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強迫症ってなに? 「手を洗い続ける、何かが心配で確認行動が止まらない」心理の正体

野間利昌(監修) (精神科医。セレーナメンタルクリニック院長)

2024年08月23日 公開 2024年12月16日 更新

強迫症ってなに?  「手を洗い続ける、何かが心配で確認行動が止まらない」心理の正体

今まで普通にできていたことができなくなってしまう。やればやるほど本当にやれたのか自信がもてなくなり、疲れ果てるまでその行動が止められなくなる強迫症の恐怖。強迫症のつらさから逃れるヒントを精神科医の野間利昌氏が紹介する。

※本稿は野間利昌監修『強迫症/強迫性障害をワークで治す本』(大和出版)から抜粋したものです。

 

意識せずにやれていたことでも、なぜかやれた感じがしなくなる

精神疾患で用いられる最新の診断基準「DSM-5-TR」では、強迫症とは、強迫観念または強迫行為のどちらか、または両方が存在する状態で、過剰な強迫観念や行為により時間が浪費され、社会機能や人間関係に支障をきたすとされています。

強迫観念の内容は、人によってさまざまです。不安や恐怖に結びつくことが多いですが、たんに「しっくりこない感覚」ということもあります。今まで意識せずにできていたことが、なぜか「本当にそれで良い」という感覚をもてなくなります。

そして、そのことをそのままにしておくと、どうしようもない不快感が生じるため、その不快感を消すため、あるいはそもそも生じないように避ける行動として強迫行為を行うようになります。強迫行為をすることで、不安や不快が無くなるどころか、やればやるほど本当にやれたのか自信がもてなくなり、疲れ果てるまでその行動が止められなくなります。

そして、もっとわるいことに強迫行為をすればするほど強迫観念は強く大きくなってしまいます。

 

なぜ不安から強迫観念が生まれるのか?

今まで普通にできていたことが、普通にできなくなってしまうのはどうしてなのでしょうか?

ここで考えていただきたいのは、強迫症の人はあらゆることに強迫症状が出ているわけではないということです。

自分が気になることには強迫症状が出ますが、他のことはとくに苦労することなく普通の行動をとることができます。

違う点は「強迫症状が出ていることに関して、不安や不快感をゼロにしようとしている」ということではないでしょうか。

「絶対にこれで大丈夫」と不安をゼロにしようとし始めたときから、強迫観念が生まれてくるといえます。

逆に強迫が生まれないことに関しては、不安をゼロにしようとしてないのです。だから強迫症状にならないということも大事なポイントです。

 

つらくなるのは、不安をゼロにしようと思うから

誰でも不安や不快をなるべく無くしたいと望むものです。しかし、実際は不安をまったくゼロにするのは不可能なことでもあります。不安をゼロにしようとするのは、たとえていうと「真っ白を目指して、白い道を歩いていくようなもの」です。

白い道はきれいで快適だと思うかもしれません。でも、白い道を進んでいると、ときおり「不安」というグレーの雨が降ってきます。真っ白な道にグレーの雨粒が降ってくると、すごく目立ちますから、気になって気になって仕方なくなります。

だから一生懸命きれいにしようとして、グレーの雨粒を拭こうとしますが、拭いても拭いてもグレーの雨は次々と降ってきます。いつまで経っても拭くのを止めることができなくなります。

せっかく白い道を気持ちよく歩き、好きなところに行こうとしていたのに、グレーの雨粒を拭くのに忙しくなり、その場で立ち止まり、どこにも行けなくなってしまうのです。

 

原因探しはやめておいたほうが良い

強迫症の平均発症時期は20歳前後ですが、児童期から発症することもあります。約25%は14歳までに発症し、生涯有病率は1~2%(50人に1人程度)です。男女比はほぼ同等ですが、男性のほうが早発傾向です。

強迫症は遺伝や環境、ストレスなど複合的な要素が組み合わさり発症すると考えられます。しかし、はっきりとした原因はわかっていません。

一卵性の双子のうちひとりが強迫症になった後、1年後にもうひとりも強迫症になったというケースもあり、遺伝的要素は否定できません。

完璧主義の方も多いのですが、完璧主義とはかけ離れている方にも見られます。そもそも強迫症状は多彩で、性格とは関係ないことも。

また、自分では性格と思って、何とか日常生活を送っている人もいます。徐々に生活をしにくくなることもあれば、急に病状が出現したり、悪化したりすることもあります。

不潔恐怖の患者さんで、発症前は野山で排泄をしてもまったく気になることはなかったのに、しばらく留守にし、家に帰ったところで大量の虫を見たことがきっかけとなり強迫症になった方もいます。

 

WHYよりHOWで考える

患者さんはよく「なぜこんな病気になったんでしょう」と尋ねます。私はそんなとき「WHYではなく HOWで考えましょう」と答えます。

「なぜ」と考え始めると「もしかしたらこのせいかもしれないし、あのせいかもしれない」と、考えが止まらなくなります。考えれば考えるほど「どうしてこんなふうになってしまったのだろう」と、気分が滅入ってしまいます。原因はわかっていないので考えても正解にはたどり着きません。気分が落ち込むために考えているようなものです。

なぜこんな病気になったのかと自問するよりも、「HOW=どうすれば治せるのか」と自問したほうが良いと思います。「ここで手を洗わなければいいんだ」「ここの確認はしないようにしよう」「追求しない」「じっと見ない」など答えが見えてきます。後は実行するだけで落ち込むことも無くなります。

著者紹介

野間利昌(のま・としまさ)

精神科医。セレーナメンタルクリニック院長。

千葉県出身。平成5年東京外国語大学卒業。平成13年山形大学医学部卒業後、千葉大学精神神経科入局。平成14年から同和会千葉病院勤務の傍ら、千葉大学医学部附属病院で強迫性障害外来を担当。平成16年より千葉大学医学部附属病院。平成19年に東京都台東区にセレーナメンタルクリニックを開設。同クリニック院長を務め、強迫性障害外来を担当。年間400人以上の強迫症の患者さんの治療に当たる。

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