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「私より給料がいいのに...」働かない先輩社員への怒りが生む、人間関係の軋轢

佐藤恵美(メンタルサポート&コンサル沖縄代表)

2024年08月16日 公開 2024年12月16日 更新

「私より給料がいいのに...」働かない先輩社員への怒りが生む、人間関係の軋轢

同僚の段取りの悪さやミスに振り回され、働かない先輩社員のフォローにストレスがたまる...どんどん余裕がなくなっていく職場でしんどさを軽くするヒントとは? 労働者メンタルヘルスの専門家である佐藤恵美さんによる書籍『職場の同僚のフォローに疲れたら読む本』から紹介します。

※本稿は、佐藤恵美著『職場の同僚のフォローに疲れたら読む本』(PHP研究所)から一部抜粋・編集したものです。

 

同僚の不完全な仕事をいつも気にしなければならないストレス

仕事の段取りが悪い。スケジュール感覚が甘い。書類の抜け漏れが多い。そんな同僚の仕事の様子をいつも気にしていなければならないようなフォローもあるでしょう。

【例】
後輩のAさん、そろそろ企画書の締め切りなのに、まだ提出していないみたい。声をかけても「大丈夫です」としか言わないから、今までそのままにしていたけど。はぁ......これどうするの。また自分がフォローしないと......。

自分は上司でもないし、チェックする役割を任されているわけでもない。でも、放っておけば、次の仕事がとまったり、お客さんに迷惑がかかったりする......。そんなことを考えると、どうしても放置できません。なんとなく相手に気を使いながら、目配り、気配りをして、ときには自分が代わって作業をする、ということになってしまいます。

 

いつまでも終わりが見えないフォロー

新入社員や異動してきたばかりの人のフォローであれば、少しずつ負担は減っていく可能性が高いのですが、たとえば、どうしてもうまく仕事が進められない人のフォローには終わりが見えません。

さらに、フォローしていることが、当の本人や上司に認識されていない状況であれば、なおさら心理的負担感が大きくなります。たとえ上司に訴えても、「まあ、そこをうまくやってよ」なんてひと言ですまされることもあります。

当の本人は「自分はやっているつもり」「そのフォローは自分が頼んでいるわけではないので、相手が望んでやっている」という感覚を持っている場合もあります。そこに悪意はありませんが、相手の立場や気持ちをなかなかうまく推測できない特性がある場合もあり、ズレや軋轢が生まれてしまうのです。

 

自分より年上のフォローはハードモード

さらに、フォローしている相手が先輩や年長者だと、あからさまな注意や指導もしにくいうえに、自分より給料がいいことがわかっているので、その心理的負担感はさらに大きくなります。

相手に気を使いながら指摘すると「自分のやり方は間違っていない!」と怒って逆襲にあう場合もあるでしょう。そうなると、「よけいな軋轢を生むより、黙って自分がやればいいか」と現状をそのまま飲みこまざるをえず、モヤモヤした気分が残ります。

フォローの1つひとつは小さなことでも、そんな気分を抱えつづけていると、積もり積もって大きなストレスになり「怒り」の感情に変わっていきます。あからさまに相手を非難できない代わりに、その怒りが「目を合わせない」「挨拶を返さない」「言い方がきつくなる」「雑談に応じない」といった、なんとなく相手に冷たくするといった態度に出てしまうのです。

相手は、なんで冷たい態度をされるのかわからず、冷たくするあなたに恐怖心を抱いたり、いじめやハラスメントだと感じたりする危険もあります。

職場の人間関係のこうした軋轢は、おたがいの仕事への意欲や生産性を下げることになります。そして、2人の関係にとどまらず、職場全体の士気の低下につながっていく危険もあります。

 

努力と報酬のバランスが悪いとストレスになる

このような働かない先輩社員の例のように、職場でのフォローが嫌になる典型的なパターンには次の2つの特徴があります。

①「報酬」というエネルギーチャージがない
②「怒り」の感情で消耗している

「なんで私ばっかり!?」と自分だけ損している気持ちになるときというのは、努力と報酬のバランスが悪いといえるわけです。あたりまえのことですが、自分が差し出しているものよりも、もらえるものが少なければストレスを感じるのです。これを心理学用語で「努力―報酬不均衡モデル」といったりします。

 

さまざまなかたちで報酬を受けとれると疲弊しにくい

報酬には、金銭的なものだけでなく、「自分のやったことには価値があるという実感」や「自分がなにかに影響を与えているという実感」といった心理的な報酬もふくまれることがポイントです。

しかし、報酬を限定的にしかとらえられない人もいます。そうなると、報酬の量が自然と少なくなって、疲弊してしまうことが増えます。

たとえば、「自分にとっての報酬とは給料やボーナス、昇進だけだ」と考えてしまうと、どんなに相手から感謝されたり、ためになる経験をしたりしても、給料や昇進が思い通りにいかないと「こんなにやっているのに」と考えてしまうでしょう。

逆に、報酬をさまざまなかたちで受けとれると、たとえ自分が差し出す努力が大きくてもバランスをとりやすくなって疲弊しにくいのです。「自分のやったことには価値があるという実感」や「自分がなにかに影響を与えているという実感」をわかりやすくいうと、自分で自分を「認める」「ほめる」「ねぎらう」といったことになります。

 

自分を無視されると「怒り」の感情がわく

もう1つのポイントの「怒り」の感情の本質は、自分の存在や働き、能力などを認めてくれないことへの不満です。自分がどんなに時間や労力を使っても、相手がそれにあぐらをかいて感謝の言葉すらない、評価の対象にもならない、上司が自分の仕事をまったく把握していない。

そういったことが常態化している職場では、自分という存在が無視されているわけなので、当然、傷つきます。それが積み重なって「怒り」の感情になるのです。

「怒り」は、最も自分を消耗させる感情です。仕事への意欲が低下したり、ネガティブ思考になったりと、いいことはなにもありません。

だからこそ、①自分に「報酬」を与えて、②「怒り」の感情に支配されないために、自分で自分を「認める」「ほめる」「ねぎらう」といったことが大切なのです。

 

著者紹介

佐藤恵美(さとう・えみ)

メンタルサポート&コンサル沖縄代表

精神保健福祉士、公認心理師、キャリアコンサルタント、臨床発達心理士。20年間で1 万人以上の相談実績がある、労働者メンタルヘルスの専門家。北里大学大学院医療系研究科産業精神保健学修了。医科学修士。日本産業精神保健学会理事。埼玉県内の精神科単科病院医療相談室、東京都内の医療法人社団弘冨会神田東クリニック副院長、同法人MPS センター副センター長を経て、2020年に「メンタルサポート&コンサル沖縄」を設立。現在、沖縄在住。県内外の企業や官公庁に対して、さまざまなメンタルヘルスサービスを提供し、年間500人以上にカウンセリングを行なっている。

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