写真:下村一喜
同一司会者によるトーク番組の最多放送回数世界記録を更新し続け、これまでギネスに3度も表彰されている「徹子の部屋」。1976年に番組がスタートして以来、黒柳徹子さんが、ずっと大切にしている想いがあります。本稿では『本物には愛がある』より、黒柳さんがゲストと話す時に大切にされていることについてご紹介します。
※本稿は、黒柳徹子著『本物には愛がある』(PHP文庫)から一部抜粋・編集したものです。
「徹子の部屋」は生放送と同じ気持ちでやっている
――「徹子の部屋」は、ギネスにのるくらいの長寿番組になっていますね。
「徹子の部屋」を始めるとき、局の方に私が申し入れしたのは、生放送と同じにやってください。一切、編集はしないでください。編集すると雑になる。面白いところだけ残したら、その方がどういう方だかがわからなくなる。一週間にいっぺんの番組ならいいですけど。
編集するっていうことになれば、プロデューサーはここを残したい、私はここを残したい、ゲストはあそこをカットしてほしいって、そうなるから生放送と同じにお出ししますと。それでずっとやってきたんですけど。
私ね、この間考えて、すごいなと思ったのは、日本は契約の社会じゃないですよね。これまでゲストの方で、ただの一人も当日いらっしゃらなかった方はいないんですよ。これはね、やっぱりすごいと思いますよ。雨が降ろうが、風が吹こうが、ちゃんと来てくださるっていうことがね。
この間スタッフのみんなと話をしていて、日本人は、そういう信頼関係を大切にし、マネージャー、会社を信頼してお願いをしている。それが何事もなくですよ。私もそうですけど、ゲストの方も、当然のように来ていただけて続いている。これはやっぱりね、みなさまのおかげです。それと、ついていたとしか思えません。
高倉健さんが語り出すのを、じっと待ち続けた
そして、普段どんなに話をなさらない方でも、「徹子の部屋」では、ちゃんと話をしてくださるっていうことがね。それは私、ゲストを信頼していますから。嫌だったら、お引き受けにならないだろう。で、引き受けてくださった以上は、「話していただけるんですね」って、思っています。
――なかには、三日に三言のような無口な方もいらっしゃるんじゃないですか?
いらっしゃいますけど、やっぱり話していただけますね。
――生放送のつもり、とおっしゃっていましたけど、そうすると、時間は大体限られていますよね。30分、40分と。その中で無口な方から話を引き出すというのは、相当、忍耐のいることだと思いますが。
忍耐というよりはですね、私、そこは女優でよかったと思うんですけど。その方がじっと黙っていらっしゃるときに、これは話す気がなくて黙っていらっしゃるのか、嫌なのか、何か、いい答えを考えていらっしゃるのかっていうのは、その方の目を見ているとわかります。
その例に出していいかわからないんですけど、高倉健さんに出ていただいたとき、まあ、ずっと話してくださっていたんです。
高倉さんは故郷を出て、女の方を追いかけて東京に出ていらしてね。で、お金がなくなって、本当に嫌だと思ったけど、どうしても俳優をやるしかなくて、おしろいをつけたときに涙が出たって。「でもね、やっぱりそのときは金が必要でしたから。いまも必要ですけど」って、おっしゃったんです。
そこで、「いまも必要っていうのは、どういうときに?」って伺ったら、「そうですねえ......」っておっしゃって高倉さんが、1分以上ですね、黙っていらしたんですよ。これがラジオだったら事故になりますけど、テレビはお顔を映しているので。
そのとき私は横から見ていて、高倉さんという方は、映像でもつ方ですから、それで、これは絶対話してくださるのを、考えていらっしゃるんだって。1分か2分か覚えていませんが、相当、待ちました。
そうしたら「......やっぱり、幸せの追求のためですかね」っておっしゃったんですよ。そのときにぴったりのお答えだったんです。みんなが、「おお! 高倉健!!」って、お喜びになるような。
だから、そういうふうに待つってことも、やっぱりとても大事です。あまり相手を見ていないで質問しちゃうっていうことがあると、どんどん、ちぐはぐになっちゃうんですね。だから待つときは待つ。そのためのスタッフとの打ち合わせであってね。
本人にしかできない話をしてもらう工夫
ただね、もう、ここは飛ばしていいっていうところは、私が説明しちゃって飛ばし、重要なところだけ、お話を伺うようにするときもありますね。
――拝見していて、たまに黒柳さんがずいぶんとお話しになっているなと。インタビューの質問よりも、長いなということがあるんですけど、それはそういうときなんですか?
そうです。そのことを伺っていたら時間内に入らないから、そこは私が言っちゃって。「なぜそのとき、あなたはそうだったんですか?」ということが、一番、話していただきたいことなんですね。
だから、いろいろなプロセスは、私がお話ししちゃったほうが早い。ずっと伺っていると、そこにいかないうちに終わっちゃう。そのための下調べなんで。
ちょっと失礼ですけど、私が話させていただいて。それで一番話してほしい、ご本人じゃなきゃ話せないところ。そこをお話ししていただくっていうふうにしているんですね。
――そういう大変さはあるけど、でも、やっぱり生放送がいいと?
絶対ですね、それは私、生放送が好きですね。
――生放送を前提にした収録であっても、ということですね。
ええ、そうです。だからカットしたことは、ほとんど100パーセント近くないです。そのまんま。
編集したくないっていう私の気持ちは、そういうことからだったんですけど、いまになってみると、ゲストの方がほかでは話さないことを「徹子の部屋」では話す、とおっしゃるのは編集しないから。編集しちゃうと局の思惑とか、そういうふうになっちゃうじゃないですか。話したいことを、本当に話させてくれるっていう信頼感ですね。
そういうことがあって、みなさん、ほかでは話さないことを話してくださるんだっていうことがわかったので、編集をしないと決めたことは、よかったなと思いますね。
【黒柳徹子(くろやなぎ・てつこ)】
東京生まれ。東洋音楽学校(現・東京音楽大学)声楽科卒業後、NHK専属のテレビ女優第1号として活躍する。1976年にスタートした「徹子の部屋」(テレビ朝日系列)の放送は、同一司会者によるトーク番組の最多放送回数世界記録を更新中。1981年に刊行された『窓ぎわのトットちゃん』は、国内で800万部、世界で2500万部を超える空前のベストセラーとなっている。2023年には、その続編となる『続 窓ぎわのトットちゃん』が刊行された。1984年からユニセフ親善大使となり、延べ39カ国を訪問し、飢餓、戦争、病気などで苦しむ子どもたちを支える活動を続けている。