『「繊細さん」の本』などで繊細さんの第一人者となったHSP専門カウンセラー・武田友紀氏と、テレビなどのマスメディアでおなじみの精神科医・名越康文氏が活発でHSPの自覚もない人が、実は抱えている生きづらさについて語りました。
※本稿は、名越康文・武田友紀著『これって本当に「繊細さん」? と思ったら読む本』(日東書院)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
「繊細さん」に見えない繊細さん
【武田】トラウマが衝撃を受けた体験によって生じるものだとすると、刺激に圧倒されやすい繊細さんは、つらい状況においてトラウマを受けやすいのかなと思うんですが、名越先生はどう思われますか?
神経系の発達や育ってきた環境、それまでの経験によって、一人ひとりのレジリエンス(回復力)は変わってきますから、繊細さん全員がトラウマを受けやすいわけではないと思います。
ですが、その人の神経系が圧倒されたときにトラウマが起こること、そして繊細さんの"刺激を受けやすい"という性質を考えると、全体的な傾向として、繊細さんはつらい目に遭ったときにトラウマを受けやすいのかなと思うんです。
【名越】それはそうだと思います。
【武田】やはりそうなんですね。私は繊細さんと非・繊細さんを、よく桃とバナナで表現しています。桃は実が柔らかくて皮が薄い、繊細な人。バナナは実が硬めで皮が厚く、繊細ではない人というイメージです。
桃には桃の良さがあるけれど、外の刺激から身を守る皮が薄いので、同じ物事に遭遇しても結果として衝撃を受けやすいというイメージです。
【名越】思春期に入っていく時期の子どもを見ていると、とても小さいことでもすぐ反応が見られるけど、実は性根は図太いという人もいれば、反対に傍から見ると物事に動じないけど、心のなかではすごく敏感に反応している人もいますね。
果物でたとえれば、もうひとつ、夏みかんのように皮は分厚いけど、実は柔らかいタイプの人もいるような気がします。まわりもすぐに気づかないので対処されにくい。自分では気づかない無意識的なレベルのことで突然パニックになったりするタイプは、この夏みかんかもしれませんね。
【武田】夏みかんは、バナナとはまたちがうタイプですね。皮は厚いけど、中身は感受性豊かで、繊細。私のところに来る相談者さんは、皮はそこまで厚くないかもしれません。
【名越】武田先生のところに来られる方は、ある程度繊細さを意識化している人なので、夏みかんが桃化しているのですよ。
世間を見ていると、夏みかんタイプの人はけっこう苦労しています。「自分は平均的な人生を生きているから放っておいてくれ」くらいの意識で生活していますが、実はとても繊細なものを隠しているからです。つまり、自分で自覚していないけれど、生きづらさを感じている人は多い。
「私は本当は傷つきやすいんです」と言えれば、言語化されて自覚するじゃないですか。しかし、理由がわからず自覚しにくい。
【武田】夏みかんタイプの分厚い皮は、よろいの意味もあるんでしょうか。自分を守るために、社会に対してよろいを着て生きているというような。
私は、本当は生まれてからずっと桃だったんでしょうけど、傍から見れば、会社に行けなくなるまでは頑丈な夏みかんに見えたでしょうね。つまずいてはじめて、自分は皮が薄い桃なんだと気づきました。
【名越】とある50代の女性で夏みかんタイプの人がいました。ある意味イケイケでリーダーシップをとって何事も一生懸命。そういう人はよくいますよね。でも、実は大きなトラウマを抱えていて、内心では自分のことをわかってくれる人なんてめったにいないと思っていたそうです。
しかし、それを言うと気分が重くなるから言わなかったそうです。ゴルフが好きで、とても活発な人なんですが、その落差が、まさに夏みかん。実は桃なのに夏みかんしか演じることができない。そういう人がけっこう世の中にはいます。
彼女は一見、武田先生とは全然タイプがちがいますし、繊細さんやトラウマという言葉は知らないと思いますが、感覚的に自分は桃だということをわかっている。でも人前では、夏みかんの人格しか出せない。
普段のんびりしていたり、アクティブに生活しているような人でも、実はその奥に繊細な何かを隠している、そういうタイプの人もいると予測しておくことは、臨床家や教育者には必要だと思います。内側と外側の落差が大きい人は思っているより多いと感じます。
僕は昔、精神病院に勤務していたこともあり、そういう意味では繊細な人ばかり診てきましたが、もしかしたら桃や夏みかん以外にも、内側と外側の落差によって、様々なタイプの方がいるだろうと思います。