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AIの指示に従う時代がくるのか? いま「人間に求められるリーダーシップ」

鳥潟幸志(株式会社グロービス マネジング・ディレクター)

2024年09月11日 公開 2024年12月16日 更新

AIの指示に従う時代がくるのか? いま「人間に求められるリーダーシップ」

ChatGPTなどの生成AI、私たちの生活や働き方に大きな影響を与え始めています。しかし、AIが生成した情報に対して、私たちはどこまで信頼を寄せることができるのでしょうか? この問いを起点に、これからのリーダーに必要な能力について書籍『AIが答えを出せない 問いの設定力』より紹介します。

※本稿は、鳥潟幸志著『AIが答えを出せない 問いの設定力』(クロスメディア・パブリッシング)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

人はAIに従いたいか?

ChatGPTが日本でリリースされ教育領域にも大きな影響が予測される中で、私(鳥潟)含むグロービス経営大学院の有志の教員が集まって、生成AIに関する読書会を開催しました。課題図書は『Im promptu:Amplifying OurHumanity Through AI』という書籍で、著者は、リード・ホフマンというChatGPTを開発したOpenAIの共同創業者のひとりです。

この書籍がユニークなのは、書籍の半分以上がChatGPT4と対話しながら書かれていて、書籍内の主張の多くがChatGTPにより生み出されているということです。7〜8名の教員仲間と様々な議論を重ねる中で、とある教員が興味深い問いを投げかけてくれました。それは、「大半の主張が生成AIによって生み出されているのに、私たちがこの内容を信頼しているのはなぜか?」というものでした。

読書会を実施した当時でも、既に多くのコンテンツが生成AIにより生み出され、その内容が電子書籍として販売されていました。私も数冊Kindleで購入して読んだことがありましたが、そのほとんどが残念な品質だったことを覚えています(もちろん、作品によっては品質の高いものも存在すると思いますが、私が手に取ったコンテンツはいずれも高品質とは言えないものばかりでした)。

先ほどの教員仲間の問いをきっかけに議論を重ねた結果、「リード・ホフマンという著者が、本書にお墨付きを与えていること。そして、生成AIの内容に著者の考察が追加されていること」に価値を感じているのではないか、という結論に至りました。

私はこの読書会での議論をきっかけに、「AIが生み出す内容に人は従いたいと思うのか?」という大きな問いを持つようになりました。それから、実際に日々の実務で生成AIを活用したり、周囲の仲間と議論を重ねる中で私なりの考えが整理されました。それは以下の通りです。

「予測や計算可能な内容についてはAIの方が得意であり、その結論に人は疑いなく従うのではないか」

従った方が、効率的でありコスト削減が可能だからです。逆に言えば、これらの領域は今後もAIに置き換わり、人が方針を出す機会も減っていくと予想されます。

「一方で、予測不可能でリスクを伴う方針については、AIがロジカルに導き出す選択肢よりも、信頼のおける人が出す方針に従いたいと思うのではないか」

なぜなら、リスクがある方針はその後の実践が重要であり、信頼のおける人が出した方針であれば、仮にそれが違っていたとしても、方針を出した人が責任を持って最後までやり遂げる期待を持てるからです。

このことは、私自身も日々の仕事の中で実感しています。現場スタッフが強い問題意識と想いを持って小さなプロジェクトを立ち上げて、それを周囲が応援する。そして気が付くと、組織全体を巻き込む大きな動きに繋がっていることが多々あります。

年齢も若く、役職や権限もないスタッフになぜこのような動きが可能なのかと言えば、その人の持つ想いやコミットメント、責任感のようなものが他者に伝播して協力を引き出しているからではないでしょうか。そして、そのような小さなリーダーシップが、企業だけではなく社会全体で、ボランティア、市民活動、NPOなど様々な形式で生み出されていると感じています。

また、私もこれまでの社会人経験の中で、所属した組織のリーダーが発した方針にワクワクした経験があります。頭でロジカルに考えるとその方針が成功するかは不明でしたが、なぜかそのリーダーが発した言葉には重みがあり、実現させたいとコミットしたくなりました。

 

