけの人生」を送ってきた人でもスムーズに地域デビューを果たし、身近に仲間がいることを楽しむようになれるのです。
お住まいの地域にそうした場がないようなら、市区町村役場や社会福祉協議会などに働きかけ、自分で活動を起こしてみてもいいのです。長年、仕事で培ってきた活動フィールドの拡大のためのノウハウが、必ず大きな力を発揮するのではないでしょうか。
「おごらない」「おごられない」地域の人間関係の鉄則
退職してから地域の交流が生まれると、ふと道ですれ違ったり、商店街でばったり顔を合わせたりすることが多くなります。毎日の生活の場で「やあ、こんにちは」と笑顔で挨拶を交わせる人ができるのは、こんなにも楽しいことだったのかと気づきます。職場でもない、親戚でもない。とくに上下関係もなければ、義理もしがらみもないことも、地域付き合いのすばらしいところ。
それだけに、この付き合いには「お金の関係」を持ち込まないことが大事です。はっきり言えば、おごったりおごられたりは原則としてしないこと。「お茶代くらい私に任せてくださいよ」などと、すぐに財布を取り出す人がいるのですが、注意すべきです。
老後の経済事情は人それぞれ。何人分かの喫茶店代くらい何でもない人もいるでしょう。それに相手のためにというより、人に気前よくふるまえる自分に満足感を覚えたい心理もあるのです。
しかし、どんなに少額でも、おごられたほうには気持ちの負担が残ります。なかには罪悪感や恥ずかしいと感じる人もいるでしょう。おごってもらったら「単純にうれしい」人ばかりではないのです。それが次第に積もっていけば......。次に会うのが、だんだん気まずくなってしまうのも分かるような気がしますね。
同様に「いただきものがあって、夫婦二人では食べきれないから」などと言って、立派な箱入りのお菓子などを持参するようなことも控えましょう。いただきものなどあまりない人もいるかもしれないから、です。
さらに「この間、疲れやすいと言っていたから、ニンニクの黒酢漬けを買ってきたの。よく効くから試してみて」などと、相手に頼まれもしないのに何かをあげることも控えるべきです。旅行のおみやげとはわけが違います。
いくら厚意のつもりで、悪気のないことが分かってはいても、相手にとっては「うっかり口を滑らせたばかりに気を遣わせた」と自分を責めることにもなりかねませんし、その品物もかえって「ありがた迷惑」になる場合だって考えられます。
とくに義理もしがらみもないからこそ、地域の人間関係では出すぎないことがいちばんの要点なのです。年配の人ほど気を遣うので「出すぎず、入り込みすぎず」を鉄則にするようにしましょう。
人生のベテランらしい「スマートな割り勘」を身につけよう
男性と女性がお茶を飲んだり、食事をしたりしたとします。恋人とか夫婦なら話は別ですが、ただの友だちや知り合いならば、自分が食べたものは自分で支払うのが当然でしょう。なかには、そうしたシチュエーションでは男性がお金を支払うのが当然と思っている人もいるようですが、そうした関係からは「対等な人間関係」は生まれにくいと考えるべきだと思います。
前述のように、老後の友だち付き合いは割り勘が原則。ただし割り勘の仕方は簡単なようで、案外難しい。だからこそ「割り勘はスマートに」を心がけるのは大人のマナーといえるでしょう。
男性と女性で食事をした場合は、お店の格にもよりますが、女性がそれなりのお金を男性に手早く渡し、「お会計、お願いできますか」などと言えばスマートでしょう。あるいは小声で「ここはいったん、お願いします。外で精算させていただきますね」とする方法もあるでしょう。
先日、銀座にある高級フランス料理店でランチをしたときのこと。こうしたお店のランチタイムには、中年以上の女性が連れだって食事を楽しんでいる姿をよく見かけますが、その日はさすがに啞然としてしまいました。テーブルの上でそれぞれが財布を片手に、携帯電話の計算機を使って、自分が支払う分を計算し始めたのです。
決して安くはない金額ですから真剣になる気持ちも分かりますが、まだほかにランチを楽しんでいるお客もいるのです。これはあまりカッコよくありません。お店の人も、困惑の表情を隠しきれない様子でした。こうした格式のあるレストランや料亭などでは、誰か一人がまとめて支払い、別の場所で精算するのがスマートでしょう。
金額が大きくなるなら、あらかじめ支払う役の人にお金を渡しておけばいいのです。一般的なレベルのレストランならレジに行き、「会計は一人ひとり、別々にしてください」と声をかけ、自分が食べたものを言えば、ちゃんと対応してくれるはずです。
あまり人数が多い場合や、誰が何を何杯飲んだか分からなくなってしまった場合は、「一人3000円ずつ」などと大ざっぱな割り勘方式でいいと思います。細かなお釣りが出たら、飲む量が少なかった人に「あまり飲んでいないようだったから」と渡して終わり! でよしとしましょう。
あるいはレジの寄付金箱に入れるのもいいと思います。お金の支払い方は、その人の心遣いや品性をあらわに示すものです。「さすがに人生のベテランは違うな」と言われるような、スマートな支払い方をして若い人の範となりたいものですね。