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脳科学者が実践している「どうしてもやる気が起きない状態」の切り替え方

中野信子(脳科学者)

2024年10月08日 公開 2024年12月16日 更新

脳科学者が実践している「どうしてもやる気が起きない状態」の切り替え方

「やる気が出ない...」そんな時は、"儀式"を行うことが有効かもしれません。脳科学者の中野信子さんが実践されている集中力アップの秘訣とは? 書籍『世界の「頭のいい人」がやっていることを1冊にまとめてみた』より紹介します。

※本稿は、中野信子著『世界の「頭のいい人」がやっていることを1冊にまとめてみた』(アスコム)の一部を再編集したものです。

 

勉強や仕事の前にする儀式を決めておく

勉強するときに、いきなり始めても、なかなか調子が出ない......、ということも少なくないでしょう。

そんなときは、自分なりの簡単な「儀式」を行ってから、勉強を始めてみてください。この「儀式」を行うことによって、脳が勉強のための準備を始めるので、自然に効率が上がります。この儀式というのは、「やりたくないな......」という気持ちを心から追い払うための工夫なのです。

私の場合は、勉強や仕事(原稿を書くなど)の前に、サイフォンで美味しいコーヒーをいれることにしています。気分によっては、濃い目の紅茶にすることもあります。カフェインは目を覚ましてくれるし、適度にやる気を刺激してくれる効果があるからです。

また、ちょっと手間をかけてこうした準備をすることも、実は大事なことです。ズルズルとニュースサイトを見続けてしまったり、あまり緊急でないメールのやりとりに時間を取られてしまうことをシャットアウトできますから。気持ちもリフレッシュできて、「さあ、やろう!」という心を整えられます。

 

5分だけ集中することでその後に何時間もできることも

芸能人初のMENSA(IQで上位2%に入る人だけのクラブ)メンバーとなったお笑い芸人・ロザンの宇治原史規さんに、テレビ収録の際にお会いしたことがあります(彼がMENSAのメンバーとなった試験に私も立ち会いました)。彼もやはり、京大受験生であった時代に、勉強を始める前の工夫をされていたようでした。

宇治原さんがやっていたのは、勉強机の整理整頓。つまり、勉強に関係ないモノを机の上から取り除くということ。ノート、参考書、問題集、時計、筆箱などを、決まったポジションにまず置くのです。

決まった儀式を行うと、「これから勉強が始まるぞ」ということが脳に伝わります。勉強を始めるためのスイッチをONにするんですね。

しかし、「儀式」を行っても、どうしてもやる気が出ないときもあるかもしれません。そんなときは、どういう工夫をしたらいいのでしょうか。

まず、ちょっとだけガマンして、5分間だけ集中してやってみることです。たった5分間だけ、ガマンして勉強や仕事を続けてみましょう。そうすると、脳は勝手に勉強モードや仕事モードに入ってくれて、そのまま30分でも1時間でも勉強や仕事を続けていくことができるのです。

人間というのは、勉強や作業など、面倒なことに対して、最初はやる気が起きないもの。それでも一度始めてしまうと、意外にすんなりと進めることができる性質を持っています。つまり、勉強を始める瞬間の、「やる気が起きない」気持ちを取り払うことが、一番大事なのです。

とはいっても、それでも勉強や仕事のモードに入れないこともあります。そのときは、自分でも気づかないような疲労が溜まっている場合がありますから、あきらめて少し横になったりしましょう。休むことが必要なときもありますから。

 

一夜漬けは効率の悪い勉強法

私は、大事なテストの前日はあまり遅くまで勉強せず、しっかり睡眠をとるようにしていました。今でも、大事な試験などがある前日には、可能な限り休息をとるようにしています。

私とは逆に、試験の前日に徹夜などをして、集中的に勉強する人もたくさんいます。話を聞いていると、どうもこちらのやり方をする人のほうが、私のように寝るタイプよりも圧倒的に多いのかもしれません。

「一夜漬け」といわれますが、その名の通り、このやり方ではそんなにしっかりとは「漬からない」ものなのです。せっかく徹夜までして頑張るのに、これは脳の仕組みから見るととても残念な勉強法です。

試験でいい点数を取りたいと考えている人にとっては、「眠るのがもったいない」ということになるのかもしれません。でも、こうした覚え方をした記憶がちゃんと試験の場で活かせるかというと、実は非常に効率が悪いのです。「一夜漬け」の経験者はきっと実感しているでしょうけれど、意外と肝心のところで思い出せなかったりするものだろうと思います。

 

覚えたらすぐ寝たほうが記憶の定着が高まる

忘却曲線と睡眠の効果

アメリカの心理学者の実験で、学習後にすぐ眠った場合と起きていた場合とで、忘却率の比較をしたものがあります(図4)。上の線が、睡眠をとった場合の記憶の保持率、下の線が、睡眠をとらなかった場合の記憶の保持率です。眠ると眠らないとでは、こんなに大きな違いが出てしまうのです。

学習直後に睡眠をとった場合、最初の2時間でほぼ半分忘れますが、それ以降はさらに忘れることはほとんどありません。一方で睡眠をとらずに起きていた場合は、最初の2時間で記憶量は3割程度まで減少し、8時間経つと1割程度まで落ち込んでしまいます。

つまり、覚えた直後に眠ったほうが記憶の保持には良いということが明らかになったわけです。「テスト前にはちゃんと寝よう」という私の習慣が、これで科学的に裏づけされた形といえるでしょうか?

睡眠中に忘れにくいというのは、他の情報が脳にあまり入ってこないので、記憶の妨害がされないためであるといわれています。また、学習をあまり長時間続けると、心身共に疲れてしまい、能率が上がらなくなります。さらに、一気にまとめて反復するより、ある程度の時間をかけて、分散させて反復学習をしたほうが、記憶がより定着しやすいというデータも出ています(図5)。

したがって、学習後にすぐ睡眠をとるということは、心身を休めるだけでなく、記憶を固定させるという意味でも大切なことなのです。徹夜して勉強するより、規則正しい生活を心がけ、しっかり睡眠をとって本番に臨むようにしたいですね。

復習を行った時の忘却曲線

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