リーダーシップを身につけるために必要なこと

ここまで見てきたように、不確実な状況の中でもリスクをとって物事を進化させるためには、現場スタッフにもリーダーシップが必要となってきます。それでは、実際にどのようにしたら、一人ひとりがリーダーシップを育むことができるのでしょうか? リーダーシップ論は様々な先行研究があり、膨大な知恵が既に社会に溢れていますので、ここではとくに私が重要だと感じる点を取り上げて紹介したいと思います。

 

・とにかく、バッターボックスに立つ

周りから自分の意見を求められた時、皆さんはそれにどのように向き合っていますでしょうか。もちろん、その質問内容や置かれた状況によって対応は都度変わりますが、大きく3つに分類することができます。

1つ目は、状況を整理して述べる「実況中継型」の対応です。これまでの周囲メンバーの意見や自分が知っている情報などを、整理するだけのタイプです。一見すると理路整然と意見を述べているようで、自分の意見は表明しない、つまりリスクを一切取らない動きです。

2つ目は、限られた情報や直感を信じて意見を述べる「決めうち型」の対応です。自分がその時に思ったこと、考え方を明確に発信するが、その理由や根拠は整理されていない状況です。

3つ目は、自分の意見も根拠も明確な「主張・根拠のセット型」の対応です。まずは自分の意見をしっかり表明した上で、その根拠を述べて相手に理解を促していきます。

これら3つのパターンを比べた時、目指したい状態が3つ目の「主張・根拠のセット型」であることは一目瞭然ですが、重要なのは残り2つの比較です。最初に結論をお伝えすると、どうしても主張・根拠のセット型での対応が難しい場合には、「実況中継型」よりも「決めうち型」をあえて意識した方が、結果としてリーダーシップを育むことができると考えています。

「決めうち型」を意識すると、組織の様々な場面で自分の意見を表明することに繋がります。自分の意見を表明すると、周囲から様々な質問や反論が寄せられます。

最初のうちは、それに対応できずに悔しい思いをすることもあると思いますが、質問や反論をもらうことで自分自身の考えがブラッシュアップされていきます。質問・反論に謙虚に耳を傾けるという姿勢さえ持っていれば、自分の意見を叩き台に組織内の議論が進んでいくことになります。

逆に「実況中継型」は、誰も反論できないようなもっともらしい情報を整理して伝えてはいますが、結局リスクをとって自分の意見を述べることを避けている形になります。このスタイルに慣れた人は、批判や評論のコメントは鋭いけど、「ではあなたはどうしたいのか?」という問いには向き合わないようになっていきます。

大きな組織の中で、誰かが決めてくれる環境下ではそれでもよかったかもしれませんが、自分の意見を踏まえて人をリードすることは難しくなっていきます。また、情報を整理して批判したり、選択肢を並べるという行為は、AIが得意とする領域であるため、その取り組みの価値そのものも低下していくことが予想されます。

リスクをとって自分の意見を主張することは、批判に晒されたり、場合によっては間違った意見ということで訂正を迫られたりするので苦しいものです。しかし、その経験を通じてこそリーダーシップが磨かれていくと私は信じています。なるべく多くバッターボックスにたち勝負をし続けることが、成長の近道と言えるのではないでしょうか。

 

著者紹介

鳥潟幸志(とりがた・こうじ)

株式会社グロービス マネジング・ディレクター/GLOBIS学び放題 事業リーダー

グロービス経営大学院 教員。埼玉大学教育学部卒業。サイバーエージェントでインターネットマーケティングのコンサルタントとして、金融・旅行・サービス業のネットマーケティングを支援。その後、デジタル・PR会社のビルコム株式会社の創業に参画。取締役COOとして、新規事業開発、海外支社マネジメント、営業、人事、オペレーション等、経営全般に10年間携わる。グロービスに参画後は、社内のEdTech推進部門にて「GLOBIS 学び放題」の事業リーダーを務める。グロービス経営大学院や企業研修において思考系、ベンチャー系等のプログラムの講師や、大手企業での新規事業立案を目的にしたコンサルティングセッションの講師としてファシリテーションを行う。

